ルーン文字

　ルーン文字とは古代ゲルマン人の間で使われた文字です。私の大学院時代の副指導教官は日本におけるルーン文字研究の権威でした。
　このルーン文字というのは、私の世代にはなじみのある言葉で、ファンタジー作品でミステリアスな文章や呪文というのはだいたいルーン文字でした。
　副指導教官の先生からこんな話を聞きました。
　ある日、映画「ガメラ」の撮影スタッフが先生を尋ねてきたそうです。物語の設定で、「ガメラ」に関して古代文章が発見されて、それがルーン文字だという事にしたい。ルーン文字を教えてほしいという要件でした。
　先生は人がいいですからね。スタッフに渡された日本語の文章を、古代ゲルマン語に訳して、ルーン文字に起こして紙に書いたそうで。役者さんが読むかもしれないので、カタカナで読み仮名を書いてあげたそうです。親切ですね。
　そして、公開された映画を見ると、残念ながら役者さんが古代ゲルマン語を発音してくれるシーンはありませんでした。
　でも、撮影スタッフは気を使ってくれて、古代文章を読むシーンは、先生が送った紙をそのまま使ってくれたそうです。表に書かれている紙の内容は映してくれなかったそうです。役者がその紙を手に持って読んでいるシーンはあって、その紙は確かに先生が送った紙だったそうです。
　気になりますよね。私は聞きました。「そういうときの謝礼はいくらくらいもらえるもんなんですか？」
　すると先生、笑いながら言いました。
「まんじゅうを一箱もらった」
　真にアカデミックな仕事というのは、お金にならないものです。

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イラスト by SuccessfulWitch