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政治家の『失言』はなぜ許されるのか?

 2019年5月のことである。自民党内で「『失言』や『誤解』を防ぐには」というマニュアルが配られた。これがなかなか面白い。「失言」を防ぐにははまだ良いが、「誤解」を防ぐというのはなんだかおかしい気もする。

「『失言』や『誤解』を防ぐには」

発言は「切り取られる」ことを意識する
 報道各社は、放送の尺や記事の文字数など限られた条件の中で取材内容をまとめます。当然、政治家の演説会等での発言や映像を「丸ごと」発信することは、ほぼありません。確実に一部が切り取られ報道されます。わかっているつもりでも、意外と忘れているこのポイント、あらためて意識しましょう。

報道内容を決めるのは目の前の記者ではない
 
 日夜、政治家の動向や発言を追う報道記者。しかし、彼らの取材内寄がそのまま報道されるわけではなく、「編集」という作業が社内で加えられます。これは、取材内容を各社の方針に沿ってまとめたり、記事が多くの読者の目に触れるようにインパクトをつけたりする作業で、現場記者とは別の担当が行っています。ですから目の前の記者を邪険に扱うようなことはせず、自らの発言に注意しながら、丁寧に対応しましょう。また、親しい記者の取材も注意が必要です。説明を端折ったり、言葉遣いが荒くなったりしないよう心掛けましょう。

タイトルに使われやすい「強めのワード」に注意

 次の5つのパターンについては表現が強くなる傾向にあります。場所や周囲の状況を諸まえ、自らの発言をコントロールしていくことが大切です。プライベートな会合であっても、近くで取材されている可能性があります。また誰もがスマートフォンで写真や映像を発信できることを意識しましょう。
【パターン1】
  歴史認識。政治信条に関する個人的見解 → 謝罪もできず長期化の傾向
【パターン2】
  ジェンダー(性差)・LGBTについての個人的見解
【パターン3】
  事故や災害に関し配慮に欠ける発言
【パターン4】
  病気や老いに関する発言
【パターン5】
  気心知れた身内と話すような、わかりやすく、ウケも狙える雑談口調の
  表現

リスクを軽減する3つの対策
対策① 句点(。)を意議して、短い文章を重ねる話法
読点(、)が続くダラダラ喋りは「切り取り」のリスクが増し、「失言」や「誤解」が生まれるもとになります。句点(。)を意識して短い文章を重ねていくことで、余計な表現も減り、主張が誤解されにくくなります。

対策② 支持者や身内と使っている「危ない表現」を確認
周囲の喝采や同調に引きずられると、つい「公で言うべきことではない」ことを口走る可能性があります。身内の会合や酒席で盛り上がるような「トークテーマ」には要注意。日頃の言葉遣いを、第三者にチェックしてもらいましょう。

対策③ 「弱者」や「被害者」に触れる際は一層の配慮を
親しみやすい語り口、ざっくばらんな表現を使った演説の方が聴衆に届きやすいこともありますが、「弱者」や「被害者」が存在するテーマについては、表現に「ブレーキ」をかけるようにしましょう。

 正直言って、こんな基本的な失言防止策すら、いまだに自民党内では浸透していないのではないだろうか。上記のマニュアルが配布されてからも体質は何ら変わっていない。自民党が関係する失言集を作成してみた。

政治家の問題発言事例集

 2019年2月、問題発言では定評のある某財務相が、「子どもを産まなかったほうが問題だ」と発言。当然のことながら批判をあび、発言を撤回した。「子育て世代が文句を言わず子供を作りさえすれば少子化は解決する」、つまり「女は、結婚しろ、子供を産め、育てろ、そして、働け」という短絡的な考えに基づいた発言だ。

 2003年6月、当時の某首相が、「子どもを1人も作らない女性が年を取って、税金で面倒をみなさいというのは、本当はおかしい」と発言。

 2007年1月、某厚労相が「女性は産む機械」と発言。

 2009年5月、某首相は「(自分は)子どもが2人いるので、最低限の義務は果たした」と発言。

 ナショナリズム喚起や家父長国家観の強化を意図してなされる発言もある。

 2015年9月、某官房長官による発言。福山雅治氏の結婚にあたって、「ママさんたちが、子どもを産んで国家に貢献してくれればよい」と出産を国家と結びつける発言を堂々とテレビで行った。

 2017年11月、某自民党議員が党役員連絡会で「子どもを4人以上産んだ女性を厚労省で表彰してはどうか」と発言。

 2019年2月、某オリンピック・パラリンピック担当大臣が競泳の池江璃花子選手が「白血病」と診断されたと明らかにしたことをめぐり、記者団に対し「がっかりしている」と述べ、批判を浴びた。

 2021年2月、元首相が東京五輪オリンピック・パラリンピック大会組織委員会長の立場で、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」と発言し、15万筆の講義署名が集まり辞任。

 2021年8月、某名古屋市長が女子ソフトボールのエースの金メダルにかじりついたばかりか、「ええ旦那もらって、旦那はいいか。恋愛禁止かね」と発言。

 2021年10月、某自民党副総裁が衆院選の応援演説で訪れた北海道小樽市で、「温暖化と言うと悪いことしか書いていないが、いいことがある」「(北海道のコメについて)温度が上がり、うまくなった。それを輸出している。これが現実だ」と発言。発言を受けて翌日夜のテレビ番組で総理大臣が陳謝。

 2018年7月、某自民党女性議員が月刊誌で、LGBTと呼ばれる性的マイノリティーの人たちについて、「彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり『生産性』がない。そこに税金を投入することが果たしていいのか」などと発言。この女性議員の失言は数多く存在する。

 2014年の国会で「日本に女性差別というものは存在しない」と発言。
 2016年には、産経新聞のニュースサイトに載せたコラムで、保育所増設や夫婦別姓などを求める動きについて「コミンテルン(共産主義政党の国際組織)が日本の家族を崩壊させようと仕掛けた」などと記述た。
 2017年、「セクハラやモラハラなどによって社会が萎縮すると国益を失うことにつながります」と『新潮45』2017年4月号に「『セクハラ』で社会はおかしくなった」)と投稿。
    2018年、「とにかく女性が『セクハラだ!』と声を上げると男性が否定しようが、嘘であろうが職を追われる。疑惑の段階で。これって『現代の魔女狩り』じゃないかと思ってしまう。本当に恐ろしい。」とTwitterで発言。
 2020年には自民党の会合で、性暴力被害者の相談事業に関し「女性はいくらでもうそをつけますから」と発言。

 う~ん。さすがジェンダー平等後進国の日本だ。
 ちなみに私自身は無党派層で、特に支持する政党を持っていません。「人」で判断し、投票しています。


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