人生のイニシアチブ・ポートフォリオ
兼業・副業の常態化
コロナパンデミックの影響でリモートワークが全世界的に浸透したことで、今日の世界では、いわゆる「兼業・副業」がなし崩し的に常態化しつつあります。つまり「複数の仕事に関わる」というのが働き方の常識になりつつある、ということですが、このような時代になると、自分のキャリアにポートフォリオの考え方を持ち込むことが必要になります。
ポートフォリオという言葉は、もともとは「書類を束ねて納めるカバン」のことを意味しましたが、今日では「取り組みの寄せ集め」といった意味でいろんな分野で用いられています。たとえば、企業はさまざまなテーマで研究開発を行いますが、それらの取り組みを総称して「研究開発のポートフォリオ」といったりします。
ライフ・マネジメント・ストラテジーを考察する上で重要な示唆を与えてくれるのは、投資の世界におけるポートフォリオの考え方です。投資の世界では、株式や債券や不動産といったさまざまな資産を組み合わせることで、市場の変動が一部の資産に与えるネガティブな影響を相殺し、リスクとリターンのバランスを最適化することを目指します。
このようなさまざまな投資の集合体のことを「投資のポートフォリオ」と言いますが、同じことがライフ・マネジメント・ストラテジーにも適用することができます。
キャリアが、誰もが等しく持っている時間資本を投資して、それを人的資本・社会資本に転換させていく一種の投資の連なりとして捉えることができる、という点については以前のNOTEですでに指摘しました。
したがって、人生のそれぞれの時期に、どのような投資を、どのようなポートフォリオで行っていくかは、ライフ・ストラテジーを考える上で中心的な課題となります。
イニシアチブ・ポートフォリオ
特に、現在のように不確実性の高まっている時代では、リスクとリターンの性質の異なる仕事を2つ持つことで、キャリアのポートフォリオをバランスさせるという考え方が重要になります。
一方には極めて安定的だけれども、リスクの少ない大化けする可能性も、また低い仕事をやりながら、片方側で極めて不安定でリスクは大きいけれども、大化けする可能性のある仕事を持つという考え方です。
この場合リスクという言葉に過敏に反応する人がいるかもしれませんが、リスクは必ずしも下方リスク、つまり「損をする不確実性」だけを意味するものではありません。
リスクには上方リスク、つまり「大化けする不確実性」もあります。そして、上方リスクと下方リスクは必ずしも対称的ではありません。つまり「大化けする上側のリスク」を取り入れつつ、「大損する下側のリスク」を最小化することができるのです。
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歴史上、多くの人がこのようなポートフォリオを組んで、人生に「上側の不確実性」を取り込み、大きな成果をあげています。たとえば20世紀を代表する物理学者の一人であるアルバートアインシュタインは、特許局の役人として働きながら、余暇の時間を使って物理学の論文を書き、その論文でノーベル賞を受賞しています。
理論物理の論文を書くというイニシアチブには「下側の大損するリスク」はありません。仮に論文が評価されなかったとしても、それで失うのは研究にかけた時間と若干の文房具の費用ぐらいのものでしょう。
一方で、それらの論文が高く評価されることで得られる社会資本の大きさは計り知れません。つまり「上川に大化けするリスク」があるわけです。これが「リスクの非対称性」ということです。昨今であれば、三井物産に勤めながら小説を発表し、芥川賞を受賞した礒崎謙一郎さんなどはその典型と言えるでしょう。
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これまで、私たちのキャリアは「一意専心」が基本であり、仮にキャリアチェンジを行うにしても、前提となっていたのは「一時にやれる仕事は一つだけ」という考え方でした。しかし、働く期間が長くなる一方で、スキルや知識の陳腐化が急速に進む現代のような社会では、一つの仕事にだけ専心することのリスクはかつてないほど高まっています。
時間軸の違い
ポートフォリオの構築を考えるに当たって、意識しておきたいのが「時間軸」です。ここではコンサルティング会社のマッキンゼー&カンパニーが提唱している「イニシアチブ・ポートフォリオ」をベースにして考えてみましょう。
イニシアチブ・ポートフォリオというのは、和訳すれば「取り組みのポートフォリオ」ということです。ここでは横軸に時間軸を、縦軸に「ファミリアリティ=慣れ親しんでいる度合い」をとって、自分の取り組みのポートフォリオを確認します。
横軸:収益化する時期(あくまで目安ですが)
目先 :1年以内
中長期 :3~5年
未来 :10年〜
縦軸:ファミリアリティ=慣れ親しんでいる度合い
高:事業として詳しい分野で期待値が収斂する(例、既存顧客への既存事業=コア事業)
低:詳しくないが期待値は一定の幅でコントロールできる(例、コア事業からの滲み出し or 既存顧客への新規事業展開)
不明:定義ができずどれだけ振れ幅があるかも分からない(例、新規客への新規事業展開)
このように横軸・縦軸を定義して、自分のイニシアチブ・ポートフォリオを確認すると、典型的には次のような図ができます。
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