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『Pokémon LEGENDS アルセウス』はポケモントレーナーにとって究極の没入感ゲームである

はじめに

初めまして、@小吉と申します。

2023年6月1日、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のランクバトルにヒスイポケモンが7月から参戦すると通知され、いい機会だと以前からやろうやろうと思っていた『Pokémon LEGENDS アルセウス』(以下『アルセウス』)をプレイすることにしました。
当初は6月中にクリアするためサクサクプレイしようと思っていたのですがこのゲームがあまりにも面白く、気付けば「アルセウス満喫したい欲」>「7月に間に合わせるぞ打算」となっていました。

メイン任務をすべて達成したのが7/13、プレイ時間は63時間ほどでした。RPG1本でこれはだいぶ遊んだなあという感覚です。いやあ面白かった。
折角なので何故ここまで自分がこのゲームにのめり込めたのかを記憶と感覚が新しいうちにアウトプットしたいと思い、noteに書き残すことにしました。こういった試みは初めてです。それ程までに面白かった。

旅パ 最高の6匹

以下常体


没入感がすごい

『アルセウス』の面白さを一言で表すならやはり「没入感」だろう。プレイする中で、ヒスイ地方という「豊かな自然とポケモンの世界、それに挑む人間(≒あなた)」の世界を演出する工夫に溢れていると感じた。
ゲームミュージックが大好きであるため、ここではBGMを軸に場面を分けて展開することにする。


フィールド

基本的にBGMは流れず、草木や風、水の音、ポケモンの鳴き声、あとは主人公の息遣いや足音といった環境音のみが流れる。情報量としてこれで充分であり、音楽という雑音(あえてこのような表現をするが)がないぶん目の前に広がる大自然に集中できる。
時折流れる曲達はいずれも「ヒスイ地方」を豊かに表現すると共に、それに臨む高揚感を掻き立ててくれる。『ダイヤモンド・パール』のフレーズが散りばめられているため、シンオウ地方をよく知るプレイヤーは思わず立ち止まり耳を傾けたことだろう。ハクタイの森アレンジのアウトロに湖のテーマが入ってるのとかめっちゃ良かった。

こんな眺めいいとこで209、210ばんどうろのアレンジ聴いちゃっていいんだ

森や火山といった地形には固有のBGMが用意されており、この変化がプレイヤーに特殊な場に入った、雰囲気が変わったぞという情報を与えている。
また夜間も夜と深夜の2曲が存在する。美しくも不気味な曲であり、視界の悪さやそこら中にうようよいるフワンテと相まって非常に怖い。深夜BGM終盤の解放感のあるパートと共に空が明るみを帯び始めるのが個人的な好み。


野生ポケモンとの遭遇

『アルセウス』の最大の特徴であり最大の魅力が、主人公自身が手持ちのポケモンを介さず直接野生ポケモンとやりとりすることである。

野生ポケモンを発見しそっと近付く。息を殺したりエサを与えたりして隙を窺い、背面からボールを投げる。バシッという爽快感のある演出に小さな手応えを感じながらその行方をじっと見守る。ボールから花火が上がり、ドキドキは達成感へと移行する。

この一連の流れにおける主人公とプレイヤーの心境が一致しているのだ。この時まさに画面の前の自分がたしかにポケモンを捕まえていた。

ポケモンに自分の存在がばれていなければ、BGMはフィールドのものがそのまま流れる。また気性が穏やかなポケモンはこちらに気付いても特に気概を加えたりはせず、その場合もBGMの変化はない。慣れてくるとこのようなポケモン達は片手間で捕獲できるようになる。意識と時間を割かなくてよいのが没入感を高める効果を生んでいる(詳細は後述)。
また、可愛いポケモンの図鑑タスクに「エサをあげた数」が含まれていることが多い。楽しみ方の導線が引かれていていいなと感じた。

好戦的なポケモンは、主人公を見付けると威嚇し技を放ってくる。この時BGMが変わるのだが、不思議なものに遭遇し様子を窺っているような曲調である。技の1発や2発受けても大したことはないし、ちょっと走ればいつでも離脱・リセットできるし、近距離どろだんご背面ヘビーボール戦法もとれる。

ここまではポケモンの原点である昆虫採集に近いフィールドワークのノリで楽しく捕獲に臨むことができる。見知ったポケモン達とヒスイで再会する度に「あ! ○○(種族名)だ!」と心を躍らせていた。

