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イーペルは猫の街❓ それともイペリットガス❓

フランドル(フランダース)地方と呼ばれるベルギーのイーペルの町は猫祭りで知られており、多くの猫好きが訪れるらしい。

なんでも、この地で盛んだった毛織物工業の生産物をネズミから守るために猫がたくさん飼われたらしいが、その猫を高い塔の上から投げ飛ばし・・

猫虐待の反省だか何かで祭りが始まったらしいが、これはここまでにして、さっそく主題です。


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1914年に始まった第1次大戦は、航空機からの爆弾投下、戦車(タンク)それに潜水艦など近代兵器が投入されたことで知られるが、敵に致命的なダメージを与える毒ガスが使用されたことでも記憶される。

ドイツ軍によって毒ガスが初めて大量使用されたのが、このイーペルの地だったという。1915年まだ大戦初期の頃のことだ。


テレビドラマ「名探偵ポアロ」では、シリーズの初めの方でポアロがベルギーでの戦禍を避けてイギリスに逃げてくる話が紹介される。

作者クリスティーには大戦中に病院勤務の経験もあって、イギリスの戦傷者も数多く目の当たりにしたのだろう。事件の謎解きからは外れるのだが、シリーズ中ではときおり戦争に言及する個所がある。

そんなひとつの「ヘラクレスの難行」だったか、ポアロがイーペルうんぬん語る場面があった。ポアロはクリスティの創造物だから実在しないのだが、あの町での毒ガスからほうほうの体で逃げてきたのかなどと、つい想像してしまうのである。


毒ガスの研究開発は工業大国として知られたドイツが他国に先んじており、1915年には並べられたボンベから塩素ガスが風下の敵側に放出され、たちまち甚大な被害を与えたという。

毒ガス使用は国際法で禁じられていたのだが、敵国が使用したとあってはフランスも負けじと自国の開発した毒ガスで応戦し、彼我の被害は拡大していった。大戦期間中の死者は20万人を超えたという。死者だけでなく、気管支や肺をやられて長く苦しんだ兵士も数多くいたに違いない。マルティン・デュ・ガール描く「チボー家の人々」の主人公ジャックも、毒ガスの後遺症に苦しむ兵士の一人であった。

1917年になるとドイツ軍はマスタードガスを開発して使用しており、知られるように辛子の臭いのするこのガスが人間の皮膚に付着すると、酷い炎症を引き起こすのである。そしてイーペルでの戦闘で使用されたところから、イペリットガスとして知られるようになったという。


蛇足ではあるが、第2次大戦中に使用しなかったものの旧日本軍でも毒ガスを大量生産しており、瀬戸内海に浮かぶ大久野島にはその貯蔵庫跡が残っている。

さらに記憶に新しいのはオーム教団のサリンであり、悲惨な犠牲者を出した。そして中近東の戦闘ではシリアなどで毒ガス使用の疑いがあり、今後も生物兵器とともに核兵器の代替品として使われる恐れは消えない。




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