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パラスのモジュールから考察するミノス文化

1.初めに

本記事では、パラスのモジュールについて考察していく。前提として、パラスおよびその出身国ミノスは、エーゲ海はクレタ島で栄えたミノア文明を始めとして、ギリシャ神話の要素など地中海文明の要素をさまざまに取り入れた設定を持つと考えられる。以降、この前提を元に考察を進めてゆく。また、適宜モジュール以外の情報も引用してゆくのでご了承されたい。

2.ミノスの世俗文化と土地


モジュール文1

パラスのモジュール文は、ミノス各地の文化についての追想から始まる。
まずは土地の名前から見てゆこう。
アテヌス:おそらくは古代ギリシアの都市アテナイが元。紀元前2000年ごろ成立し、後にスパルタに破れ衰退してゆく。ミノスにおける精神的支柱となる都市(シデロカのプロファイルより)。
ラケダイモン:映画300でも有名な都市、スパルタが元であろう。スパルタを打ち立てたドーリス人が自分たちの都市をラケダイモーンと称していた。ミノスにおける武人の都市(シデロカのプロファイルより)。
コリニア:古代ギリシアにおける大都市、コリントスが元か?。商業によって栄える都市だが、同時に道徳的腐敗も蔓延している(シデロカのプロファイルより)。

さらに、ミノスの食文化についてもいくらかの推測ができる。
ハーブケーキ:スパイスやハーブを使うお菓子というとパンデピスが思い浮かぶが、古代ギリシャがモチーフと考えるともっと素朴なものと推察される。ローマ人の大カトーが農業論でアニスのケーキなるものを紹介しており、宴席の締めくくりとして食べる甘いケーキであり消化を助けるものだとか。パラスは祭祀として宴席にも親しんでいただろうから、アテヌスのケーキもこれに近いものかもしれない。また、動物を生贄に捧げる祭りでは一般人は代替品として練り粉で作った家畜形の菓子を奉納していたそうで、これもモチーフ候補として挙げられる。

美酒:おそらくワイン、ぶどう酒であろう。アテナイの春の祝祭ではその年の新酒が口開けされ、それらの甘口のぶどう酒がデュオニソスに捧げられたという。古代ギリシア人にとってぶどう酒は水と混合して飲むものだったらしく、パラスがコーデで掲げている大杯にも薄めたぶどう酒が満たされているのかもしれない。


3.ミノスの山々と信仰

モジュール文2

続くパートでは、ミノスの山々に祈りを捧げる様子が描かれる。ミノスの聖山のそれぞれには地球の神々に対応する名前が付けられており、パラスが登場するストーリーではミノスの土地そのものを神聖視する発言が散見される。これらのことから、ミノスにおいては山岳、あるいはミノスの土地そのものが神として信仰されていることが分かる。

アトス:地球におけるアトス山に対応。ギリシャ北東部にある山で、ギリシャ語でアギオンオロス(ἍγιονὌρος、「聖なる山」)と呼ばれている。ここには東方正教会の寺院があり、多くの修道僧の修行と生活の場となっている。地球のアトス山は伝統的に女人禁制の山だが、ミノスではそういうことはないようだ。また、アトスという名前はギリシャ神話において神々と対立したティターンの一柱に由来する。
 ミノスにおけるアトス山もまた信徒たちの生活の場であり、多くの信者が足を運ぶ聖地であることがモジュール文章から伺われる。

ヒュムノイ:この名前は、ギリシャ語で賛美歌を意味するHymnに由来するものと思われる。イベント「ヒュムノイの叡智」では、連鎖安全保障競技という競技が開催された地区でもある(もっとも、開催地は毎回違うようだ)。古代ミノスにおいて、都市間の交流と軍事訓練を目的として開催された競技で、今日では商業的な催しであるという点も含めて、現実のオリンピックによく似ている。オリンピックはギリシャ西北の都市オリンピアで開催されていたため、ヒュムノイ=オリンピアに対応するとも考えられる。しかしモジュールにおいてはヒュムノイ=神=山岳として呼びかけられている。ヒュムノイ地区は今回たまたま競技の開催地として選ばれたに過ぎないことを考えれば、詩神ミューズの一柱であり讃歌を司るポリュムニアに対応し、山としてはミューズ信仰の中心地となるヘリコン山が妥当かと推測される。いっぽう、ヒュムノイは表現を苦手とし、信者たちが命の真髄を悟ろうと訪れる土地と語られており、古代ギリシアにおける哲学の要素を担っている可能性もある。

