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異次元の少子化対策の「異次元」って?

 2024年2月27日、厚生労働省は、2023年の出生数が、前年比5.1パーセント減の75万8,631人だったと発表した。これで8年連続の減少で、過去最少の数になった。国立社会保障・人口間題研究所の推計では23年の出生数は76万2千人となっていた。推計では、76万人を切るのは2035年とされていたというから、少子化は驚くべき早さで進んでいるわけだ。政府は、少子化反転政策にやっきである。「異次元の少子化対策」と銘打っているが、裏金問題が大きなハードルとなり、自民党が自分で自分の首を絞めている状態だ。

 児童手当など経済的支援の強化、学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、働き方改革の推進の3つが主な内容なのだが、より細かく見ると、児童手当の拡充、出産補助金の拠出、高等教育の負担軽減、収入の壁の撤廃(妻が130万円以上稼いでも、妻の特権(保険料なしで被保険者になれるなど)が維持できる)など、「金を出すから子どもを産んで」という施策が中心である。そのために必要な財源は国民全員から集める計画のようだ裏金問題を引き起こしておいて、財源を国民から集めるのはどうなんだろう。いっそ他国のように、議員報酬を無給にしてみたらどうだろうか。

 かなり前から取り組んできたはずの保育の拡充さえ、成果はさっぱり出ていない。第1子が生まれた若いご夫婦からは、「子どもを預けるところがない」という。保育園も職員が疲弊しているのか、昨今やたらと保育園における保育士の子どもに対する不適切な関りが問題となっている。保育に携わる人材が不足している上に、過重な労働現場となっていることは否定できない。保育科のある短大が徐々に閉鎖に追い込まれたり、女子大が共学化の方向にスライドしている実態もある。

 政府はすべきことは自分たちが犯してしまった「不都合な真実」に真正面から向き合って、税金という浄財が国民のためにキレイに使われる施策を考えることだ。日本の政府は完全なる男性社会である。女性は必ずしも「子どもを持つことが幸せ」だとは言っていない。「子どもを授かっても自分らしく社会に参加できる幸せ」を望んでいるのだと思う。

 2022年にイスラエルの研究者オルナ・ドーナトが書いた『母親になって後悔している』がちょっとした話題になった。この本の中かで、「今の知識と経験をふまえて過去に戻れるとしたら、もう一度母になることを選ぶか」という質問に「いいえ」と答えたイスラエルの女性23人にインタビューした内容をもとに書かれている。2016年にドイツで出版されて以降、世界13の国と地域で出版が決まった。
 「子どものために自分の人生をあきらめた」
 「母になることで奪われたものは取り戻せない」
 「向いていないし、好きじゃなかった」
 「もしも別の道を選べるのだとしたら、そうする」
 上記のような女性たちの後悔を日本政府は真摯に受け止めてくれるのだろうかあ。母親になった女性は、上記のような赤裸々な声をおいそれと口に出せない。社会の期待と前提を裏切る気持ちだからだ。子育ては、母親に偏重する、精神的にも肉体的にも重い労働だ。一度母親になったら、悪質な児童虐待を認定されない限り、母親を降りることできない。子どもが思うように育たなくても、一生背負わなければならない役割である。

 子どもを持つ女性の幸福度は、持たない女性より低いという現象は、多くの先進国で見られると、かなり前から指摘されている。たとえば、ある研究者の調査によれば、アメリカでもっとも幸せなのは、独身で子どものいない女性だ。統計上、男性は結婚した方が長生きできるが、女性は未婚の方が寿命も長いという。

 子持ち女性の幸福度は、育児手当や休暇に厚いフランス、北欧の三国では上がるというから、金の問題に日本政府が焦点をあてるのも理由がなくはない。しかし、日本では2000年以降の総合的社会調査(JGSS)において、子持ちの既婚女性の幸福度が子どものいない女性の幸福度を上回ったのは、2003年と2017年の2回だけだ。さまざまな政府の施策にもかかわらず、子持ちの既婚女性の幸福度はほぼ変わらないのに対し、子どものいない女性の既婚女性の幸福度は少し上向いている。簡単に言えば、両者の差は広がっているということだ。

 岸田総理のいう「異次元の少子化対策」で子どもを持つ女性の幸福度が上がるとは思えない。現状では、子どもの稀少化は、子育てをよりいっそう困難にしつつある。子どもを育てにくい社会構造になってしまっていることを政府はもっと認識すべきだ。子どもを大切に育てようとすればするほど、子どもを持つ夫婦にとっては高額な支出と、息の詰まる生活が約束された社会になっているということを政治家にわかってほしい。

 ちなみに辞書で調べてみたところ、「異次元」とは「高次元的に存在可能な別世界」のことだ。政府のいう「異次元の少子化対策」はどこの別世界に存在するのだろう。

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