のび太の兵士適性について

 先日Twitterのタイムラインを見ていたら、次のツイートが流れてきた。

 このツイートに限らず、のび太は兵士としての適性が高いというのはたびたび目にする言説である。本稿では、この意見に反論していきたい。

 まず、のび太に射撃の優れた才能があるのは周知の事実であり、それが彼の高い兵士適性を示すものであるのは間違いない。だが、のび太というキャラクターを構成する諸要素の中で兵士への高い適性を示すのはこの要素のみである。

 上記のツイートで指摘されているのは、「どこでもすぐに眠れる」という能力が兵隊向きであるということだ。だがこの解釈は成り立たない。そもそものび太の昼寝能力は、「どこでもすぐに眠れる」という代物ではないからである。原作においてのび太が早寝を披露する際は、そのほとんどが自分の部屋の中である。のび太が屋外で昼寝をしている様子自体は多々描かれているが、それらも裏山や空き地など慣れ親しんだ場所である。したがって、のび太の早寝能力は「どこでも」眠れるという要素を含んでいないのである。また、たとえ部屋の中であっても、昼寝のし過ぎであったり不安事があったりなどで眠れなくなる描写は多々ある(「ねむれる夜に砂男」など)。すなわち、のび太は「いつでもすぐ眠れる」わけでさえない。彼の昼寝能力は、「コンディションが良ければ即座に寝れる」というものであって、劣悪な環境下で入眠できることを保障するものでは無いのである。のび太の昼寝能力を持って、彼の兵士適性が高いと判断することは出来ない。

 またこのような言説は、射撃・昼寝と並ぶのび太の三大特技であるあやとりの意義を完全に無視している。あやとりが兵士としての適性の高さにつながるとは考えにくい。手先が器用な証拠だなどと強弁することは出来ようが、それではただのこじつけである。そもそものび太はあやとり以外の分野では手先が器ではない人物として描かれることが殆どだ。さらにいえば、『ドラえもん』という作品においてのび太のあやとり趣味は彼の男らしくなさ、いわば非男性性を象徴するものとして登場している(「男のくせにあやとりしてやんの」といったように)。むしろ兵士といったマッチョな要素から遠ざけようとしてキャラ設定されているのは明らかだ。

 のび太の裏三大特技、すなわち「ピーナッツの投げ食い」「漫画評論」「足でけん玉」も、そのいずれも兵士適性とは全く無関係だ。学力の低さは必ずしも兵士適性の低さを示すものでは無いが、少なくとも兵士適性が高いことを示すものでは無いだろう。何より致命的なのは彼の運動能力の低さで、この分野においては明らかに兵士適性が低い。彼が重度の近眼であることも兵士適性の低さを示しているが、彼の近眼は後に治るのでこの点についてはそれほど気にしなくても良いかもしれない。いずれにせよ、のび太というキャラクターを構成する要素として兵士の適性が高いものを見出すことは出来ない。

 この点について、「ガンファイターのび太」は反証になるどころか上述の議論を確証するものであろう。この話は西部の町でのび太がガンマンとして活躍する話だが、ここでのび太は人の命を奪う可能性のある実銃を扱うというプレッシャーや多勢に無勢な状況にパニックに陥りガンマンとしては機能しなくなる。彼が活躍しだすのはドラミがドリームガンという道具を貸してくれてからだ。心根の優しいのび太は人を殺すことは出来ない。より踏み込んで言えば、藤子先生が状況が状況なら人も殺せるキャラとしてのび太を設定するはずがないというべきだろう。

 以上の検討から、のび太は兵士適性が高いという意見は支持できない。射撃能力という唯一の例外を除いて、彼の特徴に兵士適性の高さを示すものは何もなく、かえって適性の低さを示すものが多いというべきだ。彼はただ射撃の天才なだけである。

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