学生の設計はユートピア?

 ユートピアとはその名の通り、現実には存在しない理想の世界のことです。前回の記事で「建築学生は建築を作れていない」ことについて述べました。建築学生が設計しているものはユートピアなのでしょうか?

 グレゴリー・クレイズは『ユートピアの歴史』の中で「ユートピアとは単に理想を求めるものなのではなく、可能と不可能の狭間にある空間を探求することなのだ。」と述べています。哲学者のチャールズ・テイラーは、クレイズと同様の意見を持ちながらも以下のように述べています。「ユートピアとは、目指すべき方向をわれわれに指し示してくれるものなのであって、いつの日か条件が整えば実現されるかもしれない。しかしそこに到達するまでの舵取りの目安として役立つようなものにほかならない。」

 ここで、彼らの主張するユートピアを「リアルなユートピア」と呼ぶことにしましょう。

 これらをふまえた上で、建築学生の設計がどういったものであるのか考えます。マウントフジアーキテクツの原田真宏氏曰く、学生の設計は建築を作っているのではなく模型やCGを作るのが目的に過ぎません。しかし、私が在籍する芝浦工業大学の建築学部では、藝大の卒業設計のようなアンリアルな設計は評価されない傾向にあるように感じます。つまり、学生の設計(特に卒業設計など)は建たないという前提がありながらも建つことを目指している、「リアルなユートピア」な存在であるのです。

 リアルなユートピアを成功させるには、自分がいま作っているものが「ユートピア」であると認識しておかなければなりません。また、ユートピアを作る力も必要だと私は考えます。ユートピアの作り方を熟知していると、理論の一般化を実行しやすくなります。例えば、多くの卒業設計は恣意的に敷地を設定して行われます。しかし、もし自分の理論を一般化したいのであればそのやり方はナンセンスです。数学的帰納法でも、最初の過程を一般化するためにn=kの状態(つまりユートピア)を検証します。

 あなたの設計が敷地の特性から考えるsite specificではなく、自分の理論を検証するsite dominantなのであったら、ユートピアの思考法を鍛錬して一般化することを目指すべきでしょう。

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