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田沼武能写真展「わが心の東京」2020年6月

FUJIFILM SQUARE 企画写真展
写真界初の文化勲章受章者がとらえた、東京の復興と発展を支えた人々のいぶき

開催期間:2020年6月9日(火)〜7月9日(木)

場所:富士フィルムスクエア(六本木)

展示は3部構成となっています。子供、東京の下町風景、小説家や画家など文化人のポートレイトの内容で構成されています。撮影時間は戦後の50年代〜60年代前半、戦後の廃墟となった東京で、苦難に向かいながらも人々が立ち上がり、下町で生き生きとした人々の生活の姿をカメラで捉えました。占領下で、激しく変貌した「戦後東京」の記録として、素晴らしい写真作品を残したと共に、非常に貴重な歴史的な資料としても残してくれました。

2007年に来日して、13年経ちました。昔の東京をこんなに生き生きした画像で見るのは初めて、まるで50年代の東京にいるような感覚となりました。その時代人々の生活はこんな感じだったんですねと感慨深く思いました。下町で子供たちが集まって自由に町中にゲームしている姿、夕方になったら絵本を読む人がやってきて、子供たち興味津津の目で絵本読みを聞いている様子、靴を修理する職人さん、町でお芝居を披露する芸人さん、神社へ参拝する老夫婦、にぎやかなお祭り、本を売る大学生、路上にある屋台・・・今の東京よりずいぶん面白い東京だなぁと感じていました。生活が豊かになった今、道路や川は何倍もきれいになりましたし、何もかも便利になりましたし、何でもあって足りないものがないぐらいと言える東京シティ、でも何かが失われていると思いませんか。人々の何気ない純粋な笑顔、街中子供たちの天真爛漫、生活は豊かではないけれどいきいきとした人々の姿、消えていっているのではないでしょうか。写真をみて、こんな感情を浮かび上がったのです。その時の東京何もないかもしれないけど、面白かった、もっと人間味あったような感じがします。

私が写真展を見に行く金曜日の日に、展示場の中で中年以上の方が多くいました。写真を見て、何を感じたのでしょうか。「このような車、確かにあったよね」と中年夫婦間の会話を耳に入ってきました。きっと懐かしいと思うでしょうね。自分の幼いごろに生活したところ、見た風景、経験した出来事、映画のように頭の中に流していくでしょう。私も思わず自分が小さいごろのことを思い出しました。幼なじみと家のちかくでママごっこをやったり、石で路上に落書き、飴細工屋さんの飴作りをじっと見ている、パパママと公園に行く、家にシャワーないので、週に2回ぐらい公衆のシャワー場所の長い列に並ぶこと、いろいろと昔のふるさとのことを思い出しました。

写真を見るとなぜかやはり心に幸せ感が漂ってきます。すこし落ち着きの気持ちにもなります。と同時に、自分のふるさと(湖南省長沙市)のことも恋しく思うようになりました。都市開発で近年劇的な変化を遂げていますが、昔のあの長沙、あの生鮮いちば、あの道路、あの店、あの人、まだいるのでしょうか。その時、写真で記録していけばよかったとつくづく後悔しています。自分はふるさとを撮るのでしたら、何を、どう撮るでしょうか。

戦後、占領下にもかかわらず、日本は戦敗から一生懸命立ち上がる姿に感動しました。毎日ごく普通の生活を撮っているだけですが、子供の笑顔から、人々頑張って生活している姿から多大な感動を得ています。子供や下町の人々に焦点を当てた理由は少しわかってきた気がします。どの時代でも富裕層がきっと存在する、もし田沼さんのカメラはその時代の富裕層に向けたらどんな結論が出てくるでしょうか。

田沼さんは自分のふるさとである東京を愛している、このことを写真を見てすっごく伝わってきます。こんな恋ごころを持って自分の都市を描いた写真はRobert Doisneauの写真で以前見たことがあり、印象的でした。田沼さんのふるさとへの愛の表現はRobert と違いますが、「芯」は同じです。Robertはロマン、田沼は実写(?この言葉適切かなぁとまだ迷っているが)、西洋と東洋の写真家による表現の違いはまた興味深いです。

田沼さんの写真が好きで、写真展を見終わったあとに、田沼武能写真集「東京わが残像 1948-1964」を買いました。家でいつでもまたあの時代に戻れるように、時間がある時にページをめぐりたいと思います。

(カバー写真):写真展の一番ぐっときた写真をアップしています。この写真をみてなぜか感動して、泣きたくなりました。

作家プロフィール

田沼武能(たぬま たけよし)

1929年東京・浅草生まれ。東京写真工業専門学校卒業。1949年にサン・ニュース・フォトスに入社して木村伊兵衛氏に師事。『藝術新潮』嘱託などを経て1959年からフリーランスとなる。1965年、アメリカのタイム・ライフ社と契約。ライフワークとして世界の子どもたち、人間のドラマ、武蔵野や文士・芸術家の肖像を撮り続けている。1995年から2015年まで(公社)日本写真家協会会長を務める。1979年モービル児童文化賞、1985年菊池寛賞を受賞。1990年紫綬褒章、2002年勲三等瑞宝章を受章、2003年文化功労者に顕彰され、2019年には写真家として初めて文化勲章を受章。2020年朝日賞特別賞を受賞。
一般社団法人 日本写真著作権協会 会長
日本写真保存センター 代表
東京工芸大学芸術学部写真学科 名誉教授


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