エアそろばん

　私が子どものころ、同級生の多くが習字教室か、そろばん教室に通っていました。私は習字教室に通っていました。
　中学生の時、生徒会の仕事をしていたら、計算しなくてはならない場面がありました。いまならば携帯やスマホの出番でしょうが、当時はそんなものはありませんでした。電卓も職員室にしかありません。高級品ですから借りられません。
　私は学校で習った通り、紙に書いて計算しようとしました。すると、友人の一人が「俺、計算するよ」と暗算を始めました。彼はそろばん教室に通っていたのです。その暗算の様子が、ちょっとおかしいのです。
いいですか？　その場にそろばんはないんですよ。しかし彼は手を中に浮かせ、そろばんをはじくように指を動かし始めたのです。エアそろばんです。そろばんを知らない私は大爆笑でした。
しかし、彼の暗算の結果はいつも正しいのです。
そろばんをやっていたみなさん。みなさんはまだできますか？
生徒会の仕事は、計算を必要とする場面が結構あるのです。計算問題が出るたび、私たちは彼に暗算を頼みました。
私は疑問に感じました。暗算は脳でやっているのですから、指は関係ないのではないか？
　しかし、彼に聞くと、指を動かさないと暗算ができないのだと言います。信じられませんでした。実験が必要です。
ある日、その暗算の途中、しきりに動く彼の指を軽くはたいてみました。
彼は叫びました。
「わからんくなったがや！」
　エアそろばんは、そろばんをイメージして計算しているので、はたかれるとわからなくなるのですね。
　エアギターをやっている人も同じかもしれません。気持ちよくギターを弾く動きをしている手をはたいたら。
「わからんくなったがや！」と言うかもしれません。
　みなさん、頑張っている人の邪魔をしてはいけません。

English
イラスト　by　 freehand