ピンク色の優しさが「いじめ」をなくす~ピンクシャツデー~

 カナダでは2月の最終水曜日を「いじめ反対の日」に掲げ、国を揚げてピンク色のシャツを着て、いじめ撲滅を訴える活動を行っている。今ではカナダ全土、イギリス、アメリカなど、世界75カ国に広まりをみせる「ピンクシャツデー」運動だが、もとは2人の少年の「勇気」から始まった。

 2007年、カナダのノバ・スコシア州の男子高校生がピンク色のポロシャツを着ていたというだけで、上級生から「ホモ」などとからかわれ、暴力などのいじめを受けた。その出来事を聞いた上級生のデイヴィッド氏とトラヴィス氏…当時高校3年生の彼らにとっては、その学校で過ごす最後の年だった。2人はディスカウントショップでピンク色のシャツを75着ほど購入し、クラスメートにシャツを着るようにメールで依頼した。翌朝、ピンク色のシャツやタンクトップを入れたビニール袋を手に登校した。

 学校に着いて校門で配りはじめようとしたふたりの目に映った光景…。それはピンクシャツを着た生徒たちが次々と登校してくる姿だった。ピンクシャツが用意できなかった生徒たちは、リストバンドやリボンなど、ピンク色の小物を身につけて登校してきた。頭から爪先まで、全身にピンク色をまとった生徒もいた。学校に行ってみると、そのメッセージは直接連絡をしなかった生徒にも伝えられ、校内はピンクのシャツや小物を身に着けた生徒であふれた。いじめられた生徒は、ピンク色を身につけた生徒たちであふれる学校の様子を見て、肩の荷がおりたような安堵の表情を浮かべていたそうだ。それ以来、その学校ではいじめがなくなった。

 少年たちの行動は、いじめの否を直接説き伏せたりすることもなく、自然発生的な力でいじめを止めさせる結果となり、以降、毎年2月の最終水曜は、学校・職場にピンク色で登校出社する 「ピンクシャツデー」が定着…大きな社会現象を起こすに至った。これは「2人の正義感溢れる高校生の美しい話」には留まらず、「多数の意思表明」により問題を解決した例として注目されている。一人ひとりの力は小さくても、表明する、行動に移す、ということは偉大なことだとの証明である。

 インターネット上では、ピンクシャツデーへの個人や職場での参加表明の写真や、有名人らのいじめエピソードなども掲載され、活動は国境を越え年々広がりをみせている。いじめに対して、生徒たちは言葉や暴力ではなく行動で意思表示をしようと立ち上がった。カナダの生徒たちが起こした行動が地元メディアで取り上げられると、瞬く間にカナダ全土へと広がり、アメリカのトークショーやスペイン最大の新聞でも紹介されるなどして、世界へと広がっていった。メディアで彼らのことが紹介された翌日には、アメリカ、イギリス、ノルウェー、スイスから彼らの元へ多数の賞賛や感謝を伝えるメールが届いたといい、大きな反響が伺える。いじめ問題は学校だけでなく、職場、インターネット上にも存在することから、職場単位での参加も広く呼びかけ、実際に多くの企業がスポンサーとしてピンクシャツを着て同運動に賛同しているという。「これが、私のいじめに対するスタンダードです」というように、カナダの人々はピンクシャツデーの日に自然にピンクを身に着ける。学校でいじめと呼ばれるものは、大人になるとハラスメントという言葉に代わる。大人になったからといって終わるものではない。みんなが考え継続して訴えていかなければならない運動である。この行動がきっかけとなり、毎年2月最終水曜日のピンクシャツデ―には、学校・企業・個人を含めた賛同者がピンク色のシャツを着て「いじめ反対」のメッセージを送り続けている。

 「いじめ反対」と声を大にして立ち向かうことが困難だとしても、どんな表現であれ自分の考えを示すことはできる。ピンクシャツデーはピンク色のシャツや物を身につけることで、『いじめを認めないという意思』を伝えることができるシンプルかつ効果的なアクションだ。いじめが問題となることが多い日本でも、ピンクシャツの運動が広がり、いじめがなくなることを期待したい。

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