10月18日から始まるハリウッドの裏方15万人のストライキについて

 このままだと来週からアメリカ・カナダで製作されるネットフリックスを含めた映画・ドラマの撮影が止まってしまうようです!

 カナダで美術部として働いている友人からこの記事のリンクをシェアされました。

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「労働環境改善の交渉が決裂した場合、アメリカ・カナダで映画やドラマ製作をしている裏方15万人のストライキを認める」

という投票で有権者6万人のうち98%が賛成したという内容でした。

 すぐに日本の映画・ドラマの現場でアシスタントや監督をしている友人にこの話を聞いたことがあるかと聞くと誰も知らないとのことでした。なので今回この事態について、自分のわかる範囲でまとめてみることにしました。
結論から言うと以下のようになります。
 IATSEという映画製作の裏方のための労働組合が、①休憩時間の確保、休日の増加などの労働環境改善、②引退後の福利厚生の改善、③賃上げをAMPTPに要求しています。
 AMPTPという映画スタジオやストリーミングサービスのプロデューサーの同盟は、それに対してIATSEがもっと妥協すべきだと反対しています。
 このまま来週の月曜日10月18日の0時になった場合、IATSEの128年の歴史上はじめて、15万人の裏方がストライキを起こすという段階のようです。


 ここで日本の映画の現場で働く友人たちに話しをすると、ネットフリックスは日本だとモラルの勉強会をしていて評判はいいし、アメリカの映画スタジオも労働環境がしっかりしていると聞いていたけど、労働環境が日本よりも良いと思っていたアメリカで、なぜ対立が起きているのかと疑問が浮かんできました。
 この対立の背景になった事情も調べました。今まで放置してきた長時間の労働環境と、コロナが関係していたようです。
 1 まず労働環境について
 今年の5月から始まった交渉で、IATSEは2021年に入ってから1日14時間以上の労働の報告が50件もあったと話をしています。
長時間撮影をするために、昼食時間を削るように言われる現場が増えているといいます。
 8月にはLocal 600というアメリカ・カナダを中心としたカメラマンのための労働組合が、以下のような報告をAMPTPにしています。

「長時間労働による倦怠感により、自動車事故が頻発している。」

 報告には100名のカメラマンの署名があり、ロジャーディーキンス、エマニュエルルベツキ、エリックメッサーシュミットなど受賞歴のある有名な撮影監督が名を連ねています。
 実際に、記事では2014年に発生したカメラアシスタントの死亡事故が紹介されていました。

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 2 コロナについて
 パンデミックによってストリーミングサービスの加入者が増加し、ネットフリックスなどは大きな利益を残すことができました。その利益が裏方に分配されていないことが1つの対立の原因でした。
 IATSEとAMPTPは2009年に結んだ契約に基づいて、労働者への賃金を決定していたようです。2009年当時、ストリーミングサービスはまだ経営基盤が安定しておらず、大手スタジオと同様の賃金を要求することはしませんでした。賃金を割引して、業界としてストリーミングサービスを伸ばしていこうという意図だったようです。当時のネットフリックスの広告は、「DVDをスムーズに自宅まで届けます」という内容で今とは異なるビジネスでした。
 そしてコロナになり、契約者が増加しました。ネットフリックス製作の映画やドラマが伝統的なスタジオの映画の売り上げを超えることもでてきました。その中で、ストリーミングサービス製作のプロジェクトに賃金を割り引く契約は見直すべきだということでした。


 なぜこのタイミングでストライキなのかというと、2つの団体は3年に一度、夏に契約を見直すことになっていたようでした。通常は7月中には問題なく合意できていたようでしたが、今回はそれが現在まで至れていない状況だということです。その結果ストを行うかどうかについての投票を10月1日から3日に行い、組合員の意思を確認したという経緯でした。
 しかし、AMPTPはその投票によってIATSEが交渉力を増したと考えずに、今までの姿勢を変えずにいるようです。

 実際にカナダでIATSEに加入している友人とカリフォルニアで組合に加入してない友人から話を聞きました。ハリウッドスタジオとネットフリックスでギャラが違うかというと、その人のキャリアや撮影地に応じて異なってくるから一概には言えないようでした。
 クルーの関心を集めているのは、長時間労働の環境改善ということでした。子供を育てたり、家族と過ごす時間を持ちたいと考えている組合員は多いとのことでした。福利厚生に関しては、カナダは国の制度があるのでましだが、アメリカのほうがひどい状況だろうとのことでした。
 来週からストライキが起きれば、組合員としてはそれに従うしかないとのことでした。組合非加入の場合でも、もし撮影に参加すれば組合のブラックリストに載せられて仕事ができなくなる状況のようです。


 最後に、ドラマの撮影が終わり休憩中の友人にこの話をすると、「でもアメリカ人が14時間の労働で文句を言っている理由がわからない」といいました。私はCMやドキュメンタリーがメインですが、昼食の時間が欲しいと要求なんてしたら日本では信用を完全に失うという彼の意見には賛成です。特に自分がアシスタントだったなら、その場で首かもしれません。仕事を得るための個人事業主間の競争力の多くが長時間労働からきている現実はあると思います。昼食の時間が無くなるぐらいはいいですが、寝不足による帰り道の交通事故で死亡につながる危険性があるというのは重要な視点だと思います。亡くなるのは多くが下っ端の人間のようです。
 より良いポジションを目指し長時間労働をする自由がある一方で、交通事故は重大ですし、仕事と子育てや家族との時間を両立させたい人の環境改善の重要性も理解できます。特にCMと違い、何か月も同じ状況下で働く映画・ドラマの撮影現場の長時間労働は、相当に大変だと思います。アメリカやカナダではこういった団体が交渉を続けていくことで、現場で働く人々がどこにその線を引いていきたいのかがこれから見えてくると思います。

 カリフォルニアに住む友人は、こういっていました。

The hope is if we get our demands maybe other unions around the world will join.

 日本にはどういう影響が生まれるのでしょうか。来週ハリウッドが止まるかもしれないというとても面白い時期なのに、日本でこの話を聞かないので紹介させていただきました!



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