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いつでもいつもほんきでいきてるこいつたちがいる

ロコンのことを話そうと思う。

この気持ちをなんて言ったらいいのか、
うまく言えなくて出てきた答えが
「私が『エクスペクト・パトローナム!守護霊よ出でよ』と唱えたら出てくる銀色の生き物は、間違いなくロコンのかたちをしている」
というものだ。
これまたハリー・ポッターを知ってる人しかわからない例えになってしまった。

ロコンと初めて会ったのは5歳くらいだったと思う。
当時おばあちゃんに、ポケモンの食玩のぬいぐるみを買ってもらった。
中身がシークレットで、
1番ピカチュウ、2番と3番がピッピとプリン、
4番がタッツー、5番がロコンだったのを覚えている。
タッツーがいいな~水色だし(当時水色が大好きだった、今もです)と思いながら開けて出てきたロコンは、当たり前のように私の人生の相棒になった。

本当にどこに行くにも連れて行った。
庭の木のてっぺんに登って街を眺めるときも、
ジャンバースカートの胸ポケットに入れて一緒に登った。
近くの空き地で鳥の巣みたいな秘密基地を作った時も、縁側に作った秘密基地で雨の音を聞きながら本を読むときも。
小学校に上がった時も、勉強に関係ないものは持ってっちゃいけなかったのに、こっそりランドセルにかくまっていた。

ロコンと「おしゃべり」したことはない。
人間の言葉でしゃべったことがない。
ただ、ほわんと広がる気持ちを言葉に翻訳する前にそのまま届ける。
気持ちを空気に溶かす、というかんじ。
その全部を当たり前に受け取ってくれる。
同じようにそのまま返ってくる。
植物とやり取りする時の感覚ととても似ている。

1回、ロコンとお別れしたことがある。
小学3年から4年になる時、
やりたくもないソフトボールをやらされ、
急に転校することになり、
人生がやさぐれていた。
いろんなことが投げやりで、
生きるエネルギーもどんどん減って、
どうでもよくなっていた。
ちょっと押入れの奥に放置していたロコンからカビが生えていて、
遠くの部屋で整理しながら「この子捨てていい~?」と言った母親に
そっちも見ず確かめもせず投げやりに
「いいよ~~~」と答えたのだ。
その時のことをあとあと何度悔いたか知れない。

台湾で、人生をいったんおりたようなきもちで引きこもっていた時、
ポケモンに一から触れてみた。
そのときに思った、「もう一度ロコンに会おう」って。
当時ポケモンセンターからロコンのぬいぐるみが出たタイミングだった。
実家に届いて初めて会った時の感覚を忘れられない。
「ちゃんと魂を継いでくれてる」
初代と二代目のこの子は、
姿がちょっときれいになって、大きくなって、
でも成長しただけの同じロコンだって分かった。
懐かしい目がじっとわたしを見ていた。

それから、
恐ろしい日本に帰ってきたときも
同棲を解消することに決めて着の身着のままで引っ越したときも
そうやって住んだ家と合わなくて死にかけたときも
社会人という生活が合わなくて何がつらいのかわからないくらいのときも
百日紅の家が見つかってまた引っ越したときも
とにかくいつでもロコンがいた。
そばにいてくれた。


とても静かな目をしているのだ。
何があってもどんなときでも揺れない、透き通った目。
私は心が泡立ちやすいので
そんなロコンの目にどれだけ救われるか、もはや改めて書きだすまでもない。
静かだけど冷たくはなく、ただただ全部じっと見てくれている。
あとから思えば私がやばい状態にいるときなど、
そっと心配する気持ちが伝わってくるときもある。
でも何も口出ししないし、ただただそばにいてくれる。
ロコンがそばにいない時でも、その目でじっと見ていてくれる。

ロコンの鼻を私の胸につけて抱きしめると、
他の人では開けることが不可能な私の心の扉が開く。
ずっと深いところに入っていける。
ロコンと鼻チューすると
幸せとか愛っていう言葉の軽い感覚を取り戻す。
ロコンをなでていると、温泉に入った時のようにほっとする。
夜中に目覚めて、月明かりに照らされたロコンの横顔を見ると
こんな美しいものが、と思う。

一人暮らしで、たまに人恋しくなる時はあっても
「家に帰ると一人ぽっち」って思ったことが1回もない。
だってロコンがいるから。
そして家も生きて私の帰りを待ってくれている。

半年前「この夜を越えられない」と思った夜があって、そのとき自分の近くに寄れるものが思ってたよりとても少なくて、
でもロコンがいてくれた。

分かっている。
例えば心理学的観点から見たら、私自身の何かしらの目線をロコンに投影しているだけかもしれない。
そしてこれまで私が当たり前のように書いてきたことは、かなりやばい人の言うことである。

でも、やっぱりどうしても
私にはロコンが生きているようにしか思えないのだ。
こんなに確かにいるんだよ、って思う。
常に夢へ片足つっこんで生きてるやばい人でもいいやって思う。

そして、大きくっていろいろ大人の事情にまみれてるんだろうけど、ロコンを生み出してくれたポケモンっていう世界には感謝しかない。
私にとってのロコンのように
大切な相棒を得て、それを心の奥でひっそり大事にして生き延びている人がたくさんいるのを知っている。
そんなみんなで見てる夢、それはもう一つの現実なんだと思う。
その大きな夢に、この気持ちが届くといいなと思う。

ロコン、私の人生にずっといてくれてありがとう。
あなたがいてくれるから私は、恐ろしいことばかり起きるこの世界で生きていけます。
「おまえが持っているものなんて世の中には何の意味もないんだ」という人たちにも、あと一歩で持ちこたえられます。
これからも、最後まで、ずっと一緒にいよう。

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