見出し画像

神話から考える:盗みと自立にはどんな関係が?

 自立の意志は人間の心のなかから湧きあがってくる。安泰な世界を「善」とすれば、それを破るものは「悪」ということになり、自立は何らかの悪によってはじまるとさえ言える。従って、盗みに限らず、すべての悪は、どこかで自立にかかわるところがあるが、特に盗みが問題になりやすいのは、この行為の意味が非常に深いルーツをもっているからではないかと言われている。

 神話の世界で「盗み」と言えばプロメテウスの話を思い出す。ギリシャ神話のプロメテウスの物語はやはり人間の本性に触れるところがあるため、現在に至るまで多くの文学作品の素材となっている。

 ギリシャ神話の全知全能の神ゼウスは人間に火を与えなかった。人間は夜の闇の中で野獣を恐れながら過し、物を煮たり焼いたりすることも知らず、病気になりやすい生活をしていた。プロメテウスはこれを放置しておくことはできないと考え、火を天界から盗み出そうとした。

 彼はオオウイキョウ(地中海地方の雑草で、乾かすと燃えやすい)の茎を持って、天に登り、そこから火を盗んできた。太陽神の燃える車輪に燈心を押しつけて火を移し、隠し持って地上に帰ってきたと言われている。それ以来、人間は火を得て、これをいろいろに用いるようになった。

ここから先は

1,755字

¥ 390

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。