指す将順位戦運営に対する提言

 本稿は表題のとおり指す将順位戦の運営に対して提言を行うことを目的とするものである。わざわざこれを断っておくのは、あくまで提言であり、批判ではないということをはじめに示しておくためである。運営という激務に従事していただいているということを考えれば、一参加者として深い尊敬と感謝の念を抱かずにはいられない。本稿は、指す順がより良くなるためには何が必要かについて、個人的な見解をまとめるものである。以下に三つの提言を述べる。 

①運営のメンバーとその役割分担を分かりやすい形で公開すべきである

 現在、運営としての意思決定に関わっているメンバーは誰なのか、あるいは実務上の役割分担はどのようなものになっているのかについて、システムなど参加者なら誰でもアクセスできる場で、まとまった形で公開するべきであろうと思う。だれが運営メンバーなのかを参加者がすぐにわかるようにしておけば、対局中にトラブった時などの対応がよりスムーズになるのは間違いない。

 とりわけ、単なる技術者や運営上の実務のみを担っているのではなく、運営としての意思決定に関わっているならば、参加者にはそのメンバーを知る権利があると思われる。このような透明性は、参加者と運営の距離を近づけるのに役立つだろう。当然、意思決定に当たって誰がどのような意見を述べたかについては非公開とする十分な理由が存在するのは言うまでもない。

 私はこのような提言を行うのは、透明性や公開性といった理由からだけではない。運営メンバーの中でどう役割が分担されているのか関心があるからである。誤解を恐れずにより強い表現で言い換えれば、責任の所在の明確化がどの程度行われているのか疑問を抱いている。集団的な意思決定が個人的な無責任を生み出すのはよくある話である。もちろん、棋戦の運営などという大変な事務を担ってもらっていることには最大限に感謝しており、現運営は無責任だと言いたいわけではない。防止策は必要だと思っているだけである。公開はそのための手段の一つに位置付けられるかもしれない。

②途中辞退に関する規則を緩和するべきである

 現行のルールでは、途中辞退者は原則として翌期の参加を認めないことになっている(四条五項三号)。例外は存在するが、それは「罹災等やむを得ない事情があった場合」に限られており、基本的には認められない。このルールは、「忙しいから指す順に参加するのやめようかな」と思っている人が、「参加してから考えればいいや」というような行動をとることを許さず、フットワークを重くしてしまう。結果として参加者を増やすうえでマイナスの効果を持っていると思われる。

 かといって、途中辞退を野放図に認めるのが好ましくないのは明らかである。この規定が、平気で途中辞退を繰り返す無責任な参加者を生まないために置かれたものであることは想像に難くない。そのような意味で、この規定には一定程度の合理性がある。したがって、ここで提言したいのは、この規定の撤廃ではなく緩和である。例えば、「途中辞退が通算二回に達した場合、翌期の参加をお断りする」といった具合である。あるいは、「残りn局以上残しているにもかかわらず辞退する場合、その翌期の参加をお断りする」といった規定の仕方もあろう。「途中辞退によって発生した不戦敗が通算11に達した場合、来季の参加をお断りする」なども筋がいいかもしれない。

 繰り返しになるが、途中辞退が続発することは棋戦の円滑な運営を妨げるため、それを防ぐための手立てが必要であることは確かである。しかしそれが、参加を渋るためのハードルになってはならない。以前別の記事でも述べたが、罰によって参加者をコントロールしようという発想は、そもそも間口を絞り切ることによってのみ、すなわちもし参加していれば普通に完走していたであろう多くの方々のハードルを上げて参加させないことによってのみ、可能になる。私が確信するところは、たとえ途中辞退者が増えても、それより参加者総数の伸びの方が十分に大きければ、それは指す将順位戦にとってプラスであるということである。この点を鑑みて、途中辞退に関する規制の適切な緩和が必要であると思う。

③シーズン終了後にアンケート等の調査を行うべきである

 運営は、参加者が指す将順位戦に対してどのような感想や不満を持っているのかを、より積極的に把握しに行くべきである。私のような放っといてもお気持ち表明するような奴の意見だけを聞くことは、参加者の意見を全く聞かずに独善の沼に沈むのと同じくらい有害である。わざわざ文章化するほどの気概がなくとも、簡単な質問に答えるくらいならやれる、という参加者は多いと思う。

 参加者がどこに魅力を感じたか、どこに不満を覚えたかを把握するのは、本棋戦をよりよくしていくために大きな助けになるだろう。とりわけ、新規参加者を継続参加者に変えるための有益な情報が得られるだろう。また、たとえば来期も参加するかを調査すれば、来期のおおよその参加人数を予測でき、募集期間中にどれだけの新規を取り込む必要があるかを計算できるかもしれない。

 似たようなことは以前も行われたことがある気がするが、十分な再考の上でこれを実施するべきである。本稿をこのタイミングで公開することを選んだのも、PO終了直後にこのアンケートを行うならば今が準備を始め得るギリギリのタイミングであるように思われたからである。

結語にかえて

 以上三点について運営には是非ご検討いただきたい。以下は蛇足ながら、 #みんなでつくろう指す将順位戦 について私見を述べることで結語に代えたいと思う。私は、このタグが好きではなかった。そんなことを言っている割に、参加者の意見を取り入れようという気概に欠けるように思われたからである。言うまでもなく、これは運営の過失ではない。聞き入れるべき”参加者の意見”が存在していなかったからである。ゆえに私は、指す順についてもっと広く議論しようよと参加者に呼びかけるような言論を多く行ってきたつもりだ。だが、それらの試みはほとんど無視されたといって良い。この点について、私はすっかり諦めてしまった。本稿が運営への提言という形を取って参加者への呼びかけという形を取らなかったことや、アンケートの実施を提言したことなどは、その表れである。いわばボトムアップ式の合意形成を諦め、上からの民主化に頼るしかなくなったなくなったというところか。ちなみに第二提言については、当初は「なおこの第二の提言に関しては、これを却下する場合、どのような議論を経てどのような理由で却下するのか公表することを強く求めるものである」と述べて締めくくっていたが、広く議論を起こす必要がないなら削除してしまってもいいと思い取り下げた次第である。

 結局のところ、ほとんどの人にとって指す順はただの将棋大会でしかないのであり、おそらくはそれが正しい認識なのであろう。みんなでつくろうという言葉に私が託したかったものは、きっと大したものではないのだ。本稿は、そんな諦念に対してほんのわずかに残った反抗心が、内々で済ませずnoteに公開するという形を取らせたものである。

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