ange de bonheur(アンジュ ド ボヌール)

いつも思っていた。なぜこんな病気になったのだろうかと。考えてもキリが無いけど、そう思ってしまう。普通にご飯を食べる事、普通に生活をする事も出来ない。完全に寝たきり状態になってからは気付いた事もあった。それでも願う、どうか神様お願いします。1日でもいいから病気を治して下さい!

「ねぇ。ねえ。ねぇってばー」
何か声が聞こえてくるな。なんだろう?
「ねぇ。ねえ。起きろーー」
何者かが叫んだ。
「はっ、誰だよ、うるさいなー」
声がする方を見たら、そこには天使みたいな者がいた。
「やっと起きたね!」
「君は誰?」
恐る恐る聞いた。
「ワタシ、ワタシはねー。驚くだろうけど、天使だよ!」
「てててっ天使⁉」
驚いて、ベットから落ちた。
「そうだよ! ワタシは天使のくるみだよ!」
たしかに翼らしきものがあるけどと思いながらくるみをじっと見ていた。
「なに見てるのかなーそんなに見て、キミはエッチなのかな?」
「いや…本当に天使なのかな?って思って。だからエッチじゃないよ!」
「ホントかなーー。まぁいいや。それと、疑うのもしょうがないけど、天から見てたからキミの事ぜんぶ知ってるよ! 神様に1日だけでも病気を治して欲しいって願ってたよね!」
そう言っている天使のくるみは、宙に浮いていて体が白く輝いていた。だから疑う余地は無かった。
「信じてくれたかな?」
「まぁ信じるしかないよね。驚いたけど。」
「少し安心したよ! 分かってくれる事は知ってたけどね」
「知ってるって?」
「うん、天使は未来がちょっと見えるんだよね! ワタシは天使としてのランクが低いからあんまり分かんないけど……」
「そうなんだ。すごいね!」
「そうかな~。そういう事あんまり言われないから嬉しいな!」
そう言っている天使のくるみは笑顔で僕はドキッとした。
「いや…… 喜んでくれてこっちも嬉しくなるかな」
顔をまともに見れなかった。
「照れてるの? 可愛いね!」
僕は恥ずかしくて顔が赤くなってしまい、うつむいた。それに天使のくるみは気付いたが、見て見ぬふりをした。
「さてと、そろそろ本題に入るよ!ワタシがなぜ、キミに会いに来たか話すね!」
「うん」
「さっきも言ったけど、ワタシは天使でキミをずっと見てたんだ。神様に言われてたくさんの人間を天使や精霊が見守っているんだよね。ワタシは下級天使だから……キミ1人を見守る事しか出来ないんだけどね」
「そうなんだ。天使も大変だね! でも、人間に会いに来て良いの?」
「う~んとね…… どうだったかな…… ダメかも。でも、大丈夫だよ!」
 笑いながら天使のくるみは言っていた。僕はホントかなと思った。
「そうなのかな? まぁいいや…」
「それでね、キミは願ってしまったよね? 普段はしないよ! でも、キミの病気を治してあげようと思ってね……」
何か少し顔が暗くなったような気がした。
「キミ‼ 聞いてる?」
「え? 聞いてるよ! すごいビックリしてさ…… 本当に⁉って思って……」
自分でも驚いて言葉が上手く出てこず、なぜかナミダしてしまった。
「キミがナミダを流すの珍しいね……」
「いや…… そうだね。僕にも分からないよ!」
空気が少し重くなってしまい、気まずくなった。
「べつにキミが暗くならなくても…… 明るく行こうよ‼それに話はまだ終わってないよ!」
「そうだね…… 病気を治すって、どういうこと?」
「うん。説明するからちゃんと聞いてね‼キミの病気を治せるのは1日だけで、その日をキミが選んでよし‼という事。でも……治したら……。キミが、治した次の日に死ぬ事になるんだけど……何でそうなるか、感の良いキミなら分かるよね!」
「たぶん…… もうすぐ僕が死ぬからでしょ?なんとなく分かってたけど……」
「そうだよね。でも、ちょっと言いにくかったよ!」
「ごめんね…… 僕の為に来てくれて。病気を治してくれるなんて夢みたいでさ」
「ワタシの独断で来た訳だから、謝らなくても良いよ! キミはキミの事を考えていて欲しいな! 今まで頑張ってきたんだから!…… じゃあしっかり考えて決めてね。人生の最後を」
「うん!」
「良い瞳だね!」
その時、どこからか声がした。天使のくるみは慌てていた。
「あぁぁぁーー‼ 忘れてたーー!」
「どうしたの?」
「ごめんね。訳は言えないけど、もう帰らないとだから。どうするか決めたら呼んでね!」
「分かったよ」
天使のくるみはさっそうと帰って行った。空を飛んでいたその姿は神々しかった。
    