ところが、ある存在に出くわした瞬間、すべてが一変する。


オヤブン ~究極の没入感体験~

人間が立ち向かっていい筋肉じゃない

赤く光った目。周囲のポケモンとかけ離れた体躯。近付くだけで流れ出す専用曲は、今までと明らかに異なる緊張感溢れる曲調だ。すべてがイレギュラーな存在を目の当たりにし、主人公/プレイヤーの思考は本能的な恐怖に包まれる。
遮蔽物や草むらに身を潜め隙を窺い、試しにボールを投じてみる。静寂の中大きく揺れるボールにもしやと一瞬期待するも、再び巨体が飛び出し暴れ回る。この瞬間が一番怖い。
オヤブンがこちらに気付き雄叫びを上げるとライドポケモンから落ち尻もちをついてしまう。昆虫採集から一転、捕食者と被捕食者の構図のできあがりだ。強力な技を一撃でも食らおうものなら視界が赤く染まり「死」の一文字が脳を支配する。こちらが取れる選択肢は逃げるか立ち向かうか。だがこんな強大な存在に到底敵うとは思えない……。

『アルセウス』をプレイした誰もが体験したことだろう。オヤブン戦こそが『アルセウス』の没入感の極みであり、主人公とプレイヤーが完全に一体化する瞬間なのである。

最初はあまりの恐怖に逃げるしかないが、徐々に余裕が生まれ、観察し、いずれはオヤブンに挑む時が訪れる。
フィールドでボールを投げても捕まえられなかった。となれば戦って捕まえる他ない。


『アルセウス』で野生ポケモンと戦うということ

ポケモンの捕獲といえば、トレーナー歴が長い人ほど「バトルで弱らせてボールを投げる」流れが身体に染み付いているだろう。『Pokémon GO』や『ポケモンレンジャー』等といった例外もあるが、それらを含めポケモンを捕まえるには専用の戦闘画面に移行する必要があるのが常識であった。
この常識を破ったのが『アルセウス』である。フィールドにいるポケモンをそのまま捕まえられるシステムは『ポケモン』シリーズにとって本当に斬新で画期的だった(勉強不足で過去に同様のタイトルがあったらごめんなさい)。

そんな『アルセウス』で野生ポケモンと戦うというのは、プレイヤーが目的を持って、自らの意思で行わないとそもそも発生しない出来事なのである。
普通の野生ポケモンが対象の場合、フィールド捕獲が上手くいかなかったり見付かったりしてしまったがそれでも捕まえたい、図鑑タスクを埋めたい等といったやや面倒な理由で戦うことも多いだろうが、これがオヤブン戦ともなると一大イベントと化す。

力量を測ってみる、こいつだけは絶対に捕まえてやる、以前ボコボコにされた相手に腕試しする、自分が死にそうだからやむなしで時間を稼いでもらう等といったはっきりとした目的を持ってオヤブンへボールを投じる。ポケモンバトルで捕まえるという選択肢を自ら選んで挑戦するのである。
激しいピアノのイントロと共にアップで表示されるオヤブンポケモン。こちらのポケモンとの対格差に戦慄し、相手の先制攻撃でこちらの初手が吹き飛ぶ様に唖然とし、見上げた先に表示されたレベルの高さに絶望するまでがテンプレの流れだ。

ポケモン倒す度に首グリンッって回してこっち見てくる マジで怖い

苦労の果てにオヤブンを捕まえると、辺りは静けさを取り戻す。手持ちのポケモン達が莫大な経験値を得るとともに、極限の緊張から解放された主人公/プレイヤーもたしかな達成感に包まれるのだ。初日にぐちゃぐちゃにされたオヤブンカビゴンを紅蓮の湿地編クリア後にリベンジし、初めて捕まえた時の喜びははっきりと覚えている。

以上のように野生ポケモンの捕まえ方を大まかに分別すると、①ボールを投げるだけでいい、②工夫して投げる必要がある、③バトルで弱らせるの3段階になるのだが、この違いが『アルセウス』の面白さを引き立てていると感じた。これはもうちょっと掘り下げてみようと思う。



リスクとリターン

上記3種の捕獲方法は純粋な難易度の他にかかる手間や時間が異なり、この差がゲーム性を高めているといえる。ここでは手間・時間をリスクと表現する。リターンはそのまま入手できるポケモンを指す。

①は本当になんの工夫もいらない。通り魔の如くすれ違い様にボールを当てるだけでいいしなんなら成否の確認のために立ち止まる必要すらない。そのぶんリターンも少ないが、図鑑タスクや賞金のためにエサをあげたり背面取りを試みたりすることもある。実行するかはプレイヤーに委ねられており、ポケモンの可愛さやヒットストップの心地よさが自然とモチベーションになるのがよい。

