ゴルギー(Gorgie)とその周辺地域について

 先日、昔を懐かしみたくなってGoogle mapでストリートビュー旅行をした。行先は私の第二の故郷、スコットランドはエディンバラである。私はこの町に物心つく前の幼少の折に2年半、その後断続的に計半年ほど住んだ。未就学児だったころのことは流石に覚えていないので、私にとって最も思い入れが深いのは、小学6年生の時に4ヶ月住んだ記憶である。そしてその時に住んでいた場所こそ、Gorgieであった。この地名は、数少ない日本語文献ではゴーギーとして紹介されているケースが多い。だが私はその文章を書いたのはイングランドかぶれの人間だと思う。スコットランド人のあの何を言っているのか分からないクソみたいな訛り切った英語ならば、あれはゴルギーと発音するはずなのだ。

 少しでもエディンバラのことを知っている方は、オールドタウンの中心にエディンバラ城があり、その正門からハイ・ストリートがホーリールードまで走っていることを思い起こせるであろう。アーサーズ・シートの絶壁の上でエディンバラの市街地を見下ろす気持ちよさは格別である。ネルソン・モニュメントは遠くに見えるが、カールトンヒルとアーサーズ・シートではやはり気持ちよさが違う。ちなみにホーリールード宮殿の手前には、かの栄光のスコットランド議会(Scotish Parliament)があり、その隣にはダイナミック・アースという施設がある。この施設はマジで楽しいので機会があってエディンバラに行く方はぜひ訪れてほしい。

 エディンバラ城からハイ・ストリートを下らずに北へ行くと、谷合の部分に大きな公園があり、その向こうにプリンスズ・ストリートがある。この公園こそ市民の憩いの場というべきであろう。東の果てにはスコッツ・モニュメントがあり、この詩人―サー・ウォルター・スコット―の功績を現代に伝えている。公園のなかほどには美術館があり、パルテノン神殿のような造形になっていて非常にカッコいい。だが、毎年夏になるとスポンサーであるキャンベルのスープ缶を模した筒で柱が包まれてしまい風情もクソもなくなる。こういうところでも資本主義の猛威を感じられるだろう。スミスは、ワットは、これで良いとしたものだろうか。

 この公園には大きな駅があり、それはウェイヴァリー駅という。ここはエディンバラの中心をなすターミナル駅であり、実際ロンドンへ旅行へ行く際にはここから列車に乗ったものだ。ただ今回の目的地はロンドンではないので、この話には触れない。

 ウェイヴァリーから西へ如何程か進むと、ヘイマーケットという駅がある。この駅前はY字路になっているのだが、その左の方、すなわち西南西の道を進んでいく。私の記憶では、バスで10分ほどであったように思うが何分昔の話なので定かではない。定かではないついででいえば、当時の私は小学生価格でバス代が60ペンスだったと記憶している。これは当時のレート言えば120円くらいのはずだ。まぁ妥当か。

 ヘイマーケットから通りを西南西に進んでいくと、そのうちGorgieにつく。最初の目印は、左手に見えるマクドナルドである。ここはスコットランドで最もおいしいレストランのひとつと言っても良いだろう。言うまでもなく、味は日本のそれと変わらない。

 マクドナルドがあるところから右手にはアーケードの商店街が広がる。ここがこの町の中心と言えるだろう(ただしこの辺りは厳密にはGorgieとは別の行政区画らしい)。マクドナルドのある交差点から直進せずに右折すると、セインズベリー(Sainsbury's)という大きなスーパーマーケットがある。ここは私たち家族がメインの買い物場所としていたところだ。

 表通りをさらに進んでいくと、フォルクスワーゲンとアウディの店がある。…というのは十数年前の話だ。今ではどうやら別の店になっているようだった。だが、明らかに居抜きだったのですぐにわかった。なぜ私がここを覚えていたのかと言えば、その店の道を挟んで隣の建物に住んでいたからである。つまりこのVWが、私にとって家の目印だったのだ。もし道に迷ったりすれば、ここに帰ってくれば大丈夫。最悪タクシーに乗ってVW at Gorgieと言えばいい。そんな場所だったのである。幸いそんな機会はなかったが。

 ゴルギーには大きな特徴がある。この町にはビール工場があり、麦芽の特徴的な香りが町中に漂っているのである。もはや私はその匂いを思い出すことは出来ない。だがもう一度嗅いだなら、これがその匂いであると確信できる自信はある。匂いの記憶とはそういうものであろう。

 家の前を通り過ぎてさらに西へ進むと公園がある。この公園では父とよく野球をした。私はこの公園をリバーサイドスタジアムと呼んでいた。公園を囲むように川が流れていたからである。父との野球は当時の私にとって最も楽しみな娯楽の一つであった。

 先ほど我々がメインの買い物場所としていたスーパーとしてセインズベリーを紹介したが、もう一つよく使っていたスーパーがあった。ASDAである。だが地図を見てもこのよく通ったASDAがどこにあったのかが分からない。どうやら我が家より南西に行ったところにASDAがあるのだが、記憶よりは遠すぎる気がする。私の記憶違いなのか、潰れてしまったのか…。

 なぜASDAの場所が大事なのかと言えば、ある道がどこにあったのかに関わってくるからである。我が家の裏手には細い道があったのだが、その両側は芝生の植え込みがあり、そこには野生のウサギがたびたび現れた。私はこの道をうさぎの小道と呼んでおり、好きな道だったのである。そして私の記憶によれば、この道はASDAに続いているはずだったのだ。しかし、地図上で見るASDAはとうていそのような気ままな散歩でつける距離ではない。

 もしかしたら私の記憶違いで、うさぎの小道はセインズベリーに続いていたのかもしれない。セインズベリーなら十分徒歩圏内だ。ストリートビューの上でも、セインズベリーに続く、記憶の中のうさぎの小道によく似た道が確認できた。だがどうにもおかしい。うさぎの小道は我が家のすぐ裏から出ていたはずだがどうにもそういう感じではないのだ。

 結局、うさぎの小道がどこにあったのか、それはどこに続いていたのかは分からなかった。今度実家に帰った時にでも両親に聞いてみよう。うさぎの跳ねる小道が、川辺の公園が、あのビールくさい街が、今は懐かしい。いつかまた、訪れたいものである。

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