ヘリア:ローグライクの情報と合わせれば、ヘリアは太陽神ヘーリオスの女性形であろう。ローグライク演目より、「最大の危難に見舞われるとき、英雄たちは太陽を降り、ヘリアの頂きを越えて、ミノスの側までやってきた」とある。つまり、太陽は英雄たちの死後の住まいであり、危急の際には死せる英雄たちがそこから救いにやってくるという英雄信仰の要素が伺われる。
 ヘーリオスは古代ミノア文明でも信仰されており、初期のギリシャ文明においては広く信仰された神であった。ヘーリオスは死者を呼び出す降霊術に関連する神でもあり、魔術によって呼びかけることによってヘーリオスが死者の魂を術者へと送り出してくれると信じられた。英雄たちが太陽から降り立つという信仰にはこの要素が関連しているのかもしれない。
 地球に対応する山があるかは定かではないが、ヘーリオスは時として最高神ゼウスと混同されたこと、ミノスのストーリーに登場する十二英雄はオリンポス十二神がモチーフと推測されること、ヘリア=太陽であり死せる英雄の魂を司る神ということを考え合わせれば、オリンポス十二神の住まうオリンポス山がそのモチーフかもしれない。オリンポス山はギリシャで一番高い山でもある。高いということは太陽に近いということでもあるから、太陽神として崇められる山としても相応しいと考えて差し支えないだろう。

ローグライクより「ヘリアの輝き」

4.ミノスにおける英雄信仰

先に挙げたヘリア神の考察において、ミノスでは英雄たちは死後天に登り、太陽に住まいしていること。そして、ミノスが危機に陥った際には太陽より降り立つと信じられていることが示された。そこで、ミノスにおける英雄信仰についてもう少し考察していこう。

モジュール文3


モジュール文4

 このパートでは、かつてミノスの十二英雄と讃えられながらもその身に黒き石の病=源石病を患いミノスの地を去ったパラスの誓願が語られる。ここで注目したいのは、パラスの武器にはエーゲから採られた盤石が埋め込まれているということである。盤石とは即ち堅き石ということで、エーゲは現実でいうエーゲ海に対応するミノスの土地であろう。ミノスという国自体がエーゲ海に存在した国々からモチーフを採っており、ミノスの信仰にとっても重要な土地であることが想像できる。
 先の考察で挙げたように、ミノスの信仰では土地とは神そのものとして扱われている。エーゲの地から受け取った盤石はすなわち神の分身であり、戦士の武器に埋め込まれることで生涯を共にし、その栄光の証人となるのだろうと推察できる。
 ところで、パラスはかつてサルゴンの侵略を阻んだ十二英雄の一人であり、英雄として既に大きな功績を挙げた身である。それでいて盤石が神殿に奉納されていないということは、完全に戦士の道から引退するか、または志半ばで斃れたとき。つまり、戦士としての生涯を終えたときが盤石が神殿に捧げられるタイミングと考えられる。
 パラスもまた、いつの日かミノスへと帰り、盤石は神殿の一部となって苦難と栄光に満ちたパラスの人生を叙事詩として詠み上げるだろうと語っている。このときパラスが願う第一のことは、自分の体を侵す源石病が癒えるか、あるいは源石病への偏見が払拭されてミノスに受け入れられる日が来ることであろう。しかしこのとき、彼女の脳裏にもう一つの可能性が浮かんではいないだろうか。それはつまり、パラスが死によって源石病の穢れから解き放たれ、その魂と栄光は盤石に乗り移ってミノスの地へと還るという可能性である。
「どれほどの歳月が過ぎようと。私は必ずあなた様の下に帰ります。」
 この誓いの言葉からは、未来への希望と綯い交ぜになった、心に秘めた苦悩が感じられてならない。


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