日本科学教育学会 2021年度第2回研究会に参加して

前書き

本記事は、理科教育アドベントカレンダー2021の20日目の記事になります。この理科教育アドベントカレンダーでは、様々な立場の方が「授業実践の事例」、「授業外での理科教育(科学教育)に関する取り組み」、「今後の理科教育において必要になる研究領域」といった内容を紹介して下さっています。とりあえずなんか書いてくれということだったので、先日(12/19)に参加した学会のことでも書こうと思います。
今回はせっかくなので、学会に参加したことがない人にむしろ読んで欲しいので、僕が初めて学会に参加した時の話も書きます。

実は学会にずっと参加してなかった

僕は学生時代、発表無しでも、学会に参加したことはほとんどありませんでした。別に研究者になろうとも思っていなかったし、交流を増やしたいとも思っていなかった(友達は足りてたしそもそもそんなに多くなくていい)し、学会発表するよりも研究論文として査読通した方が偉いじゃんと思っていたからです。別に情報なら、ネットさえあればどこからでもアクセスできるし、とも。いわゆる「斜に構えた」学生だったかもしれません(そういえば大学院の面接で「君は斜に構えてるね」と言われて、意味を知らなかったのでその時は勝手に肯定的に捉えました。後日調べてみると、通俗的にはめちゃ悪い意味でした笑)。ですが、学会発表をしていない僕に、ある日先輩がお叱りの言葉をくれました。「祥太郎はもっと外に出らんといかんぞ」と。信頼している先輩からのお言葉だったので、それを受けてすぐ、教育心理学会に発表なしの参加申し込み、そして科学教育学会の若手活性化委員会主催の研究会@長崎大学に発表ありで申し込みました。2019年のことです。M1で大学院に入ったのが2013年ですから、普通に考えると学会デビューはかなり遅いと思います。(実は2016年に科学教育学会に参加していたのですが、その時はEASEとの同時開催だったので、科学教育学会に参加しているという認識がありませんでした)

若手活性化委員会の雰囲気

さて、発表を申し込んだものの、自分の中では初めての科学教育学会です。僕の出身研究室は科学教育が専門ではないので、この学会のことを知っている先輩はいません。そこでとにかく何かアクションを起こさんといかん、と思っていたところ、どうも当日のボランティアを募集しているらしいことがわかったので、早速申し込みました。当日行くと、どうも若い人が多い、というか全員僕より年下っぽい。不安でいると、委員長の大谷先生が優しくも声をかけてくれ「長沼先生は唯一教員で参加してくれていますね、ありがとうございます」と言われました。どうやら、僕以外は全員大学生・大学院生だったようです。笑 そういえば、このときにバングラデシュで知り合った山口美緒里さんと会えたのは、正直ありがたかったです。
さて、学会が始まりました。チュートリアルでは、僕が名前を知っている人が多く、ちょっと有名人に会えた感覚です。当時から新進気鋭の研究者だった中村大輝さんが「そこまで難しい研究方法使わないでいいんじゃないと言われたんだがどう思うか」みたいな質問をしていて、山口悦司先生が「科学教育学会では査読者は書き手を尊重するようにということを査読依頼の文書で明記している」といったことを言われていた記憶があります。
その後、第一部のポスター発表が始まりました。僕は結構人見知り(コミュ障ではなく、話始めが苦手、というかめんどくさい)なので、さてどうしようか、と悩んでいましたが、とりあえず気になるポスターの前に行きました。で、それを眺めていたら「よかったら説明しましょうか」と言われ「はい、お願いします」と。ここまできたらあとは簡単です。話を聞いて納得できなかったことを聞けばいいので、それは普段通りです。そんな感じで見て回っていたら、別に知り合いほぼいなくても普通に会話できました。
さて、その後が確か自分がポスター発表する第二部でした。幸いなことに多くの方が来てくれまして、発表していて暇はしなかったです。いわゆる「あ、名前見たことある有名な先生や!」の中山迅先生、山口悦司先生、北澤武先生が来てくれたときはかなり嬉しかったです。山口先生は、「一度話してみたかった」みたいなことを言ってくださり、北澤先生は「ぜひこれを投稿してください」と言ったようなことを言ってくださった記憶があります。中山先生には、「この論文、投稿したら研究論文でもいけますかね?」とちゃっかり質問して「いけるんじゃない?」と言われたので、勝手にお墨付きをもらっていました。笑 
そんな感じで、この時の研究会では思ったよりも普通に楽しめ、でも休憩時間に気軽に話したりの人は出来ないなーという感じで、長崎を後にしました。簡単にいうと、まだ部外者だなーという気持ちはあるものの、まぁ悪くはないな、という感じです。
2019年の研究会が終わり、2020年は原稿が間に合わなかったので一参加者として申し込み、2021年はまた発表者として参加申し込みをし、2021年12月19日を迎えました。

