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Basecampから学ぶリモートワークにおいて意識すべき点

Basecamp社は文化などが色々尖った企業として、海外のテック界隈の中でも特にフリーランスの開発者(Maker)やスモール開発チームのようなIT企業の間で有名です。共同創業者であるCEOのJasonとCTOのDHHは共にTwitterのフォロワーも多く、ソフトウェア業界ではインフルエンサー的な人物です。

彼らは2010年より前からずっとリモートで仕事をしており、リモートワークという分野ではたぶん世界でも超アーリーアダプター。そして事実、REMOTEという本まで書いています。(日本語版は「強いチームはオフィスを捨てる」で、Amazonでも売っています。)

今回はそんなBasecampの2人から学んだリモートワークとオフィスワークの違いや、リモートワークをうまく機能させるためにチームや企業として意識すべき点をまとめました。

ここでは主に経営者等の経営陣、あるいはマネージャーレベルへのTipsとなっています。

オフィスワークをそのままリモートワークにあてはめない

原点として、オフィスワークとリモートワークは働き方が同じではないということをしっかり理解することが大事です。

例えばオフィスワークの時のようにランチを食べながら会話するということはリモートワークでは難しいでしょう。なのでそもそもオフィスワークでの当たり前をそのままリモートワークに適用することは基本的にはアプローチとしてはあまり得策でないように思います。

他にもオフィスだとみんなの顔が見えているからという理由で、リモートになっても常にカメラをオンにしておくことを強制したりする企業もあるようですが、これは間違いだとBasecampのJasonは語っています。

オフィスワークにも良い点悪い点があるように、リモートワークにも良い点悪い点があります。トレードオフは必ずと言っていいほど発生します。オフィスワークにはリモートワークではできないことがあるように、逆にリモートワークにはオフィスワークではできないことがあります。そもそも2つは似て非なるものとして理解するマインドセットがスタート地点として必要です。

もちろん、オフィスワークにもリモートワークにも共通する点があることも確かなので、全てが異なるのではなく、異なる部分もある、という理解が一番いいと思います。

小さい子供がいるメンバーには特に配慮を

経営陣やマネージャーの中に小さな子供がいる会社であればここら辺はかなりイメージしやすいと思いますが、リモートワーク以前に小さな子供のいるメンバーには特にいつも以上に寛大になるべきです。

リモートワークの場合は例え仕事中だとしても、家にいるということで色々と子供の世話を積極的にすべき場面も(男性女性関係なく)増えるはずです。そういったメンバーの家庭環境を最大限に考慮した、期待値設定や計画、配慮を忘れないようにしたいところです。

そしてコロナのようないわゆるパンデミックにおいては、さらに寛大になる必要があります。子供を保育所やシッターなどに預けることができない場合は、もはや寝ている時以外は仕事なんてできるような状態ではないことも多々あります。そういった状況をしっかりマネージャーや経営陣に限らず、みんなが理解することが大切です。

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非同期コミュニケーションをメインに

多くの人は集中して何かに没頭しているとき、それを何らかの形で強制的に(一瞬であれ)止められるのをあまり気分がいいとは思いません。

そして何よりクリエイティブで価値のある仕事というのは多くの場合数時間集中して取り組んでこそ、成果のでるものです。それを15分や30分おきにチャットやオンラインミーティングで分断されてしまってはなかなか集中力が続かないということになりかねません。

もちろん、リアルタイムで複数人で議論をすべきときや、どうしてもテキストベースではメンバー間で理解が進まないときなどは音声や映像ベースのコミュニケーション方法をとったり、今すぐに回答が必要な緊急の場合はチャットコミュニケーションも全然ありだと思います。face-to-faceはラストリゾートであってファーストリゾートではないとBasecampのJasonは語っています。

上記のような音声や映像、チャットでのやりとりがどうしても必要な場合以外は出来るだけテキストベースで、言いたいことや説明をある程度の時間をかけてまとめ上げて「書く」こと。そしてそれを共有し、相手は自分のタイミングでそれを「読む」。返信が必要な場合もしっかり考える時間を設けてから回答する。これで一つ一つのコミュニケーションの質が上がるはずです。

ツールとしてSlackなどのチャットベースのコミュニケーションツールを使う場合は、邪魔されたくない、集中して何かに取り組みたい時は Do not disturb などのステータスを設定するといったルールをチームで設定し、気軽に声をかけていい時とそうでない時が相手にわかるようにする工夫があった方がいいかもしれません。

とりあえずここで大事なのは、リモートワークは非同期コミュニケーションを基本として理解し、場合に応じてチャットやビデオ会議ツールを使い分けるというスタンス、そしてメンバー全員が集中して仕事に取り組めるようなルール作りです。

コロナ禍での小さな子供がいる家庭だけではなく、平時であっても急に診療など用事ができることもあると思います。常にどのメンバーもリアルタイムのコミュニケーションに参加できるとは限らないということを念頭に、日頃から非同期のテキストベースのコミュニケーションを習慣づけることが大事です。特にクリエイティブな職種は、皆が集中して働ける仕組み作りが最終的にチームや企業の成果物のクオリティーとしてペイバックする可能性が高いです。

