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いざ、作品の批評獲得合戦!アヴィニヨンOFF演劇祭は記事の祭典。

引き続きアヴィニヨンOFF演劇祭が続いています。
今年は前倒しで始まったせいで「あれ?さほど暑くない?」と思っていたら、とんでもない。相変わらず刺すような日差しで暑くなって来た今日この頃です。
そんな中アヴィニヨンOFF演劇祭にまつわるエトセトラ其の二です。

世界一の演劇祭の基準が参加作品数の数で論じたられたら、アヴィニヨンOFF演劇祭は間違いなく世界一の演劇祭です。今年は公式発表で、1666の公演があり、そのほとんどが3週間近くの日程を毎日演じ続けます。
もちろん、その話題性でも参加したいと思う演劇人は沢山いると想像できますが、この演劇祭に参加することの良い点を、今日は「メディア」という観点から眺めてみたいと思います。

僕がフランスで舞台活動を始めた最初期の頃、アヴィニヨンの路上で演じた作品がいきなりDophine liberéという全国紙の地方版に写真付きで取り上げられました。そして、その記事と共に応募したスイスのフェスティバルでは、その記事のお陰で作品の質を信頼されて、500人の会場で演じる機会を得ました。
そんな経験を活動を始めた最初期の頃に経た為に、僕は「演じる」→「新聞をはじめとして何かの紙面での評価を得る」→「次につながる」というような、例えば映画でよくある「全米が泣いた!(ニューヨークタイムズ)」みたいな広告の筋道を当たり前のように思っていたのですが、これは小さなカンパニーにとっては実際特殊なケースです。

なぜかと言えば、まずこのような記事を書いてもらうにはその記事が出る時にまだその公演が続いていることが大前提であり、書く方にしても読まれるから出すわけで、1日や2日の公演の為に記事を出すことは、ただ単にその団体の未来に対するボランティアみたいな記事なってしまうので意味が薄いからです。
それでも最近はある日の朝刊や夕刊の購読者の為ではない、専門サイト(ここで言えば演劇専門サイトや公演専門サイト)が増えて来たのでこの限りではないですが、それにしても1回ぽっと演じられただけの無名の団体の記事を進んで書いてくれるジャーナリストさんはほとんどいないと思っていいでしょう。


各団体は、記事が出るたびに劇場のプレスコーナーに記事を足していく

ところが、特別なご縁や七光りを持たない若い団体にとっては、一つでも記事を書いてもらうことはとても大きな意味を持ちます。企画書を書いたり、劇場に話を持ち掛けたり、さらには助成金などを申請したりするうえで、過去にどんな評価がされたかを具体的な記事で見せられることとそれが無いとでは、信頼度の上で天と地ほども差があるからです。
そこでアヴィニヨン演劇祭の大きな特徴の一つである「批評記事を得られる確率の高さ」がとても重要な意味を帯びているのです。

例えば僕が初めてこの演劇祭に自分の作品で参加した2008年には、およそ8社位の新聞社が毎日のように数団体ずつの記事を載せていました。
現在はそれが殆どwebメディアに変わりましたが、信頼度の高いサイトとして認知されているものだけでもやはり8つくらい。そこに大手新聞・雑誌社が数社少なめの大きな記事を書くような形で競われています。
地方新聞社(や専門サイト)では、この時期だけ記事を採用されることで報酬を得る記者の卵さんの記事枠争奪戦も手伝って多くのジャーナリスト達がこちらが呼ばなくても来てくれるチャンスが巡ってきます。こちらとしては記者の接待などを気にすることなく、思いっきり良い公演をすることに集中してよいメリットがあります。

フランスの記事は、アヴィニヨン演劇祭の場合、比較的好意的な内容を書いてくれます。そしてジャーナリストさん同士が競っているのかどうかは定かではないですが、自分が如何にその作品のよき理解者であるかを、とても文学的センスあふれる言葉で書いてくださることが多く、その表現の非凡さの度合いで好意的に評価してくれたかどうかが分かるような気がします。

そして実際に、この演劇祭を楽しみにしている地元の方々はいち早くこのような地方紙やサイトをチェックして観に行く演目を選びますし、会員になると観覧が得になるカードを登録する為に足を運ぶOFF事務所には、毎日のように記事が載った注目作品を壁に貼って、外部から来る方の興味を促し、フェスティバルを盛り上げます。

いかがでしょうか?
こんな側面の一つをとっても、アーティストを育て、共に楽しむ、また一般の方の演劇に対するすそ野を広げるような構造が少し見えてきませんか?

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