京大ロー 令和2年度(2020年度) 刑事訴訟法

1.甲は、Pによる捜索差押え(以下「捜索差押え1」という)によって得られたメモを疎明資料として請求・発付された捜索差押許可状に基づく捜索差押え(以下「捜索差押え2」という)により得られたものであるが、捜索差押え1は無令状で行われており 令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に反し違法である。
そうすると、甲は、その収集手続に違法があるとして証拠能力が認められないのではないか。
(1)証拠収集手続に違法があったとしても 証拠自体の性質に変化が生じるわけではない。そうすると、証拠の収集手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは 刑訴法がその目的として掲げる事案の真相究明(刑訴法1条)の見地から相当ではない。

しかし、刑訴法1条は、事案の真相の究明も 個人の基本的人権の保障を全うしつつ適正な手続のもとでされなければならないとするものであって、これらは共に憲法35条、31条に根差す重要なものである。そうすると、証拠の収集手続にいかなる違法があっても証拠能力は一切否定されないとすることもまた相当ではない。

以上のような刑訴法1条の解釈から違法収集証拠の証拠能力の否定が導き出されるが、その理論的根拠は 司法の無瑕性の保持及び違法捜査の抑制に求められるべきである。

このような2つの理論的根拠から、①証拠収集手続の違法の重大性②違法捜査抑止の見地からの証拠排除の相当性とを総合衡量して、その証拠能力を否定することが必要かつ相当であるといえる場合には、違法収集証拠の証拠能力が否定されると解すべきである。
(2)上記のとおり、捜索差押え1は無令状で行われているため、その手続違反の程度は重大であるといえる。また、Pが無令状で捜索差押え1を行ったのは意図的であって、その後に上記メモを先行する捜査で既に押収されていたように装って保管していることからすると、Pは令状主義を潜脱することを意図し認識していたといえる。そうだとすれば、捜索差押え1には令状主義の精神を没却するような重大な違法があるといえる(①)。
次に、甲は 捜索差押許可状に基づいて行われた捜索差押え2により発見されて差し押さえられたものであるが、上記捜索差押許可状は 捜索差押え1によって得られたメモを主な疎明資料として請求・発付されたものであるから、甲は 捜索差押え1と関連性を有する証拠といえる。また、上記メモを疎明資料とせずになされた捜索差押許可状の請求が却下されていることにかんがみると、上記捜索差押許可状は 上記メモが疎明資料とされたことによって発布されたものであるといえるから、甲と捜索差押え1との関連性は密接であるといえる。そして、甲は窃盗事件という 最高で十年以下の懲役という重い法定刑が定められている重大犯罪(刑法235条1項)の被害品であり、これを取引等によらずに現時点で事実上支配している者の上記事件の犯人性を強く推認させるものといえるから、その証拠としての重要性は高いといえる。そうだとすれば、甲を証拠として許容すると、重大な違法のある捜索差押え1と密接な関連性を有する証拠によって Xを窃盗事件という重大な事件について処罰することになりかねないから、甲の証拠能力を認めることは違法捜査抑制の見地から妥当ではなく、その証拠排除の相当性が認められる(②)。
(3)以上の事情を考慮すると、甲の証拠能力を否定することが必要かつ相当であるといえるから、甲の証拠能力は認められない。

以上


その他の答案へのリンク

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?