仕事以外の交流の機会も

リモートワークで物理的に一人で日々仕事をしていてもほとんど寂しくならない人もいれば、オフィスで働く時のようなメンバー同士の何らかの仕事以外の交流を欲する人もいます。

そのため、リモートであっても例えばオンラインゲーム大会であったり、(仕事以外の)トピックを決めて集まって話すsocial hourのようなZoomイベントを催すなりして、物理的に離れていてもチームや会社としての一体感を損なわないような工夫が求められます。

Basecamp(プロダクト)には毎週月曜日に、週末何をしたか簡単にシェアするという機能があり、そこからメンバーの知らなかった趣味が知れたり、それぞれ役立つ情報が知れたりといった機会になっているそうです。これは上にあげたZoomイベントのようなものとは少し異なる、非同期のテキストベースの工夫と言えます。

この他にもオフィスワークと同様に、何か悩み事や不安がある時に相談できる場所や空間、仕組み、福利厚生など、リモートワークで問題となりがちなメンタル面でのリスクを事前に洗い出し、できる限りの対策を講じることも大事です。リモートワークではオフィスワークのように日々みんなの顔をみるということができない分、いつも以上に細かな気遣い、そして上にあげたようなソーシャルな交流イベントでの気付きなどが重要になります。

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オンライン会議はできるだけ少人数で

face-to-faceのリアルタイムなコミュニケーションは本当に必要な時だけにすべきということは書きましたが、ミーティング自体も出来るだけ少人数が理想です。これはリモートワークに限ったことではありませんが、例えば1時間のミーティングであっても5人が参加する場合、企業としては5時間分の就労時間を割いたミーティングになるのです。

またそれ以前に、多数の人の顔が並んだ画面で一人ずつ会話していくこと、そしてその間それを他の人が聞いていることは、今のテクノロジーでは残念ながら物理的に集まるミーティングよりも明らかに非生産的になるはずです。会話のテンポがやはりオフラインのように自然にはいきません。

情報共有がメインの会議は出来るだけ非同期のテキストベースでの共有に切り替え、ディスカッションなどが必要な場合に限り会議を行う。そして必要最低限の人数で行う、ということがポイントになります。

リモートとオフィスワークを両立する場合はデフォルトリモート思考を

コロナを機にリモートワークへのシフトは加速すると言われていますが、とは言えこれまでのようなオフィスワークにも代替しがたいメリットは多く、引き続きオフィスワークをメインとする企業は多いはずです。そこで予想されるのは、できる企業から順にオフィスとリモートのハイブリッドになっていくということ。

そういった2つの働き方が共存するハイブリッドなワークスタイルがはたして本当に良いかといった議論は一旦おいておき、もしそのような働き方となった場合、大事なのはオフィス主体のデフォルトオフィスワークではなく、あたかもみんなリモートかのような「デフォルトリモート」という考え方です。これはリモートワーク側の疎外感をなくす意図があります。

例えばブレインストーミングやワークショップなどの場合、オフィス側の人間だけで盛り上がったり、使用するツールによってはオフィス側とリモート側でアクセスできる情報に格差ができてしまったりといった問題が懸念されます。

このようにオフィスとリモートのハイブリッドの場合では、リモート側を仲間外れにさせない工夫が必要です。

意外にも働きすぎる場合もあるので注意が必要

リモートワークではTrust(信頼)が論点になることが多々あります。上司がリモートで働きを監視するかのようなシステムも売られています。まず前提として、もし監視的なツールを検討している場合は、信頼できない人を雇って大切な(はずの)仕事に従事させることにそもそも色々問題があるはずなので、そこを再度考え直すべきということ。

そしてそのようなツールが導入されておらず、基本的にメンバーを信頼して行われるリモートワークの場合、責任感の強い人だとパソコンがあればいつでもどこでも仕事ができてしまうということから、ちょっと遅くまで、とか、寝る前にちょっと、というように(意外にも)決められた就業時間以上に働いてしまうケースも実際あるようです。(ここでは会社のVPNにアクセスできなくて...などというケースは一旦外して。)

なので経営者やマネージャーとしては、例えリモートワークであっても皆が決められた時間に「集中して」仕事ができ、オーバーワークしすぎないようマネジメントすることが大切になります。

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最後に

BasecampのCEOのJasonは今から10年も前の2010年のTEDでオフィスの問題点について語っています。

ここで彼は、オフィスではコンスタントに集中力が中断されること、クリエイティブな仕事や本当にしっかり頭を使って考える作業は長時間邪魔されることなく集中する必要があること、そのような集中する作業は睡眠と似ていること、マネージャーとミーティング(M&Ms)がオフィスで仕事が片付かない大きな要因であること、などを語っています。

「本当に集中して仕事をしたい時、どこにいきますか?」という質問に対してオフィスと回答する人はほとんどいない、というかなり本質的な問題提起から始まるこのTEDトークは、17分ほどでコンパクトにまとまっており、非常に示唆に富むものなので個人的にオススメです。

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