               ★ ★ ★

僕は1日考える事にした。今までの人生を振り返ってみた。良い事も悪い事もあった。差別を肌で感じたり、泣きたくても泣けず強がりをしてた。
学校でも先生と揉めたりしたけど、ちゃんと分かってくれた先生もいた。
楽しかった思い出は数少ないけど、どれも輝いていて大切な記憶。
学生の時に仲良くしてくれた美空(みく)が言っていた。
【人生は生きて死ぬだけという事は決定事項。それなら楽しもうよ!怖い事なんて何も無いし出来る事を全力でやれば、いつかきっと、良い事があるって私は信じているよ!】
この言葉には感銘を受けた。
この時代は色々な出来事を経験した。病状が悪くなったり、1番の友達の死を目の当たりにした。学校にもなかなか通う事が出来ず、社会とのつながりが途切れた。
そんな時でも美空(みく)は僕に良くしてくれた。
だから僕は、彼女に恩返しをしたいと思った。
  
                   ★ ★ ★

「たとえば、僕の病気が治ったとして、その代償で次の日に死ぬとしたらどう思うかな?」
「どうしたの? 急に。でも、そんな事があったら悩むだろうけど…… 自分の人生だから、たとえ1日しか治らなくても、それに賭けてみても良いんじゃない? だって奇跡が起きるんだから。それに生きているものは、いつかは死ぬんだし、いつ死ぬのか分かんないから後悔しないように生きないとね!」
母は、いつも前向きで明るい。
「そうだね…… ありがとう!」

               ★ ★ ★

そうこうしてるうちに23時を過ぎていた。
どうするかは最初から決まっていた。なぜならずっと想像していたから。死ぬ可能性があっても治るかもしれないなら僕は…… リスクを恐れない。
「天使のくるみさん、僕は決めました。」
目の前が急に明るくなった。
「天使のくるみちゃんだよ!」
急に現れて驚いた。
「ビックリしたよ! それに自分にちゃん付けって」
「もう⁉良いじゃないかそんな事!」
天使のくるみはちょっとふくれていた。
「ごめん、ごめん!」
「別に良いけど…… ところで、もう決めたんだね!」
「うん、決めたよ!」
「そっか…でも、最初からきめてたでしょ!」
「そうだね…どうせいつかは死ぬんだしね」
天使のくるみは静かに頷いて、両手を前に出した。
「いくよーー」
そう言うと、天使のくるみの両手が光輝き、僕の体も光った。その光景は神秘的だった。
「何か眠たくなってきた…」
「ごめんね…この力を使うと対象者は眠くなるんだ」
僕は寝てしまった。
「また明日ね」
気付いたら僕は眠っていたらしく、起きたら夜中の2時を過ぎていた。
「寝てしまったのか…」
まだ体に変化は無かった。
「なんか目が冴えたな。なら時間もったいないし、死んだ時の為にみんなに手紙を書こうかな」
僕は3時間かけて手紙を書いた。それから少し寝る事にした。
     
