ふすまが震える

ふすまが震える


 私が中学生の時、同居していた父方の祖母が他界しました。私にとっては初めての近親者の葬儀でした。でも中学生ですからね。人の死の事なんて真面目に考えていなくて、目の前で起こる珍しいことばかり気にしていました。
 死んだその日に、地元の若い和尚さんが家に来て、お経をあげました。これを枕経というそうです。
 その和尚さんの声が、すごくいい声で、しかも大音声でした。そして文字通り、祖母の部屋のふすまが震えたのです。私は人間の声で、ふすまを振るわせる事ができるという事に驚きました。後に、小説などで「ふすまが震えるほどの大音声・・・」とかの表現が出てくる度に、これはたとえではなくて、本当に起こる現象なのだと、その和尚さんのことを思い出したものです。
 通夜、告別式は近所のお寺で行われました。不謹慎なことに、私はその和尚さんのお経を楽しみにしていました。あの大音声がもう一度聞けるのだと。
 しかし、当日ガッカリしました。
 確かに、その若い和尚さんは来ましたが、別の年配の僧侶と一緒で、2人で声を合わせて読経したのです。そして、若い和尚は年配の僧侶に合わせて、声を抑えていたのです。ついに大音声は一声も発せられることなく、出棺となりました。
 当時、私は中学生。年配者に配慮して、若い人が実力を出せないのを歯がゆく思っていましたが、最近考え方が変わってきました。
 声を合わせることが大切なのです。ライブならソロのパートもあるでしょうが、きっと、お経は老若2人の僧侶が声を合わせて唱えることが大切なのでしょう。
 私もそろそろ老境。若い人の足を引っ張らないようにしないとなぁ。
イラスト by レナ

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