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存在しない日テレ報告書の内容に怒るインターネット

朝起きる。Twitterのトレンドを見る。「日テレの報告書」という語句が入っている。タップする。

6月1日。午前10時5分。「日テレの報告書」というワードで<話題のツイート>を表示すると、以下の5つのツイートがトップに表示された。

この5つのツイートには、日テレが制作したドラマ『セクシー田中さん』の制作過程を調査した報告書に対する怒りが綴られている。

しかし、この5つのツイートのうち4つのツイートが記載している怒りの内容は、報告書のどこにも存在しないか、かなり捻じ曲げられている。

ツイート①

このツイートで添付されている画像は、日テレHP上で公開されている報告書のうち、<別紙3>として公開されていた内容である。

https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/20240531.html


<別紙3>には、漫画家・脚本家・プロデューサーと3つの職種の有識者からのコメントが掲載されている。報告書本編とは独立した内容で、ここに掲載されている内容はすべて外部の有識者のコメントである。

https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/pdf/20240531-5.pdf 
https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/pdf/20240531-5.pdf 


ツイートでは以下のように書かれている。

原作者が一人死亡しているのに、日本テレビのプロデューサーが「これで怖がっちゃいけない」とか「社員ができるだけクリエイティブに」とか「それを恐れていたら駄目」とか、これからも同じトラブルを起こす気マンマン。

このツイートに添付されている内容は外部有識者のコメントであって、日本テレビプロデューサーの発言ではない。

”「これで怖がっちゃいけない」とか「社員ができるだけクリエイティブに」とか「それを恐れていたら駄目」とか”言っている日本テレビのプロデューサーはどこにも存在しない。

存在しないけれど、ツイートは2.5万リツイートされ、みんな怒っている。

同じような内容のツイートはたくさんある。このツイートでも、外部の有識者のコメントである添付画像に対して「日テレ社員が」と書かれ、ツイートは2.5万リツイートされている。

「これ報告書ですよ?!」と綴られているが、日テレ社員がそんな主張をしている報告書は存在しない。

存在しないけれど、みんな怒っている。

ツイート②

https://x.com/azabu_food/status/1796502176774402512

”日本テレビの報告書を読んでいるけど目的をそもそも履き違えている”という前置きとともに画像が添付されているが、この画像の文章は日本テレビの報告書には存在しない。

https://news.ntv.co.jp/category/society/384db4ff849e4d0ba124738d4686498c

今年2月、日本テレビは外部の弁護士も加えた社内特別調査チームを設置。

この調査は、ドラマ制作関係者がより一層安心して制作に臨める体制をつくることを目的として、事実関係や問題点などを調べました。

添付されていた画像の文章は「日テレNEWS NNN」というニュースメディアに記載されている一文である。

ツイートでは”日本テレビの報告書を呼んでいるけど目的をそもそもはき違えている”と綴られていた。実際に報告書を読んでみる。報告書に記載の<経緯と目的>は以下の通りである。

https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/pdf/20240531-2.pdf

当調査チームは、原作者、脚本家、番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制を構築するために、以下の事項を目的として調査、分析及び検討を行った

日本テレビの報告書には、調査目的として「原作者、脚本家、番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制を構築するため」と記載されている。

しかし、報告書を読んでいるというツイート主は、報告書に記載されている「原作者、脚本家、番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制」という一文ではなく、

報告書には存在しない「ドラマ制作関係者がより一層安心して制作に挑める体制」という一文をツイートに添付し、”日本テレビの報告書を呼んでいるけど目的をそもそもはき違えている”と綴っている。

「ドラマ制作関係者がより一層安心して制作に挑める体制」という一文が記載されているニュース記事は、ニュース映像の内容を記事化したものである。

https://news.ntv.co.jp/category/society/384db4ff849e4d0ba124738d4686498c

ニュース映像の場合、原稿読みの尺の都合や一画面で収まるテロップにするため、「原作者、脚本家、番組制作者等が」という報告書の一文を「ドラマ制作関係者が」というコンパクトな文言に改めたのだと思われる。

「ドラマ制作関係者」には「ドラマの原作者」も含まれるということは、報告書を読めばわかる。

しかし、報告書を読んでいるツイート主は怒っているし、このツイートは1万リツイートされ、みんな怒っている。

報告書には「原作者、脚本家、番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制」と記載されているのに、”求められているのは「原作者が安心して作品を提供できる体制」だろう”と怒っている人もいる。このツイートも1万リツイートも拡散され、みんな怒っている。

原作者を含まない意味での「ドラマ制作関係者がより一層安心して制作に臨める体制をつくることを目的として行われた調査報告」など存在しない。

存在しないけれど、みんな怒っている。

ツイート③

ツイートには以下のように綴られている。

日テレのドラマ「セクシー田中さん」調査報告書を読んだ。

・身内の実名は非公表ね
・調査目的は安心して製作に臨む為
・原作者は「難しい人」
・小学館側が伝えてなかった!
・確認漏れてた
・人足りない忙しい
・契約書?何それ?
・反省して次に活かします
・これでビビりません

大体こんな感じ

問題は、「・調査目的は安心して製作に臨む為」「・これでビビりません」という2つである。

「・調査目的は安心して製作に臨む為」

今回添付されている画像は「日テレNEWS NNN」の「ドラマ制作関係者がより一層安心して制作に挑める体制」という一文ではなく、報告書の「原作者、脚本家、番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制」という一文である。

しかし、ラインマーカーで強調されているのは「番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制」という部分のみ。「原作者」という文言にはラインが引かれていない。

これでは添付画像をパッと見た人は「番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制」という部分しか目に入らない。

ツイート文にも「・調査目的は安心して製作に臨む為」としか書かれていない。「原作者」という文言は除かれている。

「原作者」をライン強調やツイート文から外したのは意図的だろう。

「もっと燃やしてやろう」と思い、ラインマーカーに小細工をしていたのだとしたら。そんなことに情熱をもやしていたのだとしたら、とても悲しい。

ここで強調された一文は、「当調査チームは、原作者、脚本家、番組制作者等が、より一層安心して制作に臨める体制を構築するために、以下の事項を目的として調査、分析及び検討を行った。」である。

「原作者」という文言をラインマーカーから意図的に除いたわけではないのだとしたら、この文章をピックアップしてどこを非難したかったのか。皆目わからない。

「・これでビビりません」

すでに述べたように、この画像の内容は外部の有識者のコメントであって日テレスタッフの主張でも社内特別調査チームによる結論でもない。

しかし、<別紙3>を切り抜いて添付し、主体が日テレである他の箇条書きの文と一緒に「・これでビビりません」という一文を並べられてしまうと、「これで怖がっちゃいけない」というコメントが日テレの主張としか映らなくなる。

日テレも報告書も、「調査は自分たちが安心して制作に臨む為に行った」「自分たちはこれでビビりません」などとは主張していない。

そんな報告書は存在しない。

ツイート④

存在しないけれど、みんな怒っている。


「怒り」に便乗して、対立を煽り「怒りのスパイラル」をさらに拡大しようとするメディアや告発系アカウントに「怒り」を煽られていないでしょうか。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3ed6b751c16a1baee29f72a36e2de6bc79653899


インターネットが常に怒りに包まれていて悲しいし、その怒りが意図的に作り出されたものだったとするならば、より悲しい。

ちょっと悲しくなっちゃったので、おすすめの『みらくる!ぱんぞう』のゲーム貼っておきます。

分裂するゲルゲルを小さくしてやっつけよう。



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