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マイケルジャクソン: Thriller 40レビュー

今回の記事はタイトル通り、Thriller 40周年記念で発売された拡張版とモービル版SACDについてのレビューです。盤の詳細については過去記事で取り上げているのでそちらをご覧ください。
曲の感想と一緒に、音質についても触れていきますね。主観なので間違ってる部分もあると思うけど、そこは許容の心です。

それでは最後までお付き合いください。
長いよ。

①:モービル版SACD

というわけでまずはSACDからですね。
結論から言うと、この版は絶対に入手しておくことを“強く”お勧めします。

まず音ですが、これまでにないくらいのレベルでバランスがいいですね。
だからと言って地味であるというわけではないんですよ。一音一音が粒だち、お互いの良さを引き出している感じです。従来のマスタリングはわりかし高音部分にピークが設けられている傾向にあり、かなりシャリッとカチッとしている印象でした。そこに音圧を稼いでいる影響もあってなのか、シェイカーなどの音が刺さる傾向にあったんですよね。だから大きな音だと耳に刺さっていたんですよ。これまでの再販を含めたデジタル音源は、いい意味でも悪い意味でもデジタル音源っぽさが強い印象でしたね。

しかしこの版にはそれがない。どこまで音量を上げても気持ちがいいんです。
どうやらモービル社のマスタリング過程では、音を圧縮するコンプレッサーを一切用いていないそうです。見かけでは音が小さく、普段の音量で聴くと迫力に欠けますが、大音量で聴くことで曲が持つ迫力を体験できるというわけですね。

ちなみに僕が今まで聴いてきた中で一番音がいいと感じていたデジタル音源は、US初版CD(EK38112)でした。中古屋で1000円以内とかで買えます。気になる人は是非探して買ってみてください。

ジャケ表
ジャケ裏
左側に書いてある“Now Made In The U.S.A”が目印

このCDも悪くはないんだけど、でもこちらの方がまだカチッとしてて、アルバム全体を通してきくとやっぱり気になる部分がある。そう考えると、モービル版SACDはデジタルっぽさがないんですよ。まるでアナログを再生してるような感覚です。CD音源すら。なんで??

あとこのSACDは“ハイブリッドSACD”という、ディスク記録面がSACD層とCD層の2層構造になっており、それぞれの層にハイレゾ音源とCD音源が収録されています。なのでこのSACDは、SACDプレーヤーではハイレゾ音源(DSD)を、CDプレーヤーやPCではCD音源を聴くことができますし、CD音源はリッピングも可能です。どちらの音源も同じマスターから変換されているものなので、たとえCD音源であっても高クオリティでアルバムを楽しむことができます。僕はスマホで持ち運ぶ都合上CD音源を聴くことが多いですが、ありえないくらい音がいいです。
またモービル版のリマスター音源はデジタルで配信/販売されないので、サブスクなどで聴くこともできません。またモービル版は廃盤が軒並み高騰する傾向にあるので、定価で帰るうちに買っておくことを強くお勧めします。

今回のSACDを総括すると…
正に、「マスターテープを再生して、スピーカーから出てくる音をデータに収めた」という気概を感じる一枚です。
悩んでいるのなら今すぐ買いましょう。

②:拡張版CD/ハイレゾ

続いては未発表曲が追加された拡張版です。
僕はハイレゾで購入したのでその他諸々のボーナストラックが入っているんですが、今回は割愛します。量がえぐいし…

Disc.1 - オリジナルアルバム

従来のリマスター音源の使い回しのように聴こえますね。25周年と一緒かな。もちろんアルバムそのもののクオリティが高いのは当たり前です。シンバルやシェイカーのアタックにピークを持っていく傾向かつ低音がブイブイ出てるから、かなり現代的に仕上がっているイメージですね。中くらいの音量で聴くとちょうどよく、大きくしていくと次第に高音が刺さってきます。気持ちよく聴けるかと言われたら…うーん微妙。スマホで聴くには十分なのかな。僕はこれで聴くくらいならUS初版CDをリッピングした音源で聴きます。
上記のSACDも同時に出てるし、アルバム聴くならそっちで聴くよね。

あっさりしすぎか…?

