好きな曲が嫌いになる
認知症の母の介護をしていた時、私は時間を決めていろいろな介護をしていました。何時に起こして、何時にトイレに連れて行って、何時にデイサービスのお迎えが来て、何時に帰ってきて、何時に食事をさせてとかいうことです。
スマホのアラームに好きな曲を設定して、その曲に合わせて介護を始めていました。
認知症介護というのは嫌な作業の連続です。親の食事やトイレの介助というのは楽しいものではありません。毎日、何年も続いたら地獄です。スマホからその音楽が鳴るたびに、自分の時間が終わり、介護に従事しなければならないと思うのもつらいです。
貴重な自分の時間に、スマホにダウンロードしている音楽をシャッフルして聞いていると、偶然、母の介護を始める音楽が鳴ることがあります。ハッと体が反応して「介護を始めないと」と感じるようになりました。本来、私は好きな曲を選んでアラームにしていたのに、介護と結びつけたために、その曲が嫌いになってきてしまいました。
現在、母を施設に預けて数年になります。今、私がそれらの音楽が好きかどうかというと、実はどの曲をどの介護のアラームにしていたか覚えていないのです。好きな曲は好きな曲に戻りました。
よかったです。親の介護に使っていた曲だから、その曲がずっと嫌いなままになるのだったら、作曲したアーティストに申し訳ないです。
今から考えると、好きな音楽のおかげで介護が続けられたのかもしれません。アーティスト達は実質的に役に立つ仕事をしていますよ。
イラスト by mounel