②は背面取りを積極的に狙うパターンが多い。エサ、めかくしだま、フェザーボール系統といったひと工夫で成功率がぐっと高まるのがやりがいあっていい感じ。

③はバトルの難度はもちろん、所要時間も①なんかと比べたらめちゃめちゃ長い。HPを削っていいボールを投げれば大体捕まるのは、わざわざここまで段階を踏んだのに何球投げても捕まえられないのは好ましくない体験だと判断したのだろう。リターンの大きさは今更語るまでもない。

といった感じで、捕獲には都度ストレスと報酬が用意されており、その塩梅が上手いことまとめられているからここまでのめり込めたのだろうと思う。



テンポがいい

『アルセウス』では図鑑タスクをこなすため数えきれないだけのポケモンを捕まえたり戦わせたりすることになる。正直作業感を覚える場面もあるだろうが、テンポの良さでだいぶ軽減されている。

戦闘のスムーズさ

『アルセウス』の戦闘は1ターン目が始まるまでがとんでもなく早い。従来の作品の例として『ブリリアントダイアモンド・シャイニングパール』と比較してみる。

エンカした瞬間から操作可能になるまでの所要時間(手動計測)

もはや天と地ほどの差がある。シームレスなのも没入感を高めている。
ここでもBGMの話になるが、戦闘曲恒例のイントロ16分音符パートが1小節しかないことからも戦闘開始をテンポよくしようという意図が感じられる。3小節目が終わる頃に技選択できるのは破格の早さだといえるだろう。

『スカーレット・バイオレット』もシームレスだが、こちらはなんというかぬるっと戦闘に移行する。BGMもフィールドのアレンジやパートが増えたもので『アルセウス』ほどのメリハリがない。それだけ野生ポケモンと戦うというのが一般化したということなのだろうか。その点エリアゼロでの戦闘曲には緊張感があった。

また、戦闘が終わるのもめちゃんこ早い。レベルが上がった後の技覚えの件を丸ごとスキップできる。過去作で低レベルポケモンのレベルを一気に上げる際、一体何秒間B連打しながら「では…… (新しい技)を覚えなくてよろしいですか?」の時だけA連打しなきゃと画面をちらちら見ていたのだろうか。
進化のタイミングが任意になったのもテンポの他にユーザーへの配慮を感じた。従来の仕様のままだと進化前の図鑑タスクを埋めるために何度も何度も進化キャンセルする羽目になっていただろう。
キング/クイーンを鎮めた後にこの工程を挟んでいたらだいぶ興が削がれていたと思う。いいことずくめである。

テンポの使い分け

先ほど3種の捕獲方法のリスク・リターンの話をしたが、これはそのままテンポの話にもなる。
捕獲が簡単なポケモンはサクサクと、脅威となるポケモンはじっくり時間をかけて相手をする。ポケモンと向き合う時間・集中力にメリハリが生まれるため、これもまた没入感を高める効果があるといえる。
一口に「テンポがいい」と聞くと「早くてサクサクプレイできる」とイコールで結びがちだが、『アルセウス』はテンポの緩急に優れているのである。


ここまでたびたび似たような話を続けているが、ざっくりまとめると「リスクとリターン」「テンポ」がより「没入感」を高め、この3要素が『アルセウス』を『アルセウス』たらしめているということである。とにかく没入感がすごい。気付いたら2、3時間溶けていたなんてのが日常だった。

処理落ちしない

フィールドで同時に様々な行動をとれるが、ほとんど処理落ちしない。雨の中めかくしだまで身を潜めエサでポケモンを誘導しついでに近くのたまいしときのみをポケモンを2匹投げて同時に採取する、なんてことをしても処理落ちがないのは本当に凄い。きっと湖でヘイラッシャの群れに囲まれてもぬるぬる動くのだろう。



世界観がいい

すっかりご長寿となったポケモンシリーズだが、過去のシンオウ地方であるヒスイ地方が舞台という設定を活かし、色々と斬新な切り口やシリーズにおける重要な役割の描写に挑戦している。

つい読みたくなる図鑑テキスト

本作のポケモン図鑑はただ捕まえるだけでなく研究レベルを10まで上げなければ読むことができない。団員ランクにも影響するためある程度は図鑑タスクをこなす必要があるのだが、作業間を拭えない場面もしばしばある。しかしラベン博士が書く図鑑テキストがいちいち面白く、古めかしい言い回しが好きなことも相まって積極的にタスク埋めに勤しむことができた。
ポケモン研究はラベン博士がほぼ一人で行っており、この時代のポケモンが人からどう見られているのかが窺えるとともに、ラベン博士の人となりや当時の人々の暮らし等もなんとなく読み取れるようになっている。
以下お気に入りのテキストを一部紹介する。

恐らく自分でつばさでうつ受けてる 痛そう


恐らく自分の研究機器が破壊されてる かわいそう


文学にも明るい 異国の地の文献を読み漁れるのかなり凄いのでは


民俗学も研究に活用している 最後の「おっかねぇ~」いる?