Disc.2 - レア&未発表曲

今回5曲の完全未発表曲が出たわけですが、やはりマイケルは素晴らしいですね。「マイケルは常に想像を超える」のは間違いなかったです。

音質面での大まかな感想としては、オリジナルアルバムの雰囲気に引っ張られすぎて全体的に台無しになっているのを感じました。
またこれは推測ですが、今回出たトラックはソースの品質が高い”であろう”曲(アルバム最終候補まで作り込まれてボツになった曲→マルチトラックテープに高品質な録音が残っている)とそうでない”であろう”曲(早い段階で収録が見送られて作り込まれなかったり、ラフなデモで終わっている曲→極端に言えばカセットテープに録音したラフミックスやアイデアを吹き込んだテープ、放棄されたセッションテープのみ)とでかなりの音質差があり、しかもそれが交互に配置されているなど、混在しているのも一つの要因ではと考えています。40周年のために新たにミックスされた曲がないとすれば、この辺はなんとなく納得できる気がします。

さてここからは一曲ずついきます。題名が太字の曲は今回初出の未発表曲です。


Track.1 - Starlight ("Thriller" Demo)
アルバムタイトル曲でもある”Thriller”の原型となった曲ですね。元々低品質音源がネットで出回っていましたが、今回高品質版が出ました。最終バージョンよりもかなりディスコ感ある。あとシンセがかなり厚いですね。雰囲気が違うのはそれが要因かも?
音は…まぁよくないですねw リーク音源と比較するとノイズは少なくてクリアですが、特にシンセ音がコンプレッサーかリミッターで圧縮されまくってる感がすごい。デモ音源だからこの程度なのかとも思いましたが、その割にミックスが近代的なラウドネスウォーを彷彿とさせる雰囲気が漂っている。2008年のスリラー25周年では日本盤でのみGot the Hots(次トラック)が収録されましたが、それと似通った仕上がりなんですよね。もしかしたら実は2008年時点でスリラーセッションの未発表曲の一部はミックスされていて、そのバージョンを採用してるのかも。


Track.2 - Got the Hots (Demo)  
過去:Thriller 25周年 日本のみ, King of Pop (ベスト盤)

これもかなりディスコ調な曲ですね。アダルティーに盛り上がるマイケルが完成系アルバム”Thriller"なら、このトラックはまさに「パリピウェイ!!」系って感じでしょうかw
しかしこういう雰囲気の曲で完成度が高いのはさすがマイケルですね。オフザウォールとスリラーの間にアルバムがあったら、こういう曲が入ってたのかなと思う一曲です。
音は先述した通りですが、いかにも音圧が正義と言わんばかりのミックスですね。個人的にはこういう音圧競争の犠牲になった曲はミックスからやり直してほしいんですよね。しかも未発表なら尚更。今時だと音悪く聴こえちゃうよ。

Track.3 - Who Do You Know (Demo)
リリース情報が解禁される中でこのトラック名が出たとき、僕はこの曲について全く知らなかったですね。タイトルすら知らなかったです。
個人的には今回出た未発表曲の中では一番好きです。とてもソリッドで美しい曲ですね(内容は未練タラタラ失恋ソングですが)。ボーカルの被せ方はPYTのデモを、曲調はBad 25周年で発表された未発表曲”I'm So Blue"を彷彿とさせます。ベーストラックで一定のリズムを刻んでいるのは、おそらくRoland社のCR-78というドラムマシンです。今でいうMIDIや打ち込みの先駆けとなった機材で、指定した音を任意のリズムで流すことができるという、当時としてはかなり新しいものでした。

1978年発売のドラムマシン Roland CR-78
自由なリズムパターンを設定でき、保存もできたドラムマシンは当時画期的だった

この機械の発売は1978年ですが、一定のリズムを崩さずに好きな音を流し続けられるマシンが当時どれだけ画期的だったか
これだけソリッドな曲で要素も少ないので、そこまで音質は悪くなりようがありませんよね。個人的には文句なしかな。問題なのは、この曲がどのような形で現存しているかですよね。マルチトラックなのかなぁ。マルチが現存してるにしても40周年のためにリミックスされた感じがないので、もしかしたらラフミックスのテープか何かをダビングしたのかもですね。


Track.4 - Carousel (3分39秒バージョン) 
過去:Thriller Special Edition (1分49秒バージョン), King of Pop (3分39秒バージョン)

これの音質がまぁ最悪です。ボーカルがこもりすぎていて、全く伸びません。よくこんなんで販売側はOK出したよね!?っていうレベルというか、こんなのよく商品にできたよね。僕ならマスター発行後のプレス前にする検聴などの段階で弾くと思います。
曲自体は元々オリジナルアルバムに収録予定でしたが、Human Natureが現れたことにより収録が見送られたらしいです。まぁ確かに、Human Natureは上位互換としては最強すぎる曲だな…という印象です。