                 ★ ★ ★
   
「おっはよう~」
僕は驚いて起きた。
「ビックリさせないでよ!」
天使のくるみは急に現れた。
「もう少しで動けるようになるけど、みんなにバレたらマズいから記憶を操作したよ!」
「え? どういう事?」
「言わなかったのは悪いけど、どういう事かはすぐに分かるから!」
「うーん…… まぁいいや」
「それじゃあ、人生最後の1日を楽しんでね!」
天使のくるみは帰って行った。
そして、運命の時がきた。
「なんだこれ⁉ 力が……」
これまでこんな感覚を僕は経験したことがない。不思議な感じだった。力が漲って呼吸がしやすくなり、起き上がる事が出来た。
「すごいよ⁉」
とにかく僕は驚きと喜びを隠せなかった。
「よし! 立ってみよう!」
僕は立とうと試みたが上手く立てなかった。歩けていたのは小学校低学年ぐらいまでだったから無理もないかと思った。
感覚を掴む為に1時間も掛かってしまったが、なんとか立って歩く事に成功した。
「やっと上手くいったーー! 天使のくるみ、ありがとう! さて、いそごう!」

最後の1日が始まった。
病気が治ったら最初にしたかった事は、ちゃんとしたご飯を食べる事。
僕は、ミキサーをかけてペースト状にしないと食べられないから、好きな物をたくさん食べたいと思っていた。やっぱり食べれるって幸せなんだって感じていた。
朝は久し振りに家族団らんで朝食を食べた。
僕は卵かけご飯に卵焼き。味噌汁に鮭の塩焼き。前の日の残り物の肉じゃがを食べた。
「本当に美味しかった! 美味しすぎて涙が出るよ! ありがとう、生きてて良かった!」
家族は不思議そうに見ていたが、そんな事は気にせず僕は泣きながらも笑顔でいた。
母がどうしたの? と聞いてきたが、なんでもないと答えるしか無かった。
天使のくるみの言った通り記憶が改変されている様子なのが伝わってきた。
「ごちそうさま!」
喜びを抑えて急いで部屋に戻ったら、そこには天使のくるみがいた。僕はまた驚いてしまった。
「さっきも言ったけど、急に出てこないでよ⁉」
「ごめんごめんご! でも、記憶の改変すごいでしょ!」
「素直にすごいなと思ったよ!」
「でしょ! くるみちゃんにかかればこんなのおちゃのこさいさいだよ!」
「いちいち古いな!」
僕は思わず笑ってしまった。
「笑わないでよ! でも、やっと笑ったね。良かった!」
「そんなに珍しいかな?」
「うん。キミをずっと見てきたけど、数回しか見た事ないよ!」
「そうか……」
「そんな事より、次はみくりんとデートでしょ! 頑張って!」
「デートじゃないよ。それにみくりんってなんだよ、呼んだ事ないよ!でも、楽しんでくるよ!」
「それじゃあ、またね!」
天使のくるみは、また帰って行った。
僕は美空の家まで行った。
「びっくりしたよ!YOUから連絡してくるなんて…嬉しい!」
「相変わらずで良かったよ!」
僕が美空と会うのは久し振りだった。連絡もあんまりしていなかった。
「でも、どうしたの? 急に会いたいって」
「無理言って悪いね。でも、なんとなくじゃダメかな?」
「ううん、良いに決まってるよ! 決まってるじゃないの!」
「ありがとう!」
デートではないけれど、こういう事をしてみたかった。女の子と出掛けるというのを。
どこに行くか伝えてなかったから、まずは映画を観ようと僕が言おうとしたら「ねぇ映画に行かない?」と美空が言ってきた。
「僕もそのつもりだったよ!」と言うと美空は「気が合うね!昔からそうだよね!」と返してきた。「そうだね!」と言いながら僕は昔を懐かしんだ。ショッピングモールの中にある映画館へは歩いて向かう事にした。その道中にお互いの近況や世間話などをしながら歩いた。
三〇分後―
ショッピングモールの中にある映画館に着いた。
「こんなに歩いたのは久し振りだよ。」
「私もそうだよ!」
「美空ちゃんもそうなの?昔は陸上やってたのに」
「そうだけど、時間なくてね…それに陸上を始めたのはYOUの…あっ…」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ!」
僕は美空の言動が気になったが何も言えなかった。
「それより映画は何観る?」
「うーん、どうしようね。うーんと…じゃあ【カラフル】にしようかな」
「良いね!」               
二時間後―
「どうだった?僕は面白かったけど…」
「面白かったよ!少し悲しかったけど…良い映画を見せてくれてありがとう!」
「こちらこそ付き合ってくれてありがとう!」
僕と美空は映画の感想を言い合った。
「そろそろご飯を食べようよ」
美空に言われるがままついて行くと、そこは寿司屋の前だった。
「YOUは寿司が好きだったよね!」
「うん、でもよく覚えてたね!」
「まぁあね! 私も寿司好きだから! たくさん食べよう!」
僕はお寿司を20皿食べた。主にサーモンを。
美空は大食いで大会でも優勝した事があるぐらい食べるのが好きで、お寿司を50皿もたいらげた。美空はこんなに食べたのは久し振りだったらしいが、僕からすれば相変わらずすごかった。
そのあとは本屋に行き、僕は1冊の本を美空にプレゼントした。その時の笑顔が印象的だった。本屋をあとにし、もう夕方になっていたから帰る事になった。
「今日は楽しかったよ!」
「私も楽しかったしYOUと遊べて嬉しかった!」
「なら良かった!」
「あのさぁ…… 夜も出掛けない? YOUが良ければだけど…」
「良いに決まってるよ、僕も同じ事を考えていたから!」
「ありがとう!」
美空の提案で夜空を見に行く事になった。

