ショウタロウ

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マガジン

  • 奴隷たちは夕暮れに涙する

    創作

  • Game 6

    ドン・デリーロ

  • 記憶の淡い名残

    創作

  • Years of Darkness

    ブレードランナー映画シリーズをもとにした創作

  • メメント・モリ(ジョナサン・ノーラン)

    クリストファー・ノーランの映画『メメント』の原作。インターネットで公開されている原文を翻訳した。

最近の記事

奴隷たちは夕暮れに涙する 3

アナウンサー1 さあみなさん、お待たせいたしました。それでは、第三次世界大戦、スタァアアト! (ファンファーレ) 奴隷A おい見ろ。 奴隷B あ? んだよこれ? アナウンサー1 さあさあ始まりましたあ。どきどきですねえ! アナウンサー2 はあい、ねええ… 奴隷A なんだってなんだよ。見たことねえの? 奴隷B ねえよ。 アナウンサー1 あれ? きみ、かわいいねえ! アナウンサー2 ありがとうございます! アナウンサー1 そしてスカートが短いねえ…  アナウ

    • 奴隷たちは夕暮れに涙する 2

      私は水でできている。他人にはわからない。体内に封じているから。私の友人たちも水でできている。みんな。私たちが抱える問題は、地面に吸収されないように歩かなければならないことだけでなく、生計を立てなければならないことだ。 ーーフィリップ・K・ディック Confessions of a Crap Artist  毎日、同じように日は傾き、部屋に射し込む。 今日の履歴を消去する  閃光、閃光、閃光。残像。 昨日と今日の履歴を消去する  世界が果てしなく縮み、一つの黒い点とな

      • high definition

        For those who are looking for the next great post-post-postmodern novel, this is it...and it's short. ---Anonymous reviewer People are suffering. People are dying. Entire ecosystems are collapsing. We are in the beginning of a mass extinc

        • Blade Runner: Years of Darkness #2

          Time and tide, he thought. The cycle of life. Ending in this, the last twilight. Before the silence of death. He perceived in this a micro-verse, complete. (時と波、と彼は考えた。命の循環。これに終わる、最後の黄昏時。死の静寂を前に。彼はこの中に完全な小宇宙を認識した) Philip K. Dick, Do Andro

        奴隷たちは夕暮れに涙する 3

        マガジン

        • 奴隷たちは夕暮れに涙する
          3本
        • Game 6
          0本
        • 記憶の淡い名残
          6本
        • Years of Darkness
          2本
        • メメント・モリ(ジョナサン・ノーラン)
          6本
        • モンタージュ
          2本

        記事

          捏造

          捏造された安らぎ 捏造された希望 捏造された絆 捏造された美 捏造された感動 捏造された快楽 捏造された苦悩 僕は今日もあらゆる捏造に埋もれながら幸福を感じる。 独り、声を上げて笑ってしまうほど、幸福だ。

          悪夢

           私の友人の話。  この前、電車の中で座ってるときにさあ、なんの前触れもなく急に眠くなって、眠ろうと目を閉じかけたんだけど、人混みのなか、少し離れたところに昔の知り合いの顔が一瞬見えた気がしたわけ。しかもすっごい美人のような気がしたわけ。それで美人の顔を確かめたくてまた目を開けようとするんだけど、眠すぎて目開かないんだよ。  うとうとしてるときに瞬間的にすっげえ鮮明な夢を見るときってない? そのとき、まさにそんな感じで夢に突入するわけ。で、夢のなかでは自分の部屋の布団の上で

          奴隷たちは夕暮れに涙する

           無数の風船が空を横切っていき、すぐに見えなくなった。  冷凍チャーハンがまた売り切れている。 「アクシェエエン」  監督が叫ぶ。アメリカ人の真似なのだろうが、擬音語的なくしゃみにしか聞こえず、いつも笑いそうになる。  女の後ろ姿が白い光に包まれていく。カメラが寄っていく。長く黒い髪がかすかに揺らめき、女がゆっくりと振り返り、顔が見えかけ 「カァアットゥッ」  監督が叫ぶ。 「いいね、エリちゃん、最高っすね」  私は狂ったように踊っていた。躍り狂っていた。狭い部屋で

          奴隷たちは夕暮れに涙する

          Fly a Kite

          Fly a kite, into the night. Into the night, and out of sight. Hold on tight, with all your might. As it reaches the height, you shake with fright. But put up a fight, and get it right. Fly a kite, into the night, until first light. 凧を揚げよ、

          Blade Runner: Years of Darkness

          (ブレードランナー映画シリーズをもとにした創作)  度重なる核戦争の被害を受け、日本は衰退の一途を辿る。  1990年代の宇宙開拓競争、2000年代のクローン人間・アンドロイド(レプリカント)の技術競争には加わることさえなかった。  2010年代からタイレル社製のレプリカント(ネクサス・シリーズ)が宇宙コロニー(オフワールド)から地球へ脱走する事件が後を絶たなくなる。政府機能が麻痺し始めていた日本には多くのレプリカントが流入した。これを無視できなくなった日本政府はアメリカに

