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「初めての旅行」

『ねぇ、ほんまにこの近くで合ってるん…?』


「うん…たぶん…」


『なんやねんその返し、不安になるやん』


僕たちは、迷っていた。
というか、地図アプリを信用できなかった。


瞳月の住む京都、僕が移り住んできた大阪から約3時間。

福岡は、初めての旅行先としては
悪くない選択肢だった。

観光地もあるが、何よりご飯がおいしい。
特に、ラーメンが大好物な瞳月にとって
福岡は、夢のような土地だったに違いない。


そんな僕らは、あるお店を探していた。

平日の真っ昼間とはいえ、
ビルの広告には、いかにも怪しげな文字が連なっている。
時間帯を間違えたら、闇の中に飲まれてしまいそうだ。


そこに、ポツンと 僕らの目指すお店があった。

「ここやね、たぶん」

看板には"元祖博多豚骨ワンタンメン発祥の店"との文字。


『ようやく着いたなぁ』
『早よ入ろ!』

「うん」

お店に入ると、カウンター席に通される。
二人とも、おすすめのメニューを注文した。

"麺の硬さは?"
「『普通で』」

考えることは、同じらしい。


店員さんが高菜と紅生姜を、二人の真ん中に置く。


しばらくして、ラーメンが置かれた。
上には、チャーシュー、ネギ、煮卵、ノリ、
そしてワンタンが入っている。

ストレートの細麺をすすり、白いスープを飲む。
凄くあっさりしていて、僅かに入った黒胡椒の味がわかるくらい。
今まで食べた豚骨ラーメンの概念を、あっさりと覆された。

トッピングの紅生姜をレンゲに置いて、
麺と一緒にすする。
味がマイルドで、良いアクセントになる。
ついでに高菜を手にとって、少し口にする。
結構本格的な辛さで、食欲が増進される。

これは美味しい。
隣の瞳月を見ると、かけていた眼鏡を外して
夢中で麺をすすっている。


普段なら、割とゆっくり食べる瞳月が
僕より早く食べ終わって

『すいません、替え玉、麺カタめで』


どうやら、相当お気に入りらしい。


替え玉をもらうと、すぐに食べ始めた瞳月。


なのだが、

『あのさぁ…』


『代わりに食べてくれへん?』

「いや、何してんねん」
「替え玉して結局食べれんて」


『いや、だって…』

『二人でシェア、したかったから』


『なんかさ、恋人っぽくない?』
上目遣いで見つめる瞳月に、
僕は、逆らえなかった。

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