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一度も使わない回線料金を十数年払ってた。


2月頃、携帯大手のS社から一枚のハガキが届いた。「3Gのサービスが終了します」という内容だった。「あ、そう」とゴミ箱に入れようとしてふと気付いた。

なぜ、それをボクにわざわざ知らせるのだろう。

まさかと思ってよく見ると「電子フォトフレームが使えなくなる」という警告のハガキだった。

フォトフレーム?

しばらくピンと来なかったが思い出した。確かiPhoneが欲しくてN社からS社に乗り換えたときのことである。量販店の窓口で妻と二人のファミリー契約に電子フォトフレームの抱き合わせ契約を勧められた。回線番号を持ちスマホで撮った写真を3Gで送ることができると店員が説明する。

「田舎のおばあちゃんにお孫さんの写真とか毎日送って差し上げると喜ばれますよ。」

1. 母は80才(当時)だがPCを使い画像掲示板のあるHPを持っている。 2. ウチの子はゴールデンレトリバーである。以上の旨を伝え、ボクたちにとってフォトフレームは全く無用の長物だと断った。ところが店員は1ヶ月は無料お試し期間で、それが過ぎたらただのフォトフレームとして使えば損はしないと半ば強引に契約となった。

思えば1ヶ月たったところでフォトフレームの特約を解除しなければならなかった。これはボクのミスである。だが母の居間に置いたフォトフレームはただのフォトフレームとしても一度も使われないままいつの間にか行方不明となり、料金もファミリー契約の中に溶けていたので失念してしまった。

問題はその後である。Xperia Z Ultra が欲しくなり高額の違約金を払ってK社に乗り換えた。もちろん何年も経ってからのことでそもそも違約金には納得がいかないが,驚くことにiPhoneの本契約を解除したあとに,抱き合わせだったフォトフレームの契約が独立して残っていた。ふだん使わない口座だったので,以来10年以上気づかずに回線使用料を払い続けていたのだ。

契約解除は電話やwebではできないそうだ。S社のショップに行くと,

「ああ,そうですか。」

と,笑顔の対応で本人確認といくつかの書類を出して契約は解除された。

数日後,現在契約中のK社からもハガキが届いた。「3Gのサービスが終了します」という内容だった。今度は思い当たることがあった。12月に携帯がつながりにくいことがあって,初めてmy A〇というユーザーアカウントにアクセスしてみたときのことだ。ふと月々の請求額を見ると,ボクのでも妻のでもない電話番号に2,000円以上の請求が加算されているのを見つけた。チャットサービスというのがあったので問い合わせると「紐づいていない契約についてはお答えしかねる。」という返事だった。契約者のボクがボクの口座から引き落とされている料金について尋ねるのに紐もへったくれもあるか…と返したかったが,そもそも繋がりにくいトラブルの最中だったので,そのチャットは送信されないままになった。気になっていたが年が明けると仕事が忙しくてまた忘れてしまった。

きっとあの覚えのない電話番号にちがいない。

ようやくつながったサポートの電話に問い合わせるとそれはマモリーノというキッズ携帯の番号だった。思い出した。K社から乗り換えて,Xperiaと妻のAquosを買ったときのことだ。ファミリー契約にキッズ携帯が抱き合わせになっていた。

「護身用にお子さんかご両親にお持ちいただくといいです。操作は簡単,ボタンひとつで緊急電話がかけられます。」

と店員は言った。

1. 母は84才(当時)だが最新のiPhoneユーザーで常時LINEのやり取りをしている。 2. 愚息は賢いと評判ではあるがいかんせんゴールデンレトリバーなので肉球で携帯電話はかけられない。ボクは以上の理由でマモリーノはボクたちには無用の長物だと断った。だがボクと妻のスマホを個々に契約するよりマモリーノ特約200円をつけたファミリー契約の方が断然安い。マモリーノは取説といっしょに箱にしまっておけばいいと店員は言った。

確かにもっともなことではある。ボクは言われた通り取説や契約書の束といっしょにマモリーノを納屋に仕舞いそのまま忘れてしまった。

200円の特約が2千数百円になったいきさつはこうだ。今度はiPadProが欲しくなった。そもそもボクと妻は別行動することがほとんどないので携帯を二台持つ必要がない。そこで妻はiphone,ボクはiPadProを持ち,ギガは二人で共有する契約に替えた。それを提案したのはK社の店員である。かくて長年利用したファミリー契約は解除となった。おそらくそのときにマモリーノは2千数百円の3G回線として独立したのだろう。その説明はなかった。

これはいくらなんでもひどい話だと思ったがK社のショップに契約解除に行くと顔色一つ変えずに店員は言った。

「解約には違約金14,800円がかかります。」

ボクが抗議しようとすると,テープレコーダーのような口調で定型の文言を口にしながら書類を準備し始めた。

「お客さまのご負担をできるだけ少なくするためには,その携帯電話の契約を4Gの回線で再契約し,その後に解約して頂ければ1ヵ月間の利用料金だけで済みます。」

ボクはそれを断ってその場で解約することにした。携帯電話の解約のために二度もショップに出向くほど暇ではない。ましてコロナ禍の渦中である。

S社にしてもK社にしても,契約時に店員がボールペンで線を引きながらまくしたてるように読みあげた契約条項にボクは同意して電子サインしている。本契約が解除されたときに抱き合わせのサービスが高額の別契約に自動的に移行するなどの条項が目に見えない大きさの文字で書かれていたのかもしれない。だからおそらく法的には問題ないのだろう。だが道義的にはどうだろう。一度も利用実績のないことはどちらの会社も把握していた。使われていない個人の回線は契約更新時の通知を義務化する必要があるのではないだろうか。

我が家ではIT関連の機器購入や契約はボクが専任している。一方,銀行口座の出納に関しては妻に一任している。これが事態の発覚を困難にしていた理由である。妻は光ケーブルや携帯の料金の相場がどれくらいなのかを全く知らない。そしてボクは月々いくらかかっているのかを把握していなかった。おそらく現在も同じように必要のない料金を払い続けている家庭があるだろう。ボクほどのうっかり者は少ないにしても,契約した人が病気や認知症になったり,死亡したりしている例は少なくないと思われる。

「大きな会社は信用して任せていれば大丈夫」という昭和な時代も今は昔,欧米型の自由資本主義社会において契約はそれぞれが自己責任で管理するのが当たり前であり合理的でもある。だが個人がそのために要する時間と労力は計り知れない。実際,たとえば火災保険の契約書の裏に細かい字でびっしり書かれている条項を本当に全部読んでいる人がいるのだろうか。PCやオンラインサービス,各種SNSなどを利用するためにはやはり膨大な契約条項のwebページを読んでそれに「同意する」ことを求められる。ボクは読んだフリをして「同意する」ボタンにチェックしているが実は読んでいない。L社のSNSには安心してパスワードや電話番号や口座番号を書き込んでいたが,その個人情報が海外のサーバーに保管されていることは報道で知った。ボクも同意した規約にはちゃんとその旨が書かれていたそうである。


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