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ラーゲリから愛をこめて

 第2次大戦後の混乱の中で起きてしまった惨劇、シベリア抑留をテーマにした映画『ラーゲリより愛を込めて』を見た。この物語は小説にもマンガにもなっていたため、映画化されたと聴き、上映を楽しみにしていた。
 
 ラーゲリはロシア語で「キャンプ」という意味で、夏休みになればラーゲリに行くことを楽しみにしているどもたちも多い、ロシア語ではポジティブな言葉なのだが、日本では「収容所」と訳され、つらい記憶を呼び起こす悲しい言葉となる。
 
 あまりネタばれにならないように書きたいが、簡単に言うと戦時中に満州に出兵していた日本軍兵士がソ連兵に拿捕されて、シベリアの収容所で働かされる話である。過酷な環境下での終わりの見えない労働。耐え切れず命を落としていく仲間。誰もが絶望に陥るなかで「ダモイ(家に帰る)」を信じて生きる山本幡男と、彼を持ち続ける妻モジミの愛の物語だが、それ以上に心に響くのは山本と仲間の深い友情だ。

 誰しも自分のことで精いっぱいなのに、仲間をかばい彼らにも希望を見せようとする山本。自分のために生きるよりも、誰かのために生きる人のほうがずっと強い。仲間の絶望が少しずつ希望に変わり、それぞれが強くなっていく場面が素敵だ。

 理解のできない山本の行動がいくつもあった。反抗的なことをしたらソ連兵に痛い目に遭わされるのは目に見えているのに、山本はわざわざ殴られにいくようなことをするのだ。しかし徐々に、その抵抗は人として生きる楽しみ、希望の火をともし続けるために必要な戦いだったのだと気付かされる。
その抵抗さえもやめてしまえば仲間同士の絆もできなかったし、おのおのが孤独に、少しずつ絶望の闇にのまれることになったことだろう。
 
 ひとたび戦争が起きれば憎しみは連鎖し、怒りをコントロールできず普通では考えられないようなことをやってのける人が増えるものだ。ソ連の戦死者数は1450万人と、ドイツの285万人、日本の230万人を凌駕して世界最多だったと言われている。それだけの命を奪った戦争で、やり場のない怒りを敵側についていた国の人に向けて当然だというふうに、日本人捕虜に憎しみを向けたソ連兵もたくさんいたのだろう。戦争は人から理性や良心を奪うものだ。

 山本幡男の出身地である島根県隠岐の西ノ島には「山本幡男顕彰之碑」が建てられている。その碑には次のように書かれている。

山本幡男顕彰之碑  
 凍てるシベリアに、故郷の海鳴りが聞こえる、ろんろん、ろんろんと。   
 過酷な抑留生活に耐えながら、人間らしく生きることの大切さを自ら示  
 した山本幡男  
 その生きざまを顕彰し、シベリアで亡くなった七万人同胞の鎮魂と、  
 永遠の平和を祈念するものである


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