我が姿を重ね見る博士に主人公もまた我が姿を重ね見る うーんノスタルジー


一言目が「顔がいい」で笑ってしまった はどうに波導の字を当てたのはラベン博士のようだ


テキストを読み進めていくうちに、「好きなポケモンのテキストを読みたい」「現代では解明されている生態をこの時代ではどう表現するんだろう」といったモチベーションが自然と湧いてきた。とはいえテンポの悪いゲームだったら面倒臭さが勝っていただろう。テンポがよくて本当によかった。


人とポケモンの関係 ~ポケモンシリーズにおける位置付け~

どうも『ブラック・ホワイト』あたりから「人とポケモンはなぜ共にあるのか、どのように共に生きるのか」が大事なテーマに据えられている気がする。『サン・ムーン』での御三家の選ばれ方然り、『ソード・シールド』のホップとウールーの成長然り。『スカーレット・バイオレット』でレジェンドルートがメインシナリオの一つになったのも恐らくこれらの系譜なのだろう。

『アルセウス』はというと、「ポケモンは怖い生き物です!」と断言する博士に始まり、1匹捕まえるのがやっとな調査隊員たち、ムックルに触れられない女性、薬の材料がチュリネの葉と知るや否や逃げ出す薬師、etc……
ニャルマーオタク等もいるにはいるが、基本的に人とポケモンは、共には生きられない。共に生きているのはキャプテン等の立場や素質がある一部の例外だけである。
それがストーリーを進めるにつれ、徐々にポケモンを理解しようとする人が増え始める。最終的にはオヤブンイワークとトンネル掘りをしだす男まで現れる始末。彼は大丈夫なのだろうか。

『アルセウス』は人がポケモンに歩み寄ろうとする過渡期を描いた作品であり、その中心に主人公がいるのである。シリーズファンにとって大事な作品に位置するのではないだろうか。
神話が今も語り継がれる、シリーズで最もスケールの大きいシンオウ地方でこの過渡期を描いたというのが面白い。

これを端的に描いたサブ任務があるので紹介する。


サブ任務85「お気に召します軒下は?」

イソさんというおばあちゃんの家の軒下に住み着いてしまったチリーンの引っ越し先を探す任務である。
「ポケモンは何を考えているか分からないし怖いから出て行って欲しい」というイソさんの意向に反し、各所の軒下を案内してもチリーンは難色を示してしまう。繰り返すうちにイソさんがチリーンの気持ちを理解していき、「あなたの鳴き声がもう日常なのよ」と我が家で暮らすようお願いする。チリーンが喜びの音色を大きく奏で任務達成となる。

これだけ。これだけである。やること自体はただのおつかいクエストだが、ヒスイ地方の人とポケモンの関係性の変化をこれでもかと示している。怖い生き物だったポケモンが一緒にいないと寂しくなる大切な存在に変わるのである。
ヒスイで長く暮らしたであろう老人が固定観念を取っ払っているのがまたいい。こういうのでいいんだよ。

アニポケ補正でチリーンと共にある」ことを選んだ結末に余計感動したのかもしれない。名場面製造機チリーン

何気ない一枚。だけど最高の一枚。


常体おわり

おわりに

以上が『アルセウス』初見プレイの感想です。こんなにのめり込んでゲームに取り組めたのは本当に久し振りだったし、ポケモンでこんなに新鮮な体験ができるとは思ってもいませんでした。アウトプットの過程で新たな気付きもあり、『アルセウス』をより深く知ることができたことも含め、筆を執って良かったです。おかげで楽しく書き上げることができました。
是非ともこの形式のポケモン(Pokémon LEGENDSシリーズ?)をまた制作していただきたいです。次は発売日に買います。

また本noteは本作プレイ以前の私のような「ポケモンシリーズは好きだけど『アルセウス』はちょっと……」という方に、是非本作をプレイしこの没入感を味わって欲しいと思いながら書き上げました。願わくばそんな方々の目に留まらんことを。

誤字脱字等あればhttps://twitter.com/Show_Kitchenまでお伝えください。最後まで読んでいただき有難うございました。


おまけ

生放送でプレイしていました。深夜(現実)に採取がやめられない人の視点です。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLjXdktFc3zlg2xfPBSr55gzHUn1PUFZod


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