ブランディングとデザインの関係

4年前から明星大学デザイン学部で、ブランディング論という授業を担当している。以下がシラバスに書いてある授業概要。

ビジネスに必要なマーケティングとブランディングについて考察する。まず、各種の市場ニーズ調査、消費行動、嗜好調査、商品販売、広告戦略、新製品の受容予測等、必要型、欲求型のマーケティングの考え方や知識を学ぶ。次に、企業や製品等と顧客や消費者との間に、理想的な関係を構築するブランディングの手法について学ぶ。企業戦略を基に、視覚的要素を中心に据えた、商品デザイン・広報・宣伝・販売・文化活動などへの展開を実例をもとに理解する。

ぼくが授業を担当する以前から、この授業概要は存在していて、「仕事につながるデザイン」を身につけるデザイン学部の3年生後期のビジネス科目のひとつとして位置付けられている。

ぼく自身は、デザイナーではなく、美大を卒業して以来30年以上にわたって、デザインの力をどう社会に活かしていけるかを模索して、実践してきた。多くの優秀なデザイナーともたくさん仕事をしてきた。そうした中で、ビジネスとデザインの関係を、ずっと考えてきた。その話をここで書き出すと長くなりそうなので、ここでは、ブランディングとデザインの関係について、少しだけ書いてみたいと思う。

ややっこしいことに、ブランディング論の授業なのに、マーケティングのことも教えなければいけないことになっている。経営学部であれば、当然のように学ぶマーケティング。実は、ぼくは、美大のデザイン学科で、マーケティングという言葉を耳にすることがなかった。というより、意識の外にあった。そもそも、ビジネスや経営ということを考えたことがなかった。

正直に告白すると、10年以上前に、ある専門学校で、マーケティングのことを少しだけ話をしなければいけないことになり、数冊の本を読んだくらいだ。仕事の中で、マーケティングの専門家と出会うことはあったけど、いっしょに仕事をしたいと思えるような感じの人ではなかったし、いっしょに仕事をしているデザイナーからマーケティングの話がでることは、ほとんどなかった。むしろ、デザイナーから、マーケティングを嫌悪しているとさえ思える発言も少なくなかった。

「市場調査から新しい発想はでてこない」              「消費者のニーズやデータより、自分の感覚を信じる」

という感じ。

この授業で、マーケティングのことを教えないといけないことになり、あらためて知ったことがたくさんある。そして、後悔している。なんで、もっと早くマーケティングという考え方や手法を学ばなかったのかと。マーケティングは、商品を売り込むための手段というよりも、世の中の人が本当に欲しているものをきちんと届けるための方法だった。そんなあたりまえのことさえわからないほどに、ビジネスの世界で語られる売るためにどうするかという表面的なことばかりに目を奪われ、マーケティングの本質を知らなかった。

学べば、学ぶほどに、ブランディングは怪しい。マーケティングは信じられる。という思いが強くなってきた。どうしよう、こんなことで、ブランディングのことを学生に伝えることができるのだろうか。ブランディングとデザインの関係をどう教えたらいいのだろうか。そんなモヤモヤが増えていった。

2000年以降ぐらいから「ブランデイングの仕事をしています」というグラフィックデザイナーの声を聞く機会が増えた。最初は、どんな仕事なのかうまくつかめなかった。よくよく聞いたら、ブランドのロゴやマーク、それに付随するパンフレットやウェブサイトをデザインしているということだった。ブランディングの仕事ではなくて、ブランディングに必要なビジュアルをつくっているという意味だった。

平成からのモノが売れない時代。新しいサービスが増えている時代。少子高齢化の時代。そんな時代に、ブランディングが魔法のように語らえている。売れないのは、ブランディングがうまくいってないから、ファンを増やすには、ブランディングが必要。そうして、なんちゃってブランディングがはびこり、そこにグラフィックデザイナーが駆り出される。

なんとなく、それっぽいロゴやビジュアルで、雰囲気をよくすることが、さもブランディングしたように思われる。いやいや、そうじゃないですよね。そんなことでは何も変わらない。表面を飾ったり、ちょっとオシャレにしたって、内面や本質は変わらない。ブランディングで大事なのは、つくる人とつかう人の関係をしっかりとつくること。

そのためのブランディングのために必要なデザインは、表面的なデザインだけじゃなくて、根底から考えて、ビジョンを言語化して、関係者の意識を変えて、持続的に続けられる関係をつくり、時には変化しながら継続すること。狭い範囲のデザイナーだけにできるような仕事じゃないんです。

80年代に流行ったCIとかVI。コーポレイトアイデンティティやビジュアルアイデンティティ。そうした考え方や手法が、90年代に、いつのまにかブランディングという言葉に置きかわる。それはそれで、進んだような気もするけど、実は、退化して、安易になったような気もしている。

どうもブランディングは、デザインの力だけでなんとかなるものではない。デザイナーがブランディングに関わるとしたら、ビジュアル面や見える化が活かせるようなチームをきちんとつくり、本質から議論して、多くの関係者を巻き込み進めていくしかない。それか、ビジネスやマーケティングにも精通したスーパーデザイナーの登場を待つしかないのかもしれない。

ブランディングとデザインの関係。

この続きは、お酒でも飲みながら、ゆっくり議論したいです。



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