図解

複合施設化だけだと失敗する〜名ばかり「稼ぐ」公民合築施設開発の問題点と解決策、3つのポイント〜

2018.4.8更新 8200文字
【目次】
1.縮小均衡という解決策しか生まれていない、朽ちるインフラ問題
2.自治体による「稼ぐ公共」による本当の自治時代に必要な3つのポイント
3.実例からみるポイントの理解〜オガールプロジェクト〜
4.全国的普及に向けた取り組みの開始と第二第三の事例

昨今公民合築施設の話題が盛んであるものの、単なる複合施設化だけではとんでもない失敗を招くことになります。単に公共施設と民間施設を一緒にしても全く意味はありません。

地方にとって力になる、財政が悪くても緊縮にとらわれずにできる経済開発と公共サービス充実の原理原則について過去に寄稿してきたコラムを改変してまとまったレポートとしました。稼ぐは手段であり、目的ではない。その理由を解説します。

1.縮小均衡という解決策しか生まれていない、朽ちるインフラ問題

昨今、地方都市において大変課題となっているのは、更新を一斉に迎える公共インフラの維持問題である。

東洋大学根本教授が著書「朽ちるインフラ—忍び寄るもうひとつの危機」(日本経済新聞出版社、2011) https://amzn.to/2H8dfMV において、東京オリンピックから50年が経過する2014年を迎えるにあたり、高度経済成長期以降に整備された我が国の公共インフラは一気に、建て替えなどが必要な更新期に入ると指摘している。しかしながら、従来我が国では公共インフラを増やす予算計画はあっても、建て替えなどの更新費用は全く見込んでいなかった。結果として、全てを更新すると仮定した場合、現在の予算に追加330兆円が必要になると試算されている。言うまでもなく、我が国の国家・地方双方の財政は極めて厳しい状況にあり、このような予算をそのまま捻出することは困難である。

このような状況を受けて総務省は自治体向けに「公共施設及びインフラ資産の将来の更新費用の試算」(http://www.soumu.go.jp/iken/koushinhiyou.html) という指針とシミュレーターを提供し、どれだけ今後更新費が必要になるかの試算を行うように指導を始めている。全国各地の自治体では「公共施設白書」が作成され、今後の財政計画に基いて、どれだけ公共インフラを削減しなければならないか、という目標数値の設定に躍起になっている。

 従来の自治体経営は、地元からの僅かな税収と国からの交付税等を組み合わせて行われてきた。水道などの受益者負担型の公共事業関連の特別会計以外には、自ら収入を増加させるといった「稼ぐ」という選択肢やノウハウがない自治体にとって、税収が減少する場合には、それに併せて公共インフラも削減するしか手段がないというのが現状である。

 つまり、公共インフラの更新問題は縮小均衡以外にめぼしい解決策が生まれていないのである。

2.自治体による「稼ぐ公共」による本当の自治時代に必要な3つのポイント

更新インフラ問題に対応するには、単に縮小均衡だけではなく、根本的な公共経営のあり方を変革する必要がある。簡単に言えば、各自治体別で「稼ぐ公共」のあり方を真剣に考える必要があり、その胎動は始まっている。

特に、木下が2015年に「稼ぐまちが地方を変える」https://amzn.to/2HiEuBI を出した後には各種政策に稼ぐという言葉が踊るようになっているが、今度は稼ぐことが自己目的化しがちである。私はあくまで稼ぐことは手段であり、目的ではないと稼ぐまち〜でも指摘している。

例えば、公共施設と民間施設を合築して「稼ぐインフラ」にするというのは、以下のようなイメージとなる。今の地方自治体は財政が悪化していくと緊縮を強いられ、必要な社会投資さえも自己判断ではできなくなる。常に各種地方支援制度を国から引き出しやることになるが、それでもなお稼ぐことができなければ、作れば作るほどに財政は悪化し緊縮を強いられることになる悪循環で地方は衰退してきた。結果として、「財政が悪ければ町民が必要とする施設さえたてられなくなる」。それでは地方自治体として元も子もないのである。

(1) 従来の「地方自治」の仕事では公共が守れないと官民が認める

つまり、稼ぐというのは、そのような負の連鎖を断ち切り、むしろ地方が自ら必要な力をつけるというプロセスにすぎない。財政が追い詰められて身動きがとれない自治体でも、稼ぐインフラのモデルであれば、金融機関から町の保証なしに(財政が悪化して裏負担構造などはできない状況)資金を投融資で引き出し、公共施設を開発できるのである。公共施設と民間施設が合築され、最低限の税(市町村負担)で、公共施設が一体開発でき、毎年の維持費の面でも民間施設が支払う家賃・管理費、さらには固定資産税といった収入が自治体に入り込むようにできることを目指す。つまり、自治体にとって財政根拠のある開発という当たり前なことをやるのである。

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