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忘れられたオーストラリア児童移民

 数年前のことだが、映画『オレンジと太陽』の試写会を観る機会に恵まれた。イギリスで1970年まで行われていた「児童移民」の実態を明らかにした女性活動家、マーガレット・ハンフリーズの実話を基にした物語だ。親から引き離された施設の子どもたちを強制的に移住させ、過酷な環境で労働させるという実態の「児童移民」。マーガレットは、事実を隠そうとする組織の圧力に負けずに、イギリスにいる子どもたちの親を探し出すために奔走する。 

 「児童移民」という国策の下で児童福祉予算の削減を目指したイギリス政府と、積極的に白人移民を受け入れようとしたオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、南アフリカなど英連邦諸国の思惑により、およそ13万人の孤児がイギリスから各国に送られた。孤児らの多くは、親の離婚や貧困のため、家族や親族から強制的に引き離され、両親が生存していても「亡くなった」と伝えられた。「食料は豊かで、カンガルーに乗って通学できるよ」といった甘言で誘ったり、中には、自分で判断できない3歳児もいたという。

 送られた先は、外部の監視のほとんどない国営や教会運営の施設で、体罰や精神的虐待、性的虐待、養育放棄、強制的な下働きなど心身両面での虐待を受けていた。子どもたちには、食事や教育、医療ケアも満足に与えられなかったという。また、多くは両親や兄弟の顔も知らず、施設間をたらい回しにされていた。自分の名前さえ知らない孤児もおり、子どもたちを番号呼んでいた施設もあったという。
 
 2009年11月にオーストラリアのラッド首相が、2010年2月にイギリスのブラウン首相が事実を認め、正式に謝罪をしている。ラッド首相は被害者を前に、「われわれは今日、わが国の歴史の醜い一章に向き合い、国を代表して、皆さんに謝罪します。『忘れられたオーストラリア人』である皆さんは、幼少時に何の了承もなく、家族と引き離されてオーストラリアに送られた。皆さんが適正なケアを受けられず、助けを求める声に先人たちが耳を傾けなかったことをおわびする。私が今何を言っても、皆さんの子ども時代を取り返し、時計の針を戻して過去の苦しみを消し去ることはできない。私にできることは、何十年もの間、苦難に負けまいと立派に生き抜いてきた皆さんの精神を称賛することです。」と語った。

 人権とか、自由・平等の理念とか、今では普遍的なものとして受け入れられている価値観が重視されるようになったのはそう古い話ではない。私たちは、この映画を一つの教訓として、「歴史の醜い一章」に隠されてきた人権侵害にしっかりと向き合い、私たち大人は、子どもたちの人権擁護に専心するのみである。 

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