京大ロー 令和元年度(2019年度) 商法

第1問
第1.小問(1)
1.P社を存続会社、Q社を消滅会社とする吸収合併(以下「本件合併」という)の合併条件は、Q社株式100株に対してP社株式1株を割り当てるというものである。
そうすると、Xの有するQ社株式190株に対しては P社株式1.9株が割り当てられることとなり、Xに交付すべきP社株式の数に1株に満たない端数がある。
2.したがって、P社は、Xに対してP社株式1株を交付するとともに、端数の合計数を競売(会社法234条1項5号)または売却(会社法234条2項)して これにより得られた代金を上記端数に応じて交付することとなる。

第2.小問(2)
1.本件合併の消滅会社Q社の株主Xは、本件合併の差止請求訴訟(会社法784条の2第1号)を提起し、本件合併の差止めの仮処分(民保法23条2項)を申し立てることが考えられる。
(1)略式合併以外の吸収合併の場合には、法令・定款違反のみが差止事由となり、合併比率の著しい不当性は差止事由とはならない(会社法784条の2第2号参照)と解される。もっとも、吸収合併契約を承認する株主総会決議において 特別利害関係人が議決権を行使したことによって著しく不当な対価で当該吸収合併が承認された場合には、当該決議に取消事由(会社法831条1項3号)が認められ、かかる取消事由の存在をもって法令違反(会社法783条1項違反)として差止事由が認められると解する。
(2)特別利害関係人(会社法831条1項3号)とは、決議の結果について他の株主と共通しない特別の利害関係を有する者をいう。
P社は、本件合併における存続会社となるのであるから、本件合併契約を承認する株主総会決議の結果について 他の株主と共通しない特別の利害関係を有するといえ、特別利害関係人に当たる。
また、P社は、Q社の総株主の議決権の約70%を有しているのであるから、著しく不当な対価で本件合併を承認したQ社株主総会決議において P社が議決権を行使した場合には、P社が議決権を行使したことによって著しく不当な対価で本件合併が承認されたといえる。
(3)したがって、著しく不当な対価で本件合併を承認したQ社株主総会決議において P社が議決権を行使した場合には、Xは 上記訴訟の提起及び上記仮処分の申立てという手段を採ることができる。

第3.小問(3)
1.Xは、P社に対して(会社法834条7号)、本件合併の無効の訴え(会社法828条1項7号)を提起することが考えられる。
Xは、第1.2.で述べたとおり、本件合併によりP社株式1株を交付されるから、本件合併後存続するP社の「株主」(会社法828条2項7号)に当たり、上記訴えの原告適格が認められる。
2.では、本件合併に無効事由が認められるか。Xは本件合併の無効事由として①本件合併比率が著しく不当であること(以下「事由1」という) 及び ②Q社における本件合併の承認決議には、特別利害関係人P社が議決権を行使したことによって著しく不当な対価で本件合併が承認されたという決議取消事由(会社法831条1項3号)があること(以下「事由2」という)を主張することが考えられる。これらの事由が本件合併の無効事由となるかを検討する。
(1)組織再編たる吸収合併の無効事由について定めた明文規定はないが、組織再編は会社をめぐるあらゆる行為の基礎となっており法律関係の安定をはかる必要があることから、その無効事由は重大な瑕疵に限られると解される。
(2)上記各事由は重大な瑕疵として本件合併の無効事由となるか。
ア.合併比率が著しく不当であったとしても、反対株主は株式買取請求権(会社法797条)を行使することができるし、また、取締役の責任(会社法429条1項)を追及することもできる。そのため、合併比率が著しく不当であることは重大な瑕疵とはいえず、当該合併の無効事由にはならないと解する。

したがって、事由1は本件合併の無効事由とはならない。
イ.(ア)組織再編たる吸収合併は会社の基礎を変更する行為であり、その承認決議(会社法795条1項)は株主保護のために法定された重要な手続であるから、承認決議に取消事由があることは重大な瑕疵として、当該合併の無効事由となると解する。

もっとも、法的安定性を図るため 株主総会決議取消しの訴えの出訴期間は決議の日から「三箇月」(会社法831条1項柱書)とされていることにかんがみ、かかる期間内に限り、承認決議に取消事由があることを当該合併の無効事由として主張できると解する。
(イ)したがって、本件合併契約を承認する株主総会決議において P社が議決権を行使したことによって著しく不当な対価で当該吸収合併が承認されたといえる場合には、本件合併の効力発生日から「六箇月」(会社法828条1項7号)以内 かつ 本件決議の日から3ヶ月以内であれば、Xは 上記訴えを提起することができる。

第2問
省略

以上


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