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下町やぶさか診療所5

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看護師知子の義母が癌のため死去。故郷島根の海へ散骨してほしいとの遺言を残した。大先生こと麟太郎が知子夫妻に同行すると知った居候の高校生麻世は……。ユーモア&人情小説。
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2024年5月の記事一覧

下町やぶさか診療所 5 第二章 居場所がない・前/池永陽

「大先生。次は元子さんなんですけど……どうしましょうか」  奥歯に物が挟まったようないい方を、八重子がした。 「どうしましょうかって――どうせまた、胸やけがするとか何とか、わけのわからんことをまくしたてるんだろうが、きている以上は診ないわけにはよ」  うんざりした思いで麟太郎はいう。 「それはいいんですけど。さっきちらっと待合室を見たんですが、何だか元子さん、怒っているようなかんじで、顔も険悪そのもののように見えましたから、それでちょっと」  困ったような顔の八重子に、 「険