Track.5 - Behind The Mask (Mike's Mix / Demo)
今回の目玉の一つですね。スリラーにこの曲を収録するにあたってマイケルサイドは当時、この曲の権利関係の交渉を坂本龍一に電話で持ち出したというのは有名な話です。マイケルは新しいものに目を向けて作り上げるアーティストでしたし、Kraftwerkの"The Man Machine"についてもマルチトラックの使用許可を取ろうとしてたみたいなので、それと少し似てるのかな。特にこの時代の後、マイケルの作曲に大きな影響を与えていくジャンルだったのではと個人的に推測しています。Bad 25周年で発表された”Don’t Be Messin’ ‘Round”や“Dangerous”のEarly Demoといったトラックの、いわば源流だと考えています。
マイケルバージョンBehind the Maskは、2010年の段階でリミックスがリリースされていましたが、オリジナルデモは今回が初リリースとなります。YMOのオリジナルとは少し違うアレンジが入っているものの、基本的に使ってる音はほとんど同じなんですよね。似てるとかじゃなくて、本当にYMOオリジナルなんじゃねぇのかなこれ。
しかしイントロのアレンジやスネアの鳴り方が違うというか、オリジナルと比べて音が少ないです。
これってつまり、マルチトラックテープの複製をマイケルは当時どうにかして手に入れて、自分で勝手にアレンジしてみたデモ音源なのでは??
オリジナルから音を間引いてアレンジするという作業は、オリジナルマルチトラックを使用している以外でその説明がつきません。
坂本龍一は電話交渉の時、マイケルのデモ版を聴かせるようにと頼んだみたいですがそれは絶対にできないと言われたそうです。もしかして、当時この勝手にマルチトラック使って作ったデモしかなかったから聴かせられなかったのかもしれませんねwww
音質は、まぁ悪いですね。ソースの記録媒体が原因の可能性もありますが、そもそもYMOオリジナルもノイズそこそこ入ってるしね。けどここまでではないです。Mike's Mixとの表記ですが、マイケルがミックスしたバージョンということでしょうか?テープボックスなどにそういうラベルが貼り付けられていたのかもしれません。

Track.6 - Can't Get Outta The Rain
過去: The Girl is MineシングルB面、The Essential MJ 3.0など

まぁ、特に言うことはないですww
元々はマイケルが出演した映画「The Wiz」の挿入歌「You Can't Win」の歌詞を少し変更して再録音されたものが、後にシングル両面でPart1と2の合計7分越えの曲としてリリースされます。このタイトルはそのPart2部分を指すものなんですね。その後、当時The Girl is MineのB面にこの”Can't Get Outta The Rain”というタイトルで収録されることになるので、そのタイミングで命名されたのでしょう。


Track.7 - The Toy (Demo)
これも発表されるまで知らなかった曲です。
公式によると、マイケルが生前最後に仕上げたと言われている曲“Best of Joy”(リミックス版が2010年発売)の大元となった80年代前半のデモで、1982年上映の映画The Toy(邦題:おもちゃがくれた愛)にインスパイアされた曲なんだそうです。90年代には”I am Your Joy”というタイトルになり、最終的に”Best of Joy“になったわけですね。
この段階で、歌詞の大まかな構成は出来上がっていたみたいですね。メロディラインやコーラスもかなり完成されており、フレーズの微調整やアレンジをどうするかの段階といった印象でしょうか。いい意味で、このトラックはスリラーっぽくないですね。
ストリングスの音がかなり本格的に入っていますが、これは生録音の音なんでしょうか?これだけ初期段階でラフな曲にこれだけのストリングスは珍しいと思います。
まさかサンプリングシンセではないと思うが…
後日オーバーダビングした可能性も高いですね。

ただなんかねぇ、フェードアウトが不自然なんですよねぇ。すごいグイッと下がるっていうか、雑なフェードアウトなんですよ。
とある方によれば、この曲のフル尺は約3分半。なのに今回リリースされたものは3分ちょっと。つまり後半30秒が無くなってるんですよね。フェードアウト後は同じフレーズを繰り返すコーラスだけらしいですが、せめてリードボーカルのアドリブが終わるまではフェードアウトして欲しくなかった。


Track.8 - Sunset Driver (Demo)
過去: The Ultimate Collection

このトラックが収録されるとなった時、かなり賛否両論がありました。というのもこの曲はスリラー用ではなく、前アルバム”Off the Wall“だからだと言われていたからです。しかしThe Ultimate Collectionのクレジットを見ると、この曲は1982年の曲となっているので、一応スリラー用のトラックであるというのが公式見解となっています。
とはいえこの曲、Off the Wallの時代の曲と言われても違和感ない、勘違いされやすい曲だと思います。こういうシンセアレンジじゃなくて、逆にOff the Wallのように生音だけで構成された分厚いソウルチックな、セッションサウンドの方が合う気がしますね。立ち位置はGot the Hotsと一緒かなぁ。少なくともスリラーに入る曲ではないです。

