今週の小話#13



キャベツ…?

 先日買い物をしようとスーパーに行った時のことである。私はキャベツを買いたかったので、野菜売り場に向かった。丸いキャベツたちが山をなしている。

 …うん?いや、おかしくない?

 そこには、確かに”異物”があったのだ。ちょうど偶然、店員さんが近くを通りかかった。すいません、と思わず声をかける。あの、これって…。

「これ、レタスじゃないですか?」

 キャベツの山の中に一つだけ、明らかにレタスが一玉混ざっていたのである。店員さんもすぐに気づいたようで、申し訳ございません、とつぶやきながらレタスをレタス売り場の方へと運んでいった。

 レタスとキャベツが間違えられている現場に出くわしたのは初めての経験だった。そんな漫画みたいなシチュエーションも実際にありうるんだな、と思ってなんだか面白い経験だった。


交差点の落とし物

 先日街を歩いていたときのことである。100メートルほど向こうに、四車線道路と六車線道路が交わる割と大きな交差点が見える。通いなれた道であり、特に珍しいものはない。…はずだった。

 交差点の真ん中に、突如黒い何かが現れたのである。

 一目は、靴だと思った。だが意味が分からない。車から靴が落ちるという現象はあまり起きそうにない。バイクならギリギリあり得そうだが、はだしでバイクに乗り続けるのはあまり危険なのですぐ取りに戻ってくるだろう。だがあたりを見てもそんな気配はなかった。

 次に考えられるのは、鳥である。鳩か何かが墜落してきたのかもしれない。それにしては低い位置に現れたように見えたが、飛びたったところを轢かれた可能性はある。ただ、そのような可能性はあまり考えたくないところだ。誰かが車からポイ捨てした袋という線も同様である。

 そんなことを考えていると、いよいよ交差点に差し掛かった。横断歩道を渡りながら、”それ”の正体を確かめる。

 …靴であった。片っぽだけになったスニーカー。

 なぜこの靴は交差点の真ん中に突如現れたのだろうか。車から落とすとも思えないし、なぜ落としっぱなしなのかもわからない。まさかポイ捨てでもあるまい。何やら不思議な出来事であった。


恐怖体験

 先日、久々に実家に帰ったときのことである。私はお風呂に入ろうとしていた。シャワーからお湯を出し、頭にかける。この初撃が一番気持ちいい。湯を止め、ひとしきり顔を拭って目を開ける。その瞬間だった。

 私の足元、浴室の床を、何かが高速で這っていたのである。

 それは私を一撃で動揺させるには十分だった。私は目が悪く、普段はメガネをかけている。しかし、風呂に入っているので当然メガネは外している。それが何なのかはよく分からなかった。一目は、ナメクジかヒルのたぐいかのように思われた。しかし、それにしてはあまりに高速に移動している。かといって、蛇にしてはあまりに小さい。パッと見、10~15cmほどであろうか。だがそのサイズの蛇にしては太すぎる。

 モノは浴室の隅へと駆けていった。私はその正体を確かめようと、屈んで確かめる。そこにいたのは…

 ムカデであった。

 私は虫が苦手な類ではない。しかし私は無防備な状態でムカデと相対して冷静でいられるほど強くはなかった。精神的にも(私は風呂場でムカデに出逢う可能性について想像したことはなかった)肉体的にも(私は全裸だった)無防備すぎたのである。私は台所にいる父を呼んだ。

父「何?」
私「ちょ、ちょっと来て!」
父「どうしたの…?」
私「ムカデがいる!!!」
父「ムカデ!!!???」

 私の実家は別に田舎の農村とか山奥とかではない。普通の住宅街である。風呂にムカデが出没するのは全く持って通常の出来事ではない。

私「ど、どうしよう!?」
父「殺して!」
私「いや、どうやってよ!?今俺裸よ!?」
父「ちょっと待て!」

 父はどこからかアースジェットを持ってきた。私はそれをムカデに噴射する。ムカデは苦しそうに体をよじらせながら、しばらくすると動かなくなった。すでに台所に戻って料理を再開していた父を呼び戻し、ムカデの死骸をくるんだティッシュを渡した。ひと段落である。後に両親に聞いたところでは、浴室にムカデが現れたことなどこれまで一度もなかったようである。夏の夜の恐怖体験といったところであろうか。

 お風呂に入っているとき、目を瞑ると背後に誰かの気配を感じて少し怖くなることもあるのではないだろうか。しかし、私はいまやそのレベルには居ない。目を開けた時に足元に何かが這っている方がよっぽど怖い。結局、霊よりムカデの方が怖いのである。

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