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Baby Face

『先輩!帰りましょ!』

「うん」

校門の前で待ってくれていた彼は、
私の彼氏。

手を繋いで、近くの公園まで歩く。

ベンチに並んで座って、
購買で買ったお菓子を一緒に食べる。


『愛季先輩!今度の土日、どっか行きます?』

「こらー、敬語禁止って前にも言ったでしょ」

『えー、だって先輩だし…』

「だーめ」

『わ、わかった…』
『じゃあ、先輩だけ付けさせて!』

「うーん…」
「しょうがないなぁ…いいよ」

『やったぁ!』

可愛くて素直な彼の姿に、
つい、頭を撫でたくなったけど
ここは我慢、我慢。



「あ、今週末の予定だよね?」

『そうそう!』

「うーん…どうしよう…」

「あ。愛季、水族館行きたい!」

『え、楽しそう!行こ行こ!』

こうして、私たちの予定が決まった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

まだ、本格的な時期でもないのに
照りつける太陽が地面を熱くする、週末。

2人で待ち合わせをしている駅前に
私が向かうと、彼が待っていた。


汗だくで。

「大丈夫?待った?」

『ううん!さっき来たところ!』

絶対違う。
でもそう言ってしまったら
彼を傷つけてしまう気がして、
心の中に、しまっておくことにした。

『暑いねぇ…』

「うん、溶けちゃいそう…」

『あ、そうだ!』
『これ、さっき買ってきたから、一緒に食べよ!』

彼が出したのは、コンビニのレジ袋。
中には、キンキンに冷えた飲み物と
私の好きなアイスが。

彼は、どこまで優しいんだろう。

「ありがとう」

つい、彼の頭を撫でてしまった。

すると、彼は少し不満そうな顔をして、
私を引っ張っていった。

2人でアイスを食べた後、
電車に乗って、水族館へ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

『涼しー!』

私も彼も、水族館に入った第一印象がそうだった。

いきものたちに合わせて
暗くされた照明と、
適度な気温が、そうさせるのかな。

入場ゲートを通って、階段をあがると
目の前には、
生い茂った水生植物と、小さなお魚たち。

『なんか…不思議だね』

「うん」

きっと、彼と考えてることは一緒なんだけど、
なんかこう、上手い表現が見つからない。

『水の中にある魚が住む森に、僕たちがいるみたい。』

そう、それが言いたかった。

彼の目を見ると、
『でしょ?』と言いたいように見える。

私は、ありがとう、という目をして、
彼について行った。

次のエリアに行くと、
様々な種類のクラゲが、色々な照明に照らされている。
その奥には、
よく見かけるクラゲが大きな水槽に沢山いて、
時間によって、色とりどりに光り輝く。

「これなんだっけ…?」

『ミズクラゲ、じゃない?』

「あー、そうだ!」

「それだっけ?刺されると痛いのって」

『たぶん、どのクラゲも刺されたら痛いんじゃないかな…』

「あ、言われてみればそっか」

私たちは笑いながら、次のエリアに向かった。

右側に、大きな水槽が見えたけど、
私はそれ以上に、強く目につくものがあった。

「ペンギンだぁ!!」

スロープを下りた先にある、
大きなペンギンゾーン。

私は彼を引っ張ると、
岩の上に、沢山のペンギンが。

ちょうど、エサやりの時間だったみたいで
飼育員さんの周りに集まっている。

器用にお魚を食べる子もいれば、
隙あらば横取りしようと狙っている子もいるし、
勢いに押されて、中々ご飯を食べられない子もいる。

でも、飼育員さんはちゃんとわかっていて、
誰が何匹食べたかを、
声を掛け合いながら教え合っている。

食べ終わった子たちは、
水の中に入って、優雅に泳いでいる。

「かわいい…」

『うん、健気というか、素直だね』

『なんか、先輩に似てて、かわいい』

絶対、ほっぺた赤い。

でも、
「ありがと」

それだけにしておくね。


水族館を楽しんだ私たちは、
お土産コーナーに向かうことにした。

たくさんのグッズがあって、
私も、彼も、つい迷ってしまう。

その中で、ふと
あるものが目に入った。

ペンギンのぬいぐるみ。

凄くかわいい。
欲しい、と思って値札を見ると、
高校生の私たちには、少し手が出しづらい値段。

『どうした?何か、気になるものでもあった?』

私はとっさに、ぬいぐるみじゃなくて、
ペアのキーホルダーを指さした。

『え、エイのキーホルダー?』
『かわいいね』

「うん、そう思って」

『じゃあ、買お!』

私たちは、ペアのキーホルダーを買った。

「思い出になったね」

『うん』

私と彼、それぞれの家の鍵に、
同じキーホルダー。

私は満足して、
お土産コーナーを出ていこうとした時、

『ごめん!トイレ行くから先行ってて!』

そう、彼が言ったので、

「うん、わかった」
と私は言った。


しばらくすると、彼が戻ってきた。


イルカが描かれた青色の、少し大きなレジ袋を抱えて。

「どうしたの、それ?」

『ちょっと、買い忘れちゃったものがあって』


『はい』

彼は、私にその袋を差し出した。

「え?」

『中、開けてみて』

袋を閉じたテープを剥がして開けると
中には、

私が欲しいと思った、ペンギンのぬいぐるみが。

「えっ、何で」

『いや…何となく…』

『もしかして、違った?』

「ううん。そうじゃなくって」

そうじゃなくって、そうじゃなくって。
私が言いたいのは、

「だってこれ、」

私でも買うのをためらったのに。

『だって、愛季先輩のためだから。』


「ねぇ、無理してない?」

『してないよ』

「本当に?」

『本当だよ』


「ねぇ、無理しなくても、いいんだよ?」

『いや…だから…』

そう言うと、
彼は少し口を真っ直ぐにして、

『で、でも!無理してでも愛季先輩に、かっこいい所を見せたいから!』

やっぱり。

「わかるよ」


「でも愛季は、」

「ありのままの君を、好きになったんだから。」

でもね、その背伸びが、
愛おしくて、つい許してしまう。

「じゃあ約束して。もう、無理しないって。」


『わかった。約束するよ。』

『愛季』


「えっ」

『愛季がそう呼んで、って言ったんじゃん』

『これからは仲良くはんぶんこ、ね?』

ちょっとだけ生意気だけど、
それが、かわいくて仕方がない。

だから私は、

「じゃあこれも、はんぶんこ、ね?」

彼の胸元に飛び込んで、
顔を思いっきり、近づけた。

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