京大ロー 令和2年度(2020年度) 憲法

第1問
第1.婚姻の自由
1.同性婚を否定する現行法は、同性愛者の同性婚の自由を侵害し、憲法24条1項、13条後段に反し違憲ではないか。
(1)ア.憲法24条1項は、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻するかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきという趣旨を明らかにしたものと解される。また、婚姻は、これにより 配偶者の相続権(民法890条)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされているほか、国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していると考えられる。そうすると、上記のようなを婚姻をするについての自由は 憲法24条1項の趣旨に照らし、十分尊重に値するものというべきである。
一方で、同条が「両性」「夫婦」という異性同士である男女を想起させる文言を用いていることに照らせば、同条による保障が及びうる上記のような婚姻をするについての自由は、異性婚を対象としていると解すべきである。
そうすると、同性婚の自由は、憲法24条1項により保障されるとはいえない。
イ.憲法13条後段は、人格的生存に不可欠な権利・自由を保護していると解される。他人と親密な人間関係を築くか、誰と親密な人間関係を築くかを決定することは、個人の生き方の根幹に関わる重要な私的事項であるといえる。そうだとすれば、同性愛者が同性者との間で親密な人的結合を形成するという意味での同性婚の自由は、憲法13条後段により保障されると解すべきである。
しかし、同性婚を否定する現行法は、同性婚に法律婚としての地位を与えていないにすぎず、同性愛者が同性者との間で 婚姻のような親密な人的結合を形成することを制限するものではないから、憲法13条後段が保障する上記のような意味での同性婚の自由を制約するものではない。
(2)したがって、同性婚を否定する現行法は 同性愛者の同性婚の自由を侵害しているとはいえない。

第2.平等原則
1.同性婚を否定する現行法は、同性愛者と異性愛者とを 婚姻制度について別異に取り扱うものである。かかる別異取扱い(以下「本件区別」という)は平等原則(憲法14条1項)に反し違憲ではないか。
(1)「平等」(憲法14条1項)とは相対的平等を意味し、同項は 国民に対し絶対的な平等を保障するものではなく、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別取扱いを禁止するものであると考える(待命処分事件判決、尊属殺重罰規定事件判決参照)。
(2)別異取扱いが合理的な根拠に基づかない差別に当たるか否かは、区別の対象、区別の事由、裁量の有無等を考慮して判断される。
本件区別は、婚姻制度に関する区別である。上記のとおり、婚姻は、これにより 配偶者の相続権(民法890条)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされていることからすると、本件区別は、重要な事項についての区別であるといえる。
また、本件区別は、同性愛者か異性愛者かという個人の意思や努力では如何ともしがたい事柄による区別である。
もっとも、婚姻制度の内容形成にあたっては、一定の立法裁量が認められると解されている(憲法24条2項参照)。
これらの事情を考慮し、本件区別は、目的が重要であり、かかる目的と本件区別との間に実質的関連性が認められる場合でなければ、合理的な根拠に基づかない差別として憲法14条1項に反すると考える。
(3)ア.本件区別の目的は、夫婦が共同生活を送るという関係に対して法的保護を与える点にあると考えられる。かかる目的は、個人の尊厳(憲法13条参照)の観点から重要なものといえる。
イ.異性婚を対象とする婚姻制度のみを整備する本件区別によって、夫婦が共同生活を送るという関係に対して法的保護を与えることができるから、本件区別は上記目的に資するといえ、手段の適合性が認められる。
もっとも、異性婚のみならず、同性婚をも対象とする婚姻制度を整備するといった方法のような より制限的でない手段でも上記目的は達成できるから、手段の必要性は認められない。
そして、本件区別により、同性愛者は 法律婚に伴う法的効果を享受できず、日常生活でも婚姻カップルと認められないことによる様々な不便が生じうる。そのうえ、同性愛者は、同性婚が法律婚として認められないことで、国あるいは社会から自分たちの存在が否定されているように感じるおそれもある。そうすると、本件区別は同性愛者に多大な不利益をもたらすといえる。一方で、LGBTをはじめとする性的少数者に対する理解が進みつつある現代においては、同性婚を否定する現行法によって生じる利益は特に考えられない。そうすると、本件区別により失われる利益より得られる利益の方が大きいとはいえないから、手段の相当性も認められない。
したがって、上記目的と本件区別との間に実質的関連性は認められない。
(4)よって、本件区別は、合理的な根拠に基づかない差別に当たり、憲法14条1項に反し違憲である。

第2問
1.天皇及び皇后が自然災害の被災者を見舞う行為は合憲か。
(1)天皇は、国事行為を行う際には内閣の助言と承認により行わなければならない(憲法3条、7条)一方、純粋な私的な行為は自由に行うことができると解されている。
そして、憲法が 天皇は日本国及び日本国民統合の象徴としていることからすると、天皇は象徴的な役割を果たすことを求められているといえる。また、天皇も 国家機関として一定の国事行為をなす存在であるという意味において「公人」であるといえ、そのような公人としての社交的・儀礼的行為として認められるものがあるといえる。そうだとすれば、国事行為にも純粋な私的な行為にも当たらない 公人としての社交的・儀礼的行為は、政治に影響を及ぼすようなものではない限り、内閣の補佐の下に内閣が責任を負うかたちで行うことができると解する。
(2)自然災害の被災者を見舞う行為は、憲法6条、7条が定める国事行為に当たらず、また、純粋な私的な行為と評価することもできない。そのため、上記行為は、公人としての社交的・儀礼的行為に当たる。
また、上記行為のために要する経費は宮廷費から支出されていることからすると、上記行為についての支出は 宮内庁が経理している(皇室経済法5条参照)ため、上記行為には 内閣の宮内庁を通じての補佐が及んでいるといえる。
(3)したがって、上記行為は合憲である。

以上


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