Track.9 - What a Lovely Way To Go (Demo)
2010年にアルバム”MICHAEL”用にリミックスされたことがあるそうです。そのリミックスの冒頭数秒の断片がネットにリークしていました(タイトルはLovely Way)が、フルのデモ音源は今回が初出となります。ま、リミックスなんて出なくて正解だったよ。
初見で聴いた第一印象は、マイケルっぽくないな?という感じ。どちらかといえばクイーンっぽい?ピアノの雰囲気もそうですが、後半の”easy for you”のコーラスフレーズは特にクイーンを彷彿とさせるニュアンスですね(偏見ですw)
これが本当にスリラー用だったのか、疑いたくなりますね。元々作ってはいたんだろうけど…
楽器はピアノとマイケルのボイパ、アカペラのみ。ピアノよりボーカルの方が厚いのは、さすがマイケルですね。This Is Itのボーナスディスクに入っているBeat Itのデモを彷彿とさせます。
この手のデモ音源は、いわばスケッチ。そもそも一般販売を前提にした音源ではないので、音質は愛嬌です。これに耐えれないのであれば、きっと今後出る音源を受け入れるのは難しいと思います。


Track.10 - She’s Trouble (Demo)
発売以前に低音質版がリークしていましたが、ファン待望、ついにクリア音質でのリリースとなりました。リークしているスリラー期の未発表曲の中ではお気に入りの一曲だったので、今回リリースが決定した時はかなり嬉しかったですね。
この曲がスリラーに収録されないとなった後、Musical Youthというグループが歌ったバージョンがスリラー発売からおよそ1年後にリリースされています。
この曲、特にマイケルバージョンは、どこか緩い雰囲気ですよね。力が抜けるというかw
マイケルは歌う時に「ッダ!!」や「アオッ!!」といったアドリブが有名ですが、この曲には「ッヘィー!」や「ッイィー!」と言ったこれまでにないアドリブが聴けますww 新しいレパートリーが増えましたねww
この曲は、スリラーに入りそうで入らないかなぁ。強いていうならBaby Be MineとかPYTの位置になるのかな。The Girl is Mineが実現していなかったら、もしかしたら入っていたのかも?
あと、アウトロがかなり長いのも特徴かな。特別アドリブがあるわけでもなく、コーラスが繰り返されるだけです。これがアリなんだったら、なんでThe Toyを勝手にフェードアウトさせるんだよw


Disc-2 まとめ

というわけでだいぶ長くなりましたが、なんとか拡張版をまとめ切りました。さて、問題はこれを買うべきなのか。聴くべきなのか。
マイケルファンじゃなく単に洋楽を普段聴いてるよっていう人は、わざわざCDを買う必要はないですね。サブスクでいいです。
未発表曲は既出曲の音質が悪くなっていたりするので、今回初めて出た曲以外はYouTubeとかで聴けばいいと思います。物によってはそっちの方がマシですから。
マイケルファンなら、フィジカルでもハイレゾでもいいので必ず買いましょう。

個人的に今回の40周年拡張版は、いわば序章。前置きに過ぎないと考えてます。なぜなら
10年後にはスリラーが50周年を迎え、確実にたくさんの音源が蔵出しされると私は考えているからです。
つまり今回のリリースは50周年版の見本市。こういうラフな音源もリリースするよ。という公式からのメッセージだろうと推測しています。
今回前向きなレビューが増えれば今後マイケルの未発表音源が蔵出しされる頻度も上がり、量も増える可能性がありますね。それこそOff the Wallのボックスセットや拡張版のリリースを助長することになるかもしれません。
だからこそ、ファンは買って応援しましょう。

あと、なぜかTrack.9の様なラフなデモ音源にMIDIなどで音を付け加えて“Alternate Mix”とか“Finished Version”とか題名にくっつけてYouTubeアップロードしてる奴らがいますが、個人的には単純に不愉快ですね。
そいつらは、マイケルの未発表曲を“勝手に”インストをリミックスしてドヤ顔でリリースしてきた奴らと何ら変わりません。
ならばせめて、遺された音源に敬意を払ってマイケルが遺したままの音源はそのままで聴くのが、リスナー側にとってあるべき姿勢なのではないでしょうか?
恥ずかしくないの?バカなの?

他アーティストで例えるなら、ビートルズのアウトテイクにMIDIでオーバーダビングするのと同じ。それがどれだけ愚かで民度低い行為なのか、いい加減気づいた方がいいよ。それを正当化してる囲いも同様にね。


③最後に

というわけでかなり長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれている方はどれだけいらっしゃるでしょうか。
次にマイケルの未発表曲がリリースされるのはいつでしょうか…全く想像もつかないですが、もしSACD含め新たに良さそうな物が出るとなったらまた紹介、レビューしようかと思います。

リボルバーのレビュー記事は今年中には完成させたい…


それではまた。

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