自分の発表

さて、今回の僕の発表の話に移っていきます。といっても、さらっとだけ。当日貼ったポスターがこちらです。

今回発表した研究タイトルは、「項目毎の理科離れの変動の可視化」というもので、「一般に使われている項目で理科離れ層を同定したらどれくらい項目間で変動あるのか?」を知りたくて行ったものです。確か、うつらうつら寝ながらふと「やるか」と思い立った研究だったと思います。個人的には、①可視化にサンキーダイアグラムを使ったこと、②右上にこっそり、これまでの研究を体系的に整理して書いたこと、がお気に入りです。かなりシンプルな研究かと思います。どれくらい人が来るかなーと思っていましたが、トータルで10人ちょいくらいだったかな。Slackメンバーが何人か来てくれたのが嬉しかったです。が、普段から話している人に来られると違った緊張感がありますね。笑
幸い、質問もたくさんいただくことができ、50分はあっという間でした。そして、まぁなんともありがたいことに、ベストプレゼンテーション賞をいただけましたので、これはありがたいなと。同期の雲財寛先生とも一緒に受賞できたことは個人的には結構嬉しいポイントでした

印象に残った発表

さて、以下では、印象に残った発表をいくつか見ていきます。敬称略でいきます。
一つ目は、佐久間・中村「仮説設定の段階的指導の効果―中学校理科「電流とその利用」の単元における継続指導を例に―」です。この発表がいいなと思ったのは、僕自身が「そういえば仮説ってどうやって考えているんだろう」という問いに立ち戻れたからです。そう考えたときに、やはり圧倒的に「知識」の影響が大きく、そもそも「仮設設定」に対応した能力(その能力を持っていれば、他の文脈でも仮設設定が上手にできるような能力)ってあるのかな、と改めて考える機会になりました。多分自分は、そういう能力論に関心大きいな、とも思いました。おそらくこれは、大学院時代の指導教員である松下佳代先生の影響が大きいと思いますが。
二つ目は、池田・辻「算数文章題の解決における数直線図の活用」です。これは、児童が書いた図を分析した研究で、面白かったポイントは、「そうか、こんなに児童が書く図が多様な中で、教科書はどうすべきなんだろうか。それぞれの図に近いものを個別最適化の原理に従ってそれぞれ示すのか、それとも、やはり限られたいくつかの図のみを表示して、そこに思考を近づけさせるべきなのだろうか」ということを深く考えさせられたことです。
三つ目は、御園ほか「文字式を用いた説明の理解に関する学習ログの分析:NoTAS システムを活用して」です。ラーニング・アナリティクスには最近関心があるので、多分ここで一番質問しています。面白かったポイントは、データからボトムアップに考えるラーニングアナリティクスに、理論からトップダウンに落とし込むアプローチ(話に上がったのは目標分析の結果)をどう組み込むか、と、学習ログの分析結果が、従来積み上げ式と思われた教科にも、そうでない教科にも「期待しているほどではないよ」という結果を返すのでは?という議論です。後者の具体として、例えば、「社会科は積み上げの科目ではない」と一般に思われているとした場合、「でも学習ログの分析結果からすると、この内容を理解していない児童生徒はこちらの内容も理解していないので、ここはやはり積み上げでは?」という示唆を与えるなどが考えられます。これは、発表者との質疑応答の中でお互いに生じた気づきだったので、やはり議論は必要だなと思いました。

