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マイクロアグレッションって何だろう?

 マイクロアグレッション(Microaggression)という言葉自体は、1970年代にアメリカの精神医学者であるチェスター・ピアス氏が提唱したものだ。ピアース氏が当時注目したのは、白人と黒人のコミュニケーションのなかに潜む、無自覚な「けなし行動 put downs」である。
  また、2000年代にコロンビア大学教授のデラルド・ウィング・スー氏がこの言葉を再定義した。同氏は人が無意識の差別攻撃を受けたときの精神的悪影響に関する研究のなかで、マイクロアグレッションを「特定のコミュニティに属しているというだけで否定的なメッセージを向けられる、日常的なやり取り」としている。

 たとえば日本で暮らす外国人(のように見える人)に対して、「日本語がお上手ですね」と言うのは、一見褒め言葉のように見える。しかしその裏には、「外国人(のように見える人)が、こんなに上手に日本語を話せるわけがない」という差別意識が隠れているのだ。

 マイクロアグレッションという言葉を日本語に訳すと、「小さな(マイクロ)攻撃性(アグレッション)」。その意味どおり、一つひとつは見逃してしまいそうなほど小さくても、極めて重大な結果をもたらしかねない「差別的攻撃」なのだ。

 マイクロアグレッションは、差別の一種である。他の差別と異なっているのは、「差別している側にその意識がない」ケースが多く含まれている点だ。差別する側に「差別している」という自覚がない以上、差別的な言動の改善は見込めない。またマイクロアグレッションを向けられた側にとっても、「日常会話のひとつ」として、見逃してしまうケースも多い。

 ただし、ひとつひとつは「マイクロ」であっても、攻撃が積み重なればダメージは確実に大きくなっていく。「自分は受け入れられていない」「よそ者だ」という感覚が大きくなるにつれ、自信喪失・気力の低下・うつといった悪影響を及ぼす可能性も高くなるだろう。マイクロアグレッションが生まれる原因は、無知や思い込み、無意識である。事情をよく知らないまま、思い込みで無意識に発言してしまうことで、相手を不快にさせる可能性がある。

 また社会的マイノリティに属する人々に対して、その経験や感情などを無価値なものとして扱うことも、マイクロアグレッションが生まれる原因のひとつである。社会全体の制度や仕組み、さらに言えばマジョリティに属する人々の無自覚こそが、マイクロアグレッションを生み出す原因なのだ。

 マイクロアグレッションと同様の意味で使われがちな言葉に、「カバードアグレッション(隠された攻撃性)」がある。たしかにどちらも、「わかりにくい差別」という点で共通しているが、両者の間には決定的な違いがある。

 マイクロアグレッションが無自覚で行われるケースが多い一方で、カバードアグレッションは、明確な攻撃性を持ちつつ、それを巧みに隠す差別を指す。差別をする側の考えには、明確な違いがあるのだ。もともとアメリカでアフリカ系でない人々が、アフリカ系の人々を苦しめているようすを見て同氏が「侮辱だ」と捉えたときにできた言葉で、マイノリティに対してちょっとした悪意や偏見を持って行う行動、言動を指す。

 いくつかマイクロアグレッションの発言を例示してみる。
・「〇〇さんはブラジル人だから、サッカーとかやります?」「〇〇さんは韓国人だからキムチ常備してるんでしょ?(笑)」といった文化的ステレオタイプ
・日本に住んでいる外国人(に見える人)に「日本語上手ですね」「お箸使えるのすごい」等と褒める
・会議室に入ってきた男性スタッフと女性スタッフのうち、女性スタッフをアシスタントだと思って飲み物を注文する
・「女の子はオシャレとスイーツが好きだし喜ぶと思う」といった発言をする
・「人間は、外観よりも中身が大事だから」と言ってしまう
・大柄な人に対して、「たったそれだけの食事で足りるの?」と言う

 もしかしたら、私も無意識のうちにマイクロアグレッシブな発言をしているのかもしれない。「先づ隗より始めよ」ということだ。
 



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