父とバナナ
母が認知症になった後も、父は母を毎週、買い物に連れて行きました。父も介護が必要な状態でしたが、懸命に母の介護に参加してくれました。
父が毎回買ってくるものに、バナナがありました。私は、実はバナナがあまり好きではありません。食べられますけど、食べたいと思ったことがありません。父母も食べないので、毎回くさらせるばかりでした。
ある日、父が私に言いました「あんた、バナナ食べていいんだよ」
びっくりしました。父は私が遠慮してバナナを食べないのだと思っていたのです。
今はどうか知りませんが、昔は、遠足に持って行けるおやつの額が決まっていて、私の少し上の世代は「バナナはおやつに入るのか?」ということを真面目に議論していました。私はバナナに興味がないのでどうでもいいと考えています。
しかし、調べてみると、父の時代ではバナナは舶来の高級な貴重品だったのです。戦時中など一切、バナナは国内に入らなかった時期があるのです。露天でバナナのたたき売りがあったように、戦後の歴史はバナナの価値の暴落の歴史だったのです。
父としては、介護をがんばっている私に、ご褒美としてバナナを買ってやっているつもりだったのです。迷惑な。
仕方がないので、父の機嫌をとるために、私は好きでもないバナナを毎日食べていましたよ。被介護者の機嫌がいいか悪いかは、介護のあらゆる場面に影響を与えます。
同居介護というのは、こういう作業も含みます。
イラスト by おしょうゆ
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