僕の愛娘は、いくつになっても甘えん坊が過ぎるらしい。
「ねーえー!!それパパのじゃなくて、りーの!!!」
大きな声で、娘の理子が叫ぶ。
どうやら、妻が作り置きしてくれたハンバーグを、もう1個食べたいらしい。
『だめ。もう食べたでしょ。1個にしておきなさい。』
「やーだ!ママのハンバーグおいしいから食べたいの!」
まぁ確かに、妻の料理は絶品なので気持ちはわかるが、ここは我慢させよう。
『よし、じゃあママが帰ってきたら沢山作ってもらおう。』
『我慢できたら、パパがご褒美あげるからな。』
「わかった。パパがごほうびくれるならがまんする。」
理子の頭を撫でる。
少々甘い気がするが、まぁいいだろう。
『ほら、準備急ぎなさい。学校遅れるだろ。』
「は~い」
理子の支度を手伝って、学校へと送り出す。
「いってきま~す」
『はい、行ってらっしゃい。』
玄関で理子を見送った僕は、リビングを経由して
妻が選んだブレンドコーヒーを淹れた後、
自室へ戻り、社用PCを立ち上げる。
華やかな香りが包むコーヒーをすすり、画面に相対する。
あ、仕事の前に妻に連絡でもしておくか。
すると
スマホの画面に「 理佐 」の表示が出る。
『もしもし』
"もしもし、そっちはどう?大丈夫?"
『理佐、ありがとう。何とかやってるよ。』
"そっか"
"あっ、理子のこと。甘やかしてないでしょうね~"
いかにも怪しそうな声で理佐が問う。
思いっきり図星なので、言い返せない。
”黙ってるってことは、さては…”
『ごめん、その通りです』
"全く…"
電話越しに呆れ顔をしているのが目に浮かぶ。
"これじゃあ由依に笑われるよ…"
『ごめんって…』
何とか話題の切り口を探す。
『そういえば、由依の様子は?』
"式の前にちょっと会わせてもらったけど、綺麗だったよ。"
『由依の花嫁姿、俺も見てみたかったなぁ』
"ちゃんと写真送ってあげるから、アンタは理子の面倒見てて"
『はいはい、わかってますよ』
"ほら、そろそろ仕事でしょ?電話切るよ"
『うん、電話ありがとな。気を付けて。』
何かと僕を気にしてくれる理佐に感謝しつつ、仕事に向かう。
1人での仕事は久しぶりだったが、意外と集中できた。
気が付けば、そろそろ理子が学校と部活の吹奏楽を終えて帰ってくる時間だ。
「ただいまー!!!」
理子の明るくて大きな声が家に響きわたる。
『おかえり。手洗っておいで。晩ご飯にするから。』
「晩ご飯なにー?」
『カレーだよ。』
「やったー!ママのカレー大好き!」
2人でカレーを食べながら、他愛ない話をする。
そこで、理子にご褒美を渡す。
『はい、これご褒美ね。きな粉もち。』
「やったぁ!嬉しい!」
2人でデザートのきな粉もちを食べて、
風呂を済ませた後、寝室に向かう。
3つ並んだ布団の上で、横になる理子と僕。
「パパ、あのね。」
「もう1個、ごほうびおねだりしてもいい?」
『うん?何』
言いかけた瞬間に、理子が後ろから抱きついてくる。
「パパ、きなこもちも嬉しかったけど、りーはこれが一番のごほうびなんだよ。」
余りのいとおしさにどうにかなりそうだったが
必死に抑え込んで
『パパも嬉しいよ』
「パパ、おやすみ」
『おやすみ、理子。』
2人で1つの布団を分け合いながら、僕たちは眠りについた。
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