京大ロー 令和3年度(2021年度) 行政法

事案1
1.道路管理者の 町内会長に対する道路占用許可(道路法32条1項1号)の名宛人ではないXに 上記道路占用許可の取消訴訟(行訴法3条2項)の原告適格が認められるか。
(1)取消訴訟の原告適格は、「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に認められる。この「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益も、ここにいう法律上保護された利益に当たる。そして、処分の名宛人以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、行訴法9条2項の考慮要素をも勘案する。
(2)ア.上記道路占用許可にかかるダストボックスの設置予定地に接する土地に居住するXは、上記ダストボックスが設置されることで その周辺の交通環境が悪化することを理由に、通行安全という利益を原告適格を基礎づける利益として主張することが考えられる。
イ.道路占用許可の許可基準を定める道路法33条1項には、「道路の敷地外に余地がない」という要件が規定されている。また、同項の委任を受けた道路法施行令10条1号には、「道路の区域内の地面に接する部分」が通行に与える影響が少ない場所であること(道路法施行令10条1号イ)という要件が規定されている。そうすると、道路占用許可の要件規定である道路法33条1項は、通行安全という利益を保護すべき利益に含めているといえる。
ウ.もっとも、通行安全という利益は、生命・身体・財産等の具体的な権利とは性質が異なり、また、不利益が及ぶ範囲も明確ではないから、公益としての保護になじむというべきである。そして、道路法上、通行安全という利益を特に個別的利益として保護するといった規定も見受けられない。そうすると、開発許可の要件規定である道路法33条1項は、通行安全という利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨であるとはいえない。
(3)したがって、Xは上記取消訴訟の原告適格を有しない。

事案2
1.道路管理者の 露店営業者に対する道路占用許可(道路法32条1項6号)の名宛人ではないYに 上記道路占用許可の取消訴訟の原告適格が認められるか。上記の基準に従い判断する。
(1)ア.上記道路占用許可にかかる骨董品販売用の露店が設けられる道路の部分に面する店舗において骨董品を販売しているYは、上記露店が設置されることで 自己の店舗の売上が低下するおそれがあることを理由に、営業利益を原告適格を基礎づける利益として主張することが考えられる。
イ.道路占用許可の許可基準を定める道路法33条1項 及び 同項の委任を受けた道路法施行規則10条1号には、周囲の者の営業利益に配慮した要件は規定されていない。また、道路法1条も営業利益の保護を同法の目的としては掲げていない。そうすると、道路占用許可の要件規定である道路法33条1項は、営業利益を保護すべき利益に含めているとはいえない。
(2)したがって、Yは上記取消訴訟の原告適格を有しない。

事案3
1.道路管理者の ガス事業者に対する道路占用許可(道路法32条1項2号)の名宛人ではないZに 上記道路占用許可の取消訴訟の原告適格が認められるか。上記の基準に従い判断する。
(1)ア.上記道路占用許可にかかるガス管が設けられる道路の部分に面する店舗において可燃物を取り扱う事業を営んでいるZは、上記ガス管が爆発して上記店舗が焼失するおそれがあることを理由に、ガス管の爆発により自己の生命・身体・財産が害されない利益を原告適格を基礎づける利益として主張することが考えられる。
イ.確かに、道路占用許可の許可基準を定める道路法33条1項の委任を受けた道路法施行令12条2号には、ガス管を地下に設ける場合においては「堅固で耐久性を有する」こと(同号イ)という要件が規定されている。しかし、同号ロには「車道に設ける場合においては、道路の強度に影響を与えないものであること」という要件が、道路法施行令11条の3には 設置場所が原則として「歩道の部分であること」(同条2号イ)という要件が規定されていることからすると、これらの規定は、車道の交通環境を保護対象とする趣旨であると考えられる。そうすると、道路占用許可の要件規定である道路法33条1項は、生命・身体・財産を害されない利益を保護すべき利益に含めているとはいえない。
(2)したがって、Zは上記取消訴訟の原告適格を有しない。

以上


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