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帯留 帯の上の小さな宇宙

1 帯留に目が惹きつけられる

長い和装の歴史をたどると、帯留が出現したのはごく最近です。江戸時代よりもっと早くに人々が思いつきそうな装飾品ですが、帯締めが出現したのは明治の初めです。着物の歴史を地球の歴史に例えると、最後の最後に人類が出現したのに似ているような気がします。

そもそも日本は着物の装飾品の少ない国です。古代の遺跡から勾玉や腕輪の出土はありますが、布だけで装うスタイルが続いています。櫛かんざしは髪につけるもので、衣服の上につけるものではありません。そこに突然現れたのが帯留です。しかも付ける位置は帯の真ん中、身体の中心です。どうしても注目してしまいますよね?

また、それまで布の重なりで装いを構築していた着物の世界に、突然異種の素材が出現するのです。金属や彫刻を施した木や竹、珊瑚や象牙が、帯の上の一番良い位置を占めることになります。ダイヤモンドやルビーなどが使われ始めた明治中期以降、これらの素材は他のものより一層の輝きで人の目を惹きつけたに違いありません。

帯留コレクターとして筆者は、着物の装いは「帯留以前」「帯留以降」に分類しても良いとさえ思っています。

2 帯留が持ち主を語る

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年齢が判ってしまいますが、筆者の世代はピースマークをTシャツに付けるのが大流行した世代です。Tシャツに書かれた言葉はそれなりに重く、着る人の思想やメッセージを現していました。単なるファッションではなかったのです。

帯留もそれに近い役割があるように思います。持ち主の好み、場合によっては主張も語ることができます。うさぎが好きな人はうさぎの、猫が好きな人は猫の帯留をつけて、それがきっかけで見知らぬ人と話が弾んだ経験はありませんか?

3 コミュニケーションツールとしての帯留

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ここに掲載された帯留は、NPO法人京都古布保存会が主催してきた「帯留コンテスト」の応募作品です。全国の大学生・専門学校生を対象に帯留の応募を募るものでした。応募者が学生なので帯留のなんたるかを理解していただくのにかなりの時間を要しました。

このように約10年にわたり、帯留コンテストを開催するという歴史をもつと、帯留に対する見方も変わってきます。学生さんが対象とは言え、審査員は外部の学識経験者にお願いして、厳正な審査を行います。事務局員として審査に立ち会い、優秀作品を発表する度に、良い帯留とは何かということが徐々にわかってくるようになりました。時には予想も当たります。

本来帯留に良い・悪いはありませんが、「審査で選ばれる帯留とは何でしょう?」と尋ねられたときのすばらしい答えがあります。それは第二回コンテストの審査をお引き受けいただいた、株式会社クリップ代表の島田明彦氏が仰った言葉です。

帯留をつけていることで、その人のバックグラウンドや生活のスタイルも理解できるようなデザイン、またその1点だけで多くの人とコミュニケーションができ、人の輪が広がっていくような作品を選びます。

帯の上にある小さな世界が連想を生み、多くの人の心につながっていくのです。着物は素晴らしいコミュニケーションの道具ですが、その力を一層強めてくれる帯留は多くの力を秘めています。

【参考】帯留コンテスト:NPO法人京都古布保存会の京都府地域力再生助成金事業として、2010年より10年にわたり9回開催。応募対象を大学生・専門学校生に限定して、若い世代に日本の服飾文化を知っていただくことを目的に開催しました。このコンテストは、一般社団法人昭和きもの愛好会に引き継がれ、公募対象を一般作家に変更してより多くの方々に参加していただく方向で再開を準備中です。

【参照サイト】一般社団法人昭和きもの愛好会帯留コンテスト

筆者(似内惠子:NPO法人京都古布保存会代表理事)

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