          Blade Runner: Years of Darkness

          キャスト・ノー・シャドー

           予想通り、彼が住んでいた部屋は奇妙だった。  本棚が一つある以外、家具は何もなかった。本棚にはドラゴンボール全巻とアメリカの女性向けファッション雑誌が大量に収められていた。そういう人間だったとしか言い様がない。ドラゴンボールは元々古本だったのか、ボロボロだった。雑誌はすべて英語でまったく読めなかった。  それらの隙間にノートが一冊押し込まれていた。最初に日付が書いてある。日記をつけるつもりだったと思われるが、一日分しか書かれていない。日記を一日でやめるような人間だったとしか

          キャスト・ノー・シャドー

          記憶の淡い名残 6

           カミールが目の前に座っているのが信じがたかった。安っぽいカフェの風景から彼女は浮き立っていた。  僕はテーブルに視線を落とし、目を2秒ほど閉じて、開けた。  長い足を交差させ、ゆっくりとコーヒーを飲む姿を見ながら、背景をシャンゼリゼのカフェから突然すりかえたようだと思った。 「なにがおかしいの?」  彼女が怪訝そうに言った。急にニヤニヤし始めた自分が非常に気持ち悪いだろうことを自覚しながらもこらえられなかった。僕はごまかして旅はどうだったかなどとつまらない質問をした。彼女の

          記憶の淡い名残 6

          記憶の淡い名残 5

          「まだ肥料が入ってへんねん。これからまた肥料入れなあかんねん」 「そうですねええ」  アパートの隣の畑で農家のじいさんとばあさんが騒がしく話している。じいさんが何度も「肥料が入ってへん」と裏声気味に繰り返す。  時計を見るとまだ8時だった。勘弁してもらいたい。 「これから肥料入れなあかん」  じいさんの声だけが異様にでかい。  肥料を撒いていないことはもうよく分かった。眠らせてくれ。  男は引き金を引く。  同時にカチッと控え目な音が鳴り、僕と女は全身をビクリと震わせる。男

          記憶の淡い名残 5

          記憶の淡い名残 4

           シドニーはいつも「フラニーとゾーイー」のペーパーバックを持ち歩いていた。その薄い本の表紙やページは変色し、反り返り、折り目がついていて無惨なまでにくたびれていた。  彼女と初めて話したのは何かの授業のときだった。授業はつまらなかったことしか憶えていない。グループに分かれて発表をするような面倒な課題が出されていた気がする。誰もやる気がなく、課題はまったく進まなかった。皆ぼんやりとだべりながら授業が終わるのを待っていた。僕の隣でシドニーは例の本を読みふけっていた。彼女の美しい横

          記憶の淡い名残 4

          記憶の淡い名残 3

          「現実を捉えることが私にはますます難しくなってきている」  彼女は悲し気な目で僕を見つめた。 「もっとも、私はもうあなたが信じる現実という概念を理解できない」  僕は彼女の手を握ること以外に何をするべきか分からず黙っていた。 「まず私は現在という時点を把握できなくなる。時間は過去と未来が混ざり合った渦のようなものになる。私は時間から解放され、時間を超越するかわりに、現在を見失う」  病室にあたたかい陽光がさしこみ、彼女の顔を照らした。 「それから私は自分の意識の奥深くへもぐっ

          記憶の淡い名残 3

          今夜は良い夜になる気がする

           The Blackeyed PeasのI Gotta Feelingを聴きながらノスタルジアが押し寄せるのを感じた。あの頃はいろいろなことが今より単純に思えた。  今振り返ってそう思うだけで、実はたいして変わっていないのかもしれない。そんな気もする。  彼らが我々にその日を予告しただけでも親切だと思う。彼らは我々を哀れんでいるのか、いつも紳士的だ。  すべては人間が自ら招いたことだ。彼らを生んだのは我々であり、自分たちの滅亡を招いたのも我々だ。数々の不可逆的な判断を迫られ

          今夜は良い夜になる気がする

          記憶の淡い名残 2

           月は満ちていないが、異様に明るい。その光が雪に跳ね返っている。  振り返ると自分の影が落ちている。そして自分の足跡が茫漠とした雪原に一本の線を描き、地平線の向こうまで続いている。まだまだ歩かなければならない。腰まで積もっている雪を掻き分け、私はまた進み始める。  ある歌のメロディーが頭から離れない。しかし、どうしても歌詞を思い出せない。タイトルも知らない。  ボーカルは女性。洋楽。明るいポップソング。これしか分からない。  メロディーの記憶も曖昧だ。サビの一部分だけ。それ

          記憶の淡い名残 2