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映画「カポ-ティ」

今年はトルーマン・カポーティの伝記映画を2本観たが、11月公開の「トルーマン・カポーティ・真実のテープ」は、「冷血」執筆後はジャンキー状態となった作家を追ったものなので、ここでは触れない。

タイトルの映画「カポーティ」はテレビ放映されたもので、作家が事件現場で「冷血」の構想を練るさまを描いた映画だ。


ニューヨークに住んでいたカポーティは、新聞でカンザスの片田舎で起こった一家殺人事件を知り、幼馴染のネル(ハーパー・リー)を誘って、列車で現地に向かう。

カポーティは「ティファニーで朝食を」が映画で評判を呼んだこともあって人気作家となっていた。ここで筋違いとも思われるネタに飛びついたのは、かれが名付けたドキュメンタリー小説という新機軸を打ち出そうと考えたからなのだ。


ネルを誘ったのは、取材の手助けとクルマの運転を任せる必要のためだ。

カンザスシティでクルマをレンタルし、二人は捜査局の担当刑事デューイのもとを訪れる。犯人逮捕で頭がいっぱいのデューイは取りつく島もないが、かれの妻が小説ファンであることが幸いして、家庭に招かれることに成功する。

二人が事件関係者への取材を進めるうち、ネルの「アラバマ物語」が出版されることになり、カポ-ティはニューヨークで同棲する同性愛者ジャックとの電話中に、祝意を伝えてくれるよう頼まれる。

警察への密告によって犯人が割れるが、かれらは行方をくらませてしまう。

クリスマスも近い夕べの食卓で、カポーティたちはデューイがラスベガスからの電話で犯人逮捕の知らせを受けたことを知った。

殺人者である二人の青年ペリーとディックがカンザスシティに護送されてきて、保安官事務所の留置所に入れられた。ここでも保安官の妻がカポ-ティのファンであることを知り、作家は贈呈用のサイン本を手に留置所のペリーに接触することに成功する。

事件の概要は、二人が金銭目的で農場主宅を襲い、目的の金のないことを知ったのち、ペリーが発作的に農場主のノドを掻き切り、妻、息子、娘と至近距離から猟銃で顔を撃って即死させたものだった。ディックは直接手を下していないものの、最初から一家を始末するつもりだったのだ。

公判が始まり、犯人たちには死刑判決が下され、カンザス州刑務所に収監される。

カポーティたちはいったんニューヨークに戻ったが、再びひとりカンザスに取って返したカポーティは、刑務所所長に袖の下を使うことで、更に犯人たちとの接触をつづける。

さほど関心を示さぬディックをよそに、カポーティは断食を試みるペリーの世話を焼いて急接近する。(第三者が独房の中に入ることなど考えにくいのだが、所長の裁量範囲内なのだろうか)

接見の中でカポーティはペリーの生い立ちに自分との共通点を見出す。それは親に虐待を受けた幼年期というものだった。いっぽうペリーは、作家の本が自分に有利な材料を世間にアピールしてくれることに期待する。

カポーティはデューイに本のタイトルを「冷血」にすることを告げるが、ペリーに問われても言葉を濁す。かれがそれを知れば、もう協力を望めないことは明らかだからだ。

犯人たちは最終監房に移されることになり、カポーティはいったん別れを告げる。

カポーティは同性愛相手のジャックとスペインで休暇を取るなどするが、ペリーとの手紙による交信を保ち、弁護士を探すなど犯人たちの面倒を見る。

出版されたネルの「アラバマ物語」は評判を呼んで映画化され、記念パーティーにカポーティも招待される。幼いネルとともに自身も登場する映画だったが、感想を求められた作家は「さほどの出来でもない」と応える。

カポーティは執筆途中の「冷血」の朗読会を成功させ、出版元は完成間近を確信するものの、作家は事件当夜の詳細を聞き出すまではとこだわる。

真意を隠してペリーに迫ったカポーティは、ついに殺害の詳細を語らせることに成功した。

作家の取材は終わり、あとは刑の執行を待って作品の発表を待つだけとなったが、犯人たちは連邦裁判所に控訴してカポーティを悩ませる。

だが控訴は棄却されて、刑執行の日取りも決まった。ペリーからの電話で刑への立ち合いを求められたカポーティだったが、それを断った。

なおも迷うカポ-ティはカンザスに向かい、刑執行を待つばかりの二人の前に姿を現した。

最後の接見で刑執行の瞬間を見届けることを二人に拒むものの、刑場の片隅に佇むカポーティ。

関係者の見守る中、両人への絞首刑は滞りなく執行される。

映画を観たあとで

原作の「冷血」では犯人たちのメキシコやヴェガスなどへの逃亡が詳細に記述されるが、これらは省かれて、映画ではもっぱら作家とかれらとの接触が描かれる。

日本との司法制度の違いにより、第三者のトルーマンは獄中でもかなり自由に罪人たちに接見することに驚かされた。

当初のカポーティは明らかにはしゃぎすぎで、有名なファッション写真家アヴェドンを刑務所に呼び寄せて、犯人たちの写真を撮らせる。本稿に貼ったカポーティの写真もアヴェドンによるものだが、映画に登場する中年太りでなく、ずっと若い時のもの。

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