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知らなかった! 日本に埋められた枯葉剤があったなんて…

 前回に続き、枯葉剤の話である。調べていたら、なんと日本国内の国有林の54か所に枯葉剤が埋められている場所が存在することを知ってしまった。    
 ベトナム戦争の対ゲリラ作戦で米軍が撒いた枯葉剤の成分となる薬剤は「2・4・5T剤」(以下、245T)である。枯葉剤はベトナムの森林を死滅させただけではない。残留するダイオキシンが、ベトちゃん・ドクちゃんに代表される強い催奇性の毒性を持ち、前回書いたように、現在もベトナムの多くの人たちに障害を与えていることが明らかになっている。

 「ここに薬剤(2・4・5T)が埋めてあります。定期的に植物の状態を観察していますので立ち入らないで下さい」

 石畳の遊歩道脇に「立入禁止」の看板が控えめに立っていた。現場は市街地からも近い「憩いの森」として住民に親しまれている。この森の一角に約3.8tの245Tが埋められたのは1972年。10m間隔で13個の穴の底にビニールを敷いて薬剤を置き、その上にセメントを流してビニールで覆い、土に埋めたという記録がある。その後1985年に上部のみ生コンで覆ったというが、本当かどうかは誰も確かめられない。

 そういった埋設地が、全国の国有林に現在判明しているだけで54か所もある。埋められた薬剤の総計は粒剤(顆粒状の薬剤)が2万5062kg、乳剤(液体状の薬剤)が2132リットル。現在は林野庁の職員が年2回、足を運んで視認するだけだ。

 旧日本軍の化学兵器に詳しい原田和明氏は語る。
「実は、日本も米軍の枯葉作戦に中間製品の供給という形で協力していたのです。ニュージーランドやオーストラリアで加工され、最終的にベトナムに運ばれていました。」
 国内で生産を担ったのは、戦前毒ガス原料の中間剤を製造していた三井東圧化学(現三井化学)の大牟田工業所だ。国会で枯葉剤中間製品の製造が暴露された際、内需がなかったことからベトナムでの使用が疑われた。そこで内需を無理やりひねり出すため、林野庁が一部の245Tを除草剤として散布し始めた。

 ’60年代から’70年前後までに散布された薬剤の量は、枯葉剤生産時にできる副産物の塩素酸ソーダが5280t、245Tも570tに上る。ところが1971年4月にベトナムでの枯葉剤作戦が中止されると同時に、ネズミの研究で胎児の奇形が指摘されたことなどから、林野庁も245Tの使用を中止。6割余りはメーカーに返還したが、残った分は処分法がないとして、17道県50市町村の国有林に埋めたと説明している。このとき不要になった薬剤が行き場を失い、全国の国有林に埋められた。

  埋設方法について林野庁は当時の営林局に対し、除草剤と土、セメントを混ぜてコンクリート塊にし、厚さ1メートル以上の土をかぶせることや、できる限り水源から離すよう通達していた。その後、コンクリで固めず埋めるなど通達と異なる方法が愛媛県内で取られていたことが愛媛大学の調査などで判明。各地で類似ケースが判明し、一部は撤去された。林野庁の通達前に各地の営林局が独自に埋めたケースが多かったという。

 大分県に配属されていた元林野庁職員が当時の様子を振り返って語った。
「245T散布の際、講堂に職員が集められて講習会が開かれ、『地域住民から聞かれたら人体には影響がないと言え』と指示されました。『塩素系の薬剤で、原料は塩と同じだから人畜無害』と、メーカーから派遣された社員が実際に薬剤を舐めてみせたことも。国有林に埋めたら、もう誰にもわからない。林野庁は『犯罪の予防等』を理由に明かさないからです。」
 宮崎県の民間団体がまとめた資料には、散布に従事した職員10人のうち肝臓がん、肝機能障害、肺がんで死亡した者が7人いるとの記述があるが、実態は不明だ。

 ベトナム戦争後、行き場を失った“枯葉剤”が埋められた全国54か所の国有林リストがネット上に公開されている。
【枯葉剤の埋設処理状況】
<北海道>
 1.北海道夕張市 2.北海道遠軽町 3.北海道広尾町 4.北海道音更町 
 5.北海道清水町 6.北海道標茶町 7.北海道本別町
<東北>
 8.青森県中泊町 9.岩手県久慈町 10.岩手県野田村 11.岩手県雫石町
 12.岩手県岩泉町 13.岩手県宮古市 14.岩手県西和賀町 
 15.福島県会津坂下町
<関東>
 16.群馬県東吾妻町 17.群馬県昭和村 18.山梨県甲府市
<中部>
 19.愛知県設楽町 20.愛知県豊田市 21.岐阜県下呂市 22.岐阜県下呂市
<中国・四国> 
 23.広島県庄原市 24.愛媛県西条市 25.愛媛県久万高原町 
 26.愛媛県宇和島市 27.愛媛県松野町 28.高知県四万十市
 29.高知県四万十町 30.高知県いの町 31.高知県大豊町 32.高知県安芸市
 33.高知県土佐清水市
<九州>
 34.佐賀県吉野ヶ里町 35.長崎県五島市 36.熊本県熊本市 
 37.熊本県宇土市 38.熊本県芦北町 39.大分県玖珠町
 40.大分県別府市 41.宮崎県日之影町 42.宮崎県西都市 43.宮崎県宮崎市
 44.宮崎県宮崎市 45.宮崎県小林市 46.宮崎県小林市 47.宮崎県都城市
 48.宮崎県串間市 49.鹿児島県肝付町 50.鹿児島県湧水町 
 51.鹿児島県伊佐市 52.鹿児島県伊佐市 53.鹿児島県南九州市
 54.鹿児島県屋久島町

 林野庁は地域の安全に問題はないとしているが、近年は記録的な豪雨が全国で多発し、土砂崩れが相次いでおり、除草剤の流出などを懸念して、撤去を求めている県や市町村もある。
 こんな危険なものが埋められている真実を知っている国民はどれだけいるのだろうか。

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