                     ★ ★ ★

「良かったね! 天使のくるみちゃんは羨ましかったぞ! それでどうだった?」
「楽しかったし嬉しかったよ! ていうか見てたんだね。そうだろうとは思ってたけど」
「もうビックリしないんだね!」
「さすがにね!」
「素敵な笑顔だね!」
「そうかな! まぁー最後ぐらいはね!」
「うんうん! 残りの時間も楽しんでね!」
「ありがとう!」
天使のくるみは去っていった。
「さてと、美空(みく)ちゃんの待ち合わせまで四時間あるから色々やるか!」
僕は最後の日記を書いたり、絵を描いた。あっという間に二時間過ぎた。
「ご飯出来たよ」と母に呼ばれて1階に降りたら焼肉が用意してあった。僕は人生最後の食事を楽しんだ。
そうこうしてると美空との待ち合わせの時間になり、僕は待ち合わせ場所の小高い丘へ向かった。そこには美空(みく)がベンチに座っていた。
「早く来てた?」
「ちょっとだけね」
「そっか」
そう言いながら僕は美空の隣に座った。
「今年は晴れてるから天の川がよく見えるね。綺麗で神秘的だね!」
「うん、でも今日が七夕って忘れてたよ!」
「え、でも…… そういう所YOUらしいね! 星が笑ってくれてるよたぶん。それに今年は織姫と彦星がちゃんと会えたと思うから!」
「そうだね! もう僕は見れないと思うけど、こうして美空ちゃんと天の川を見れて良かったよ!いつかまたこうして美空ちゃんと星を見にこれたら嬉しいな!」
「そんな事ないよ。また見れるに決まってるじゃないか…… まるで死ぬみたいに……」
美空はそう言いながら涙を浮かべていた。僕は気づいてないフリをした。
「織姫と彦星みたいにまた会えたら幸せだね!」
「そうだね!」
美空は笑顔で答えた。泣くのを我慢しているようだった。
それから1時間ぐらい話して解散した。

家に帰ったら天使のくるみが待っていた。
「最後の1日はどうだった?」
「本当に幸せな1日で楽しかったよ! ありがとう天使のくるみちゃん!」
「いやー、その笑顔が見れて良かったよ!」
天使のくるみも嬉しそうだったのが心に残った。
最後はあっけなく天使のくるみは「もう帰るね」と言って去っていった。
「ありがとう! 生まれてきて良かったよ!」と僕は言った。
          
               ★ ★ ★

「くるみちゃん教えてくれてありがとう!」
「いえいえ、みくりんには伝えておかないとダメでしょ!」
「YOUからの手紙を読んだけど私が記憶を改変されてない事に気づいてたみたいだよ!」
「それは、みくりんの演技が下手だからだよ!」
「そうだね…… まぁいいけどね! ところでさ何で自分が罰を受けるのにYOUを治したの?」
「それはね…… 秘密だよ!」

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