優れたリーダーは「助けてください」という

多くの人は、リーダーシップについて「力強い」「自分でなんとかする」といったイメージを持っています。それはそれで間違いではないのですが、私が見ていて、本当に活躍している人は然るべき時に「助けてください」と声を上げられる人だと思います。

指揮者の小澤征爾さんを例に挙げて考えてみましょう。さすがに名前を聞いたことがない、という人はあまりいないと思いますが、どのような人となりなのかについてはあまり知られていないかも知れません。

日本の桐朋学園で斎藤秀雄に指揮を学んだのち、単身で欧州に渡って指揮者コンクールに入賞した後、着実に海外での指揮者キャリアを築き、最終的にはウィーン国立歌劇場の音楽監督も務めました。

こうやって書けばさらりと読み流してしまう内容ですが、日本人が西洋音楽の本拠地の、それも最も伝統と格式のある歌劇場の音楽監督になるというのは、これはとんでもないことなんです。

ビジネスの世界であれば、例えばアップルの社長に日本人がなった、あるいはGEの社長に日本人がなったというのと、同じくらいのインパクトなんですね・・・って、かえってわかりにくい喩えでしょうか?

まあともかく、指揮者としては「日本人として」とか「東洋人として」などという条件を抜きにして、オーケストラ指揮者として望みうる世界最高峰のキャリアを歩んだのが小澤征爾さんという人だということです。

さて、このような素晴らしいキャリアをグローバルに築いた小澤さんの生き様から、今日のグローバル競争の中に身を晒されている私たちにとってどんな示唆が得られるでしょうか?ここでは三つのポイントを指摘してみたいと思います。

願望は口に出さないと叶わない

まず一つ目として指摘したいのが「夢は口にしないと叶わない」ということです。小澤征爾さんの自伝を読んでみてわかるのは、とにかく「ここぞ」という時に外からの助け舟が差し出され、それがチャンスを呼び込んでくれるということがしばしば起きている、ということです。

この時のポイントは「いつも願望を口に出す」ということ。

例えば初の欧州行きについても、全く目処が立っていない中、「欧州に行って指揮の勉強をしたい」といく先々で口にしていたら、たまたま親類が欧州にいるという人が出てきたり、最初に優勝したブザンソンの指揮者コンクールの告知も親切な友人が案内してくれたりと、決定的な局面で、決定的な援助を受けているんですね。

私たちは一般に「助けて、手伝って」ということを「図々しい」と考えて遠慮してしまう悪癖があります。しかし口に出さなければ「助け」は得られません。

これは筆者の専門である組織開発でも言えることなんですが、リーダーシップを発揮してどんどん活躍する人には「これがやりたい、助けてください」と声を上げられるという特徴があります。

自分の力だけで成し遂げられることなんてたかが知れています。大きな跳躍を果たす人は必ずその背後に多くの人の手助けがある。なぜみんなその人を助けるかというと、その人が「僕はこれをやりたいけど、困っているんです」と声を上げているからです。

当たり前の話ですが「困っていない人」は助けようがありません。いつも周囲の人からのサポートを得ている人は、いつも自分の願望や困っていることについて声を上げている人だということが、小澤征爾さんのキャリアからは再確認できます。

語学力について

二つ目として取り上げたいのが英語の問題です。単身で欧州に渡って指揮者コンクールを受けまくりながら、高名な指揮者の弟子になって着実に技量を身につけていった、というキャリアを聞けば、バリバリのバイリンガルか、あるいは3ヶ国語を話すトライリンガルかと思われるかもわかりませんが、実は全くそういうわけではなく、大変失礼な言い方になりますが、実はかなり「お粗末」な状態で、そのまま海外でのキャリアをスタートしているんですね。

これは「海外での仕事を目指すのであれば、まずは語学を」と考えてしまいがちな私たちにとって、とても意外に聞こえると思います。どれくらい「お粗末」だったかというと、例えば小澤征爾さんの自伝「僕の音楽武者修行」を読むと、次のようなくだりがあります。

指揮者コンクールに優勝して、その優勝を祝うパーティで、近くに寄ってきた紳士から色々と話しかけられたものの、何を言っているのかよくわからないので「ええ?イエス!イエス!」と答えていた。

しばらくしてみると、あるオーケストラから「いつまで待たせる、いつ来るのか?」という連絡がきて要領を得ない。どうしたことかと思っていたら、どうもそのパーティの夜に声をかけたのはさる有名オーケストラの理事で、その内容というのは「うちのオーケストラで招待するから客演公演をやってくれないか?」というものだったらしいというのです。

このエピソードには、私たちが常に考える「自分に必要なものは何か?」という論点に対する大事な示唆があります。

多くの人は語学や経営学の知識が必要だと考えるわけですが、ではそういったことを学んで、本当に「その人らしい」成果を生み出すことができるでしょうか?もちろん、そんなことはないわけですね。

こういったスキルや知識は、いわば規定演技を満たすことができる、というだけであってようするに「その他大勢の兵隊」になるためのスキルにすぎません。一方で、その人ならではの感性や美意識というのは、その人のユニークな強みに直結することになります。

このユニークな強みがあるからこそ、世界中の人から「語学ができないなんて大した問題じゃない、うちに来てぜひ指揮をしてくれ」ということになるわけです。

妬まれてナンボ

最後に三つ目のポイントとして指摘したいのが、有名なNHK交響楽団によるボイコット事件です。

海外のコンクールで優勝し、バーンスタイン・ミュンシュ・カラヤンといった超のつく一流の指揮者の元で学んだ新進気鋭の若手です。N響メンバーの複雑な想いもわからないではありません。結局、ちょっとしたイザコザの末にN響側は突然に「今後、いっさい小澤征爾の指揮する演奏には参加しない」という子供じみた表明を行い、両者は絶交状態に陥ります。

この後、世界的な名声を獲得した小澤さんですが30年以上にわたってN響は指揮しませんでした。この事件は、若い小澤さんにとってもストレスになったようですが、しかし後に「この事件がバネになって努力できた」と言っているので、まあ人間万事塞翁が馬ということでしょうか。

ここで私が指摘しておきたいのは「突き抜けるタイミングで、それを邪魔しようとするロートルが必ず出てくる」ということです。活躍する人であればあるほど、周囲からのねたみ・そねみを受けることになります。

ですから「頭抜けるタイミング」こそ、最も他者からの罵詈雑言を浴びやすい時期なんですね。ですから、そのような誹謗中傷を受けることがあったら、それをストレスに感じるのではなく、むしろ「抜擢が近いんだな」くらいに思って受け流しておけば良いということです。

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