京大ロー 令和3年度(2021年度) 民法

第1問
問1
1.Aは、Dに対して、本件抵当権が設定されている甲建物に設置されている乙がDにより搬出されて 甲建物の交換価値の実現が妨げられていることを理由に、抵当権(民法369条1項)に基づく妨害排除請求として乙を甲建物内に戻すことを請求している。
上記請求が認められるためには、乙に本件抵当権の効力が及んでいることが必要である。乙は、Bが所有する甲建物の経済的効用を高めるために付属させた物であるから、甲建物の従物(民法87条)に当たるところ、これらは、本件抵当権の効力が及ぶ 抵当不動産たる甲建物に「付加して一体となっている物」(民法370条本文)に当たるか。
(1)抵当不動産とこれに付け加えられた物との経済的一体性が競売により破壊されることを防ぐという同条本文の趣旨 及び 取引安全の要請にかんがみ、抵当不動産に「付加して一体となっている物」とは、その付加の時期を問わず、抵当不動産の付合物・従物及び分離物であり、附属建物を除き抵当不動産の上に存するものをいうと解する。
(2)上記のとおり、乙は、抵当不動産たる甲建物の従物であり、甲建物の上に存するものであった。
(3)したがって、乙は、甲建物に「付加して一体となっている物」に当たり、本件抵当権の効力が及ぶから、上記請求は認められる。

問2
1.Aは、Eに対して、本件抵当権が設定されている甲建物に設置されている乙がEに占有されて 甲建物の交換価値の実現が妨げられていることを理由に、抵当権に基づく妨害排除請求として乙を甲建物内に戻すことを請求している。
上記請求が認められるためには、乙に本件抵当権の効力が及んでいることが必要であるところ、問1で述べたとおり 乙には本件抵当権の効力が及ぶから、上記請求は認められるとも思える。
2.もっとも、乙は、Bにより 本件抵当権設定登記により対抗力が付与されている甲建物 から運び出されている。
抵当不動産に対する抵当権設定登記をもって、原則として 民法370条により抵当不動産の従物にも対抗力が付与されると解される。そのため、上記搬出により甲建物の従物としての性質を喪失した乙は対抗力を失い、AはEに対して乙につき本件抵当権を対抗することができず、上記請求は認められないのではないか。
(1)抵当不動産の分離物は、搬出されることによって抵当権の対抗力は失われ、その所有権(民法206条)を取得した第三者が背信的悪意者でない限り抵当権を対抗することはできないと解する。
もっとも、第三者による分離物の所有権取得時点で未搬出であった場合は、当該第三者はいったん抵当権の対抗を受けた者であるから、かかる者に対しては抵当権を対抗できると解する。
(2)乙は、EがBE間の売買契約(民法555条)によりその所有権を取得した 本件抵当不動産たる甲建物の分離物である。また、Eは、乙が甲建物から運び出されたこと 及び 甲建物に本件抵当権が設定されていることを知っているが、上記売買契約の締結によりAを害する意図は有していないため、単純悪意者にすぎない。
そして、上記売買契約締結時点では、乙は Bにより甲建物から既に搬出されていた。
(3)したがって、AはEに対して乙につき本件抵当権を対抗することができないから、上記請求は認められない。

第2問
問1
1.BC間の甲土地売買契約(民法555条)は、Aがその所有権を有する甲土地を目的とする売買契約(いわゆる他人物売買)であるから、Bは Aから甲土地の所有権を取得してCに移転させる義務を負う(民法561条)。
本件では、Aは本件契約を追認しているところ、この追認はどのような意味を持つか。
(1)他人物売買を 目的物の所有権者が追認するということは、真正権利者が自らのために効力を生じることを欲しているという点で、無権代理行為の追認(民法116条)と共通している。
そこで、目的物の所有権者が他人物売買を追認した場合には、民法116条を類推適用し、当該他人物売買はその締結の時に遡って効力を生じる、すなわち 目的物の所有権が 目的物の所有権者から他人物売買の買主に直接移転すると解する。
(2)したがって、上記追認により、上記売買契約の目的物である甲土地の所有権は 上記売買契約締結時にAからCに移転したこととなる。
2.民法561条は、他人物売買も有効であることを前提としている。そのため、他人物売買の目的物の所有者がこれを追認した場合であっても、当該他人物売買の当事者としての債権及び債務は 各当事者に帰属したままであると考えるべきである。
したがって、Aが上記売買契約を追認した本件においても、甲土地の売主としての債権及び債務は、上記売買契約における売主であるBに帰属する。

問2
第1.CのBに対する請求
1.Cは、Bに対して、本件契約の履行不能解除(民法542条1項1号)に基づく原状回復請求(民法545条1項本文)として、支払済みの甲土地の代金600万円の返還を請求することが考えられる。
上記請求が認められるためには、Cによる本件契約の履行不能解除の主張が認められる必要がある。
本件では、他人物売買である本件契約の 目的物である甲土地の所有者Aは、本件契約の追認を拒み、Cに対して甲土地の返還を求めている。そのため、Bの 本件契約に基づく甲土地引渡「債務の全部の履行が不能」であるといえる。
したがって、Cによる本件契約の履行不能解除の主張は認められるから、上記請求は認められる。
2.Cは、Bに対して、上記のとおり Bの本件契約に基づく甲土地引渡「債務の履行が不能」であることを理由に、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条1項本文)として、DがCに対して申し出た甲土地の購入希望額1200万円 と 本件契約における甲土地の代金額1000万円 との差額200万円の支払いを請求することが考えられる。
(1)上記差額200万円は、上記債務不履行がなければCが得られたはずの転売利益である。また、売買契約の目的物を 買主が購入額の1.2倍の金額で転売することは通常起こりうることであるから、上記差額は 上記履行不能により「通常生ずべき損害」(民法416条1項)であるといえる。
(2)上記履行不能は、Bが、甲土地がA所有であり かつ これを処分する権限をAから与えられていないことを知っていたにもかかわらず、本件契約を締結したという Bの責めに帰すべき事由を原因とするものである。そのため、Bは 上記履行不能が自らの「責めに帰することができない事由によるものであったこと」を証明して、損害賠償責任から免責されることはない。
(3)したがって、上記請求は認められる。

第2.BのCに対する請求
1.Bは、Cに対して、本件契約の履行不能解除に基づく原状回復請求として、甲土地の返還を請求することが考えられる。
しかし、Cは 既に甲土地をAに返還しているから、Cの 本件契約の履行不能解除に基づく原状回復義務としての 甲土地返還義務は履行不能となっている。そのため、上記請求は認められない。
2.Bは、Cに対して、上記返還請求に代わる価格返還請求として、甲土地価額相当額の返還を請求することが考えられる。
本件では、Cの上記返還義務の履行不能は、Bが、甲土地がA所有であり かつ これを処分する権限をAから与えられていないことを知っていたにもかかわらず、本件契約を締結したという Bの責めに帰すべき事由を原因とするものである。このような場合であっても、Bは、Cに対して甲土地の価額相当額の返還を請求することができるか。
(1)契約解除による原状回復義務の履行としての目的物の返還が不能であり、かかる返還不能が給付者の責めに帰すべき事由によるものである場合には、給付受領者は 目的物の返還に代わる価格返還の義務を負わないと解すべきである(注1)。
(2)上記のとおり、Cの上記返還義務の履行不能は、上記Bの責めに帰すべき事由を原因とするものである。
(3)したがって、Cは甲土地の返還に代わる甲土地価額相当額返還の義務を負わないから、上記請求は認められない。

以上

注1.最判昭和51年2月13日百選Ⅱ-45


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