今後の学会発表に対しての意見

今回、僕自身は2019年の参加時に比べて、参加を大いに楽しむことができました。その理由としては、自分が部外者だと感じていなかったためだと思います。なぜなら、2020年度から若手の科学教育研究コミュニティに入っており、この学会の中心メンバー、若手のホープたちと親交を深めていたためです。僕は科学教育・理科教育専門の研究室の出身ではないですが、このコミュニティのおかげで、だいぶ内側に居させてもらったなと感じています。
 一方で、みなさんがこのようなコミュニティに学会前に入るわけでもないのは明らかです。ですが、僕としては、2019年に味わった感情よりは良い感情を味わってほしいなと思っています。そのため、以下では、今回の学会参加を通じて感じた今後への改善点とともに、初めての人でも参加しやすく、少しでも「内側」の人(必ずしも中心でなくとも良いと思います)と感じられるようにするための案を述べます。

①ポスター発表中に、説明動画を視聴できるようにする
今回50分の発表時間でしたが、かなり短く感じました。感覚としては、あと15分はあると思っていたら終わっていた感じでした。50分あった割にはそこまで質問多くなかったな、という印象です。その理由を考えてみると、自分が説明する時間に結構使っているからではないかと思い至りました。また、聞き手の立場からしても、自分が部屋に入ったときにすでに議論が白熱していれば、そっと部屋を出るということがありました。説明を聞きたいだけというときももちろんあります。そのような場合には、他の人が実は質問したいのではないか、と思いながらわざわざ一から説明してもらうことに申し訳なさを感じる人もいるでしょう。これらの解決方法として、当日までに説明動画も作成してもらい、各自で好きなタイミングで見れるようにすると良いのではないかと考えます。

②議論でテキストも用いる
他の部屋に入ったときに、議論が行われているけれども、いったい何の議論か分からず、その場を後にするということがありました。また、最初から議論を聞いていたけれど、いったい何の話なのかわからなくなった、ということもありました。この解決策として、質問がある人はまず最初の質問をテキストとしてホワイトボードに書く、そしてそれを元に議論をする、などをすれば、あとから来た人も議論をフォローしやすいと思います。また、音声情報だけでなく、テキストという視覚情報を確認しながら議論することで、発表者と質問者のすれ違いも防ぎやすくなるはずです。

③研究計画の発表もありにする
 今回自分が発表していても、他の方の発表を聞いていてもそうでしたが、「今後検討します」と言って検討する人がどれくらいいるんだろうなと気になりました。これは、研究がまとまった段階で発表するのが当たり前になっている風潮(あるいはそもそものテンプレート)から来ていると思います。頑張って研究したのに「このデータ足りないんじゃない?」とか「この尺度ダメじゃん」となっても、発表者からしたら「今言われても無理じゃん」となるはずです。これは、質問者も悪くなく、発表者も悪くなく、システムの問題と感じています。そのため、現在の形式は残しつつ、「研究計画」段階で発表したい人の参加も可能とする方向に拡張できると、発表者にとっても今後に直結する有意義な意見をもらえますし、質問者としても「これ今更言っても意味ないな」という思いをしなくて済みそうです。

④交流会に「コーディネーター」を設置する
初めての方でも、「あの人と話したい」というお目当ての人はいると思います。が、なかなか話しかける勇気が出ないかもしれません。そのような方への対応として、「コーディネーター」を通して、その方が交流会で参加したいグループに手引きしてあげるような、そんな係を設置すると、より参加しやすいのではないでしょうか。

終わりに

以上、好き勝手に書いてきました。なぜここまで色々言うかというと、学会が重要だと今は認識しているためです(これはここ2年での成長ですね)。興味関心が近い、でも、それぞれ異なる知識を持つ人が集まる集団の中では、「こういう研究があるよ」という情報に辿り着くまでのスピードが跳ね上がります。情報化社会で、学術出版物も増加している現在、このメリットはかなり大きいと思います。また、学会で仲間ができると、「お!あいつまた論文出しやがった!負けてられん!」という競争心にも火がつきます。そして最後に、学会で色々なコミュニケーションをすること自体、人生の幸福度を高めると感じているためです。「自分と同じ関心を持つ人が、こんなにいたんだ」という感覚は、悪くないです。学会はコミケです。みなさんも、積極的にコミケに参加しましょう。笑


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?