京大ロー 令和3年度(2021年度) 憲法

第1問
第1.公務就任権
1.人事院規則8-18別表3に定める総合職大卒程度試験の受験資格に関する年齢制限(以下「本件規定」という)は、満30歳以上の者が国家公務員総合職という職業を選択する自由(憲法22条1項)を侵害し、憲法22条1項に反し違憲ではないか。
(1)本件規定は、総合職大卒程度試験の受験資格として、試験年度の4月1日における年齢が21歳以上30歳未満であることを定めている。これにより、試験年度の4月1日における年齢が30歳以上の者は総合職大卒程度試験を受験することができなくなり、国家総合職という「職業」を「選択」することができなくなるから、本件規定は憲法22条1項が保障する職業選択の自由を制約する。
(2)上記制約の正当化基準は、制約される権利の意義・重要性 と 制約の態様・程度等を考慮して判断される。
職業は、人が自己の生計を維持するための継続的・経済的活動であるとともに、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものであるから、職業選択の自由は重要な権利である。一方で、職業は その性質上 社会相互関連性が大きいものであるから、職業選択の自由は、精神的自由と比較して 公権力による規制の要請が強い。
また、国は、公務員制度を構築するにあたって、採用試験の受験資格を設ける等により人事の適正な運用を図ることを その判断により行うことができるというべきであるから、総合職大卒程度試験の受験資格である本件規定を定めるにあたり国に一定の合理的裁量が認められる。
もっとも、本件規定は、総合職大卒程度試験の受験資格として年齢制限を採用している。国家総合職という職業に就くためには、総合職大卒程度試験に合格することが必要であることからすれば、本件規定は 狭義の職業選択の自由に対する事前規制といえ、その規制態様は強度といえる。
上記のような職業選択の自由の性質及び本件規定による制約の態様にかんがみ、本件規定は、目的が重要であり、目的と手段との間に実質的関連性が認められる場合には正当化されると考える。
(3)ア.本件規定の目的は、中央省庁で行われている人事に即した効果的な人材育成を行う点にある。国家行政の中枢を担う国家総合職の職員の効果的な人材育成が行われなければ、行政の能率的で安定した運営が阻害されて国の政策の忠実な遂行に重大な支障をきたすおそれがある。そうすると、本件規定は、上記弊害を防止して 国民全体の共同利益を擁護するための規定であるといえるから、その目的は重要であるといえる。
イ.本件規定により、試験年度の4月1日における年齢が30歳以上の者が 総合職大卒程度試験を受験できなくなれば、組織内での育成期間が限られてしまう高年齢の者が採用されることはなくなり、中央省庁で行われている人事に即した効果的な人材育成を行うことができる。そのため、本件規定は、上記目的に資するといえ、手段の適合性が認められる。
また、確かに、官庁訪問等による個別審査を拡充して 高年齢者のうち短期の育成期間では効果的な育成が見込めない者は採用しない といった方法のような より制限的でない手段でも上記目的は達成できるから、手段の必要性は認められないとも思える。しかし、個別審査によって候補者の能力・適性等を確実に把握することは困難である。また、個別審査の拡充には職員の採用事務等の採用コストがかさむため、行政の能率的で安定した運営が阻害されるおそれもある。そうすると、個別審査の拡充による上記目的の達成は期待できないといえる。そのため、より制限的でない他の手段では上記目的は達成できないから、手段の必要性が認められる。
したがって、受験資格として年齢制限を定めるという本件規定の手段と上記目的との間の実質的関連性が認められる
(4)したがって、本件規定は正当化され、合憲である。

第2.平等原則
1.本件規定は、試験年度の4月1日における年齢が21歳以上30歳未満である者 と 30歳以上である者 とを 総合職大卒程度試験の受験資格について別異に取り扱うものである。かかる別異取扱い(以下「本件区別」という)は平等原則(憲法14条1項)に反し違憲ではないか。
(1)「平等」(憲法14条1項)とは相対的平等を意味し、同項は 国民に対し絶対的な平等を保障するものではなく、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別取扱いを禁止するものであると考える(待命処分事件判決、尊属殺重罰規定事件判決参照)。
(2)別異取扱いが合理的な根拠に基づかない差別に当たるか否かは、区別の対象、区別の事由、裁量の有無等を考慮して判断される。
本件区別は、総合職大卒程度試験の受験資格に関する区別である。国家総合職という職業に就くためには 総合職大卒程度試験を受験しこれに合格する必要があるから、その受験資格に関する本件区別は、上記のとおり 憲法22条1項の保障が及ぶ重要な事項についての区別である。
また、本件区別は、年齢という個人の意思や努力では如何ともしがたい事柄による区別である。
もっとも、第1.1.(2)で述べたとおり、本件規定を定めるについては、国に一定の裁量が認められる。
これらの事情を考慮し、本件区別は、目的が重要であり、かかる目的と本件区別との間に実質的関連性が認められる場合でなければ、合理的な根拠に基づかない差別として憲法14条1項に反すると考える。
(3)第1.1.(3)ア.で述べたとおり、本件区別の目的は重要であるといえる。
また、第1.1.(3)イ.で述べたとおり、本件規定の手段である本件区別と上記目的との間に実質的関連性が認められる。
(4)したがって、本件区別は、合理的な根拠に基づかない差別に当たらず、憲法14条1項に反せず合憲である。

第2問
1.解散とは、衆議院議員の任期満了前に全員の議員としての身分を失わせる行為をいう(憲法45条参照)。
2.では、内閣の解散権を、内閣不信任決議案が可決または内閣信任決議案が否決された場合に限定する法律は合憲か。解散制度の意義・根拠と関連して問題となる。
(1)憲法は、立法権と行政権はそれぞれ国会と内閣が担当すること(憲法41条、65条)を前提に、内閣総理大臣は国会が国会議員の中から選任し(憲法67条1項、6条1項)、その総理大臣が国務大臣を任命して内閣を組織し(憲法68条1項、7条5号)、そして、内閣の国会に対する連帯責任(憲法66条3項)、衆議院の内閣不信任決議権(憲法69条)、内閣の衆議院解散権(憲法69条、7条3号)について定めている。これらの規定を総合的にみると、日本国憲法は、政府と議会とが均衡することを重視して解散権を本質的要素とする議院内閣制観に立脚していると解される。そうすると、解散制度は、上記のような憲法が立脚する議院内閣制の原理を根拠とし、内閣はそれを基礎にして天皇に対して解散につき「助言と承認」をするものであると考える。
(2)上記法律は、内閣の解散権を 内閣不信任決議案が可決または内閣信任決議案が否決された場合に限定するものであり、内閣の国会に対する影響力を減退させるといえる。そうだとすれば、上記法律は、政府と議会との均衡という 憲法が立脚する議院内閣制の原理が重視する要素を崩すおそれがあるものであるといえる。
(3)したがって、上記法律は、憲法の原理に反し、違憲となるおそれがある。

以上


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