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6月26日、東京で1番暑かった場所で、1番輝いていた014。

この日の東京は、まだ6月だというのに太陽が燦々と輝いていた。
そんな東京、いや神宮球場で、4年もの暗闇の中で耐え続け、太陽以上に輝いた男がいた。
その名は、小澤怜史。
4年もの間、一軍で投げることが叶わない育成選手だった。
20歳から24歳、おそらく若さのピークってこの時だと思う。
それをケガでふいにしてしまった。
でも、諦めることなく、腕を振り続けた。
もし、野球の神様がいるのなら、これを見逃すわけがない。
そう見逃すわけがなかった。
6月26日、これまでの活躍が認められて、とうとう自らの力で支配下登録選手を勝ち取った。
さらに一軍昇格も決めた。
さっそく4年ぶりに一軍のマウンドに立てるチャンスを手にしたのだ。
しかし、小澤が登板するということは、負けている場面になること。
いきなり勝っている場面で投げさせることはないだろうと踏んでいた。
ということは、現地観戦するオレにとっては、スワローズの圧倒的な勝利を見たいので、できれば小澤がマウンドに立つのは見たくはなかった。
家を出る前のオレの正直な気持ちだった。
今思えば、なんとアホな気持ちだったんだろうか。

試合は、序盤からジャイアンツのペース。
先発スアレスがまったく良くない。
初回に3点を失うと、3回にも2点を失い、さらにノーアウト満塁という大ピンチ。
ここで小澤怜史が登板。
この時のオレはというと、久しぶりの一軍での登板なんだから、正面からぶつかってこいよ。打たれようとかまわない。と思っていた。
でも、それは彼にとって、とても失礼だった。
なんと久しぶりの一軍のマウンドで、無失点に抑えた!
まだ背番号70のユニフォームが間に合わず、育成時の014(名前の怜史からついたのだろうか)を背負い、わずか10球。
そんなほぼ完璧だった10球を後ろで見守ってきた野手が黙っているわけがない。
先頭の塩見がヒットで出塁すると、キャプテン山田哲人がタイムリー、ベテラン青木宣親もツーベース。
さらに小澤の球を受けていた中村がフォアボールを選ぶと、オスナもタイムリーでたちまち1点差。
ここで終わらないのが、首位を独走しているスワローズ。
ツーアウト1.3塁の場面で打席に立つのは、目下売り出し中の長岡秀樹。
代わったばかりの今村のストレートを力強く振り抜いた打球は、スワローズファンが待つライトスタンドに入るスリーラン。
4点差を一気に逆転に成功した。
野球というかスポーツには目に見えない「流れ」というものがあると思う。
絶対絶命のピンチだったのにも関わらず、たった10球でジャイアンツ打線を封じ込めた小澤は、明らかにスワローズに流れを呼び寄せた。
その後、お互いにゼロを並べていくも、4イニング目となる6回に日本球界を代表するバッター、中田翔と丸にホームランを打たれてしまい、同点に追いつかれてしまった。
それでも後続を抑えて、途中降板することなく、小澤は4回3安打6奪三振と想像以上のピッチングを見せてくれた。
プロ初勝利とそこまではうまくいかなかったが、見事な内容だった。
その後は再び点の取り合い。
試合を決めたのは、スワローズの4番、村上宗隆。
8対8の同点の8回裏、平内の外角の球をバットにうまく合わせると、その打球は左中間スタンドへ。
この村神様の一撃が決勝点となり、11対10の乱打戦を制した。
野球の神様は試練を与えたが、それを乗り越えた小澤に、チームメートの神様はしっかり応えてくれた。
6月26日、暑かった東京。
そんな東京の中でも、1番暑かったに違いない神宮球場で最も輝いていた男、小澤怜史だった。

あの興奮から早いもので1週間が経った。
7月3日の今日は、先発投手として神宮球場で投げる。
もう014の背番号ではない。
実力でもぎ取った70の背番号を背負って。
まっさらなマウンドから、今日はどんな好投を見せてくれるのだろうか?
ベイスターズ打線も強力だが、今夜こそ勝利投手となって先週以上の輝きを見せてもらいたい。

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