僕が漫画村を批判しない理由

今更ですが「漫画村」という海賊サイトが話題です。

サイトでは多くの漫画雑誌、作品が出版社や漫画家の許諾なく公開されています。
ユーザーはそれらを無料で無限に読めるとあって、漫画界隈では大きな問題となっています。普通に考えると違法サイトですが、サイト運営者は「漫画村内のサーバーには画像を保管していないので違法ではない」「運営は海外なので日本の法律は適用されない」などと主張しているようです。

当然のことながら、多くの漫画家たちはこのサイトに強い拒否反応を示しています。「撲滅すべし!」という意見もよく見かけますし、SNSに少しでも肯定的な意見を書き込もうものなら人格を全否定されます。袋叩きです。各作家のファンを巻き込みネガティブキャンペーンへと発展している状態です。違法っぽいし僕も別に肯定はしません。
しかし、このままサイトへの批判が続いた場合、誰が一番得をするのでしょうか ?

漫画に限らず、違法なデータが流通するサービスはいつの時代にも存在します。Youtubeは昔は違法コンテンツが溢れる悪質なサイトと言われていました。(今も?)音楽ではGroovesharkというストリーミングサービスがありました。Napsterなんてのもありましたね。ミュージシャンが団結してサービスの停止を訴えたりして。
違法性のあるサービスが問題になればなる程、合法的なサービスの整備が求められ、今ではApple musicやGoogle Playなどの定額聴き放題サービスがそれに取って代わっています。それでミュージシャンはCDの時代より儲かるようになったのかな?

漫画で言うと、昔、ブックオフは業界の敵でした。中古本が大量に取引され、その収益が著者にも出版社にも一切入らないということで、業界全体でネガティブキャンペーンを実施しました。各漫画誌には「ブックオフを利用すると漫画文化が衰退するので買うな」という趣旨の誌面広告が打たれ、漫画家と出版社が一緒になって集会を開きました。壇上では弁護士が「ブックオフは法的に見て問題がある」と説明し、「新古書店を放置した韓国では漫画文化自体が滅んだ」という内容の洗脳ビデオを観せられ、質疑応答では質問そっちのけで「ブックオフは他人の土俵で商売して1銭も払わない泥棒だ!違法業者だ!」と糾弾がなされました。ブックオフの存在によって新刊の売り上げが下がるという説明もありましたが、当時の出版データを確認すると、実際には新刊の売り上げは微増していたようですね。

さて、漫画家と一緒に戦ったはずの出版社は、今ではブックオフの株主です。今、流行りのピッコマやLINEマンガは韓国出身企業の運営です。漫画家からすれば「あのキャンペーンは何だったんだろう?」と疑問に思うところです。

5年前には紙書籍のデータ化を手助けする「自炊代行業者」を違法業者と断定し、業界全体でネガティブキャンペーンを実施しました。その過程で出版社は「自炊代行業者を著作権侵害で訴えることをできるのは著作権者である漫画家だけだ。今後、違法業者に対抗するには著作隣接権を出版社に与えるべきである」と主張し、その内に「電子出版権」なる珍奇な概念を作り出しました。出版とは「紙に情報を印刷して広く流布すること」を指すので、電子書籍は出版の範囲に含まれません。
今では漫画家は出版契約を交わすとき、出版社に対して電子書籍配信の権利も独占的に認めなくてはならなくなりました。(契約書ドラフトに電子書籍配信権を独占的に認める条項があり、交渉の余地があるはずだけど、現実的にはその条件は外してもらえない)多くの漫画家は「著作権は持っているけど、出版社の許諾がなくては一切作品を動かせない」という状態です。僕は電子書籍配信を含む著作権管理をすべて自分(と自分が代表を務める会社)で行なっている数少ない漫画家の1人です。

漫画村を糾弾して誰が一番得をするのでしょうか?
まず、漫画家は得をしません。「違法サイトを取り締まれるのは出版社だけだ」ということで、出版社が再び著作隣接権を主張し始めるかもしれないし、電子出版権のような新たな概念を作り出すかもしれません。
あるいは既存の読み放題サービスがこんなことを囁くかもしれません。「このまま違法サイトを野放しにしておくと漫画は衰退してしまいます。だったら、ウチに合法的にコンテンツを流しませんか?違法サイトを駆逐できるのはそれ以上に便利な合法サービスだけです」漫画家は違法サービスを駆逐したいがばかりに、作品を安く買い叩かれてしまうかもしれません。僕にはこのネガティブキャンペーンがKindle unlimitedの営業活動に見えてしまうときすらあるのです。

漫画家の皆さん、問題のあるサイトを叩くことは簡単ですが、その前に権利は自分の手元にあるでしょうか?いつ漫画村の存在に気がつきましたか?報道される前から、編集者から伝え聞く前から漫画村を知っていましたか?Youtubeで非正規っぽいアニメを観たことはありますか?xvideosを観たことはありますか?関係ないけど、先日、環八で赤信号で停車したら、隣のドライバーがモニタでAV観ててビビリました。

2年前、僕の作品がいろいろな電子書籍ストアでランキング上位を独占した時期がありました。(「電子書籍は漫画家の希望となるか?」 )当時、海賊サイトがこぞって僕の作品をばら撒きました。彼らも効率的に稼ぎたいので、電子書籍ストアのランキングなどを参考にデータを流しているのです。
その結果どうなったかというと、その後の売り上げにはまったく影響がありませんでした。今も毎月数百万円を稼ぎ出してくれています。ですので、巷で言われている「彼らの影響で正規版の売り上げが大きく下がった」という説については懐疑的です。少なくともエビデンスを示せる人はいません。出版は元々右肩下がりです。

漫画村は「よくある海賊サイト」というのが、僕の印象です。もちろん、それが過小評価という場合もあるかもしれません。だけど、ネガティブキャンペーンが行われる時、その陰には目的を持った人たちがいます。感情的になればなる程、その目的に利用